〔駆動〕
正義の〔才能〕、〔右肘のロケットブースター〕には幾つか大きな欠点があった。
まず基本的な身体能力が強化されているとはいえ、正義は生身であること。
噴射炎の出力をコントロールすることが出来ず、ただ〔ON〕と〔OFF〕しかないこと。
そしてその出力が〔通常噴射〕においても尋常ではないこと。
つまり、
『やばい!これ最悪でも死亡!最高でも死亡だあああああ!』
右腕を腰ダメにして噴射口を背後へ向けて固定、左手でそれがおかしな方向に向かないよう押さえつけた正義は周囲の景色が霞むほどの速度で走りながらそう思った。
つまりこの〔才能〕は、使うことでほぼ確実に正義に〔怪我〕もしくは〔大怪我〕をさせるほど危険なのだ。だから正義はチヒロに〔才能〕の詳細を聞かれたとき、彼女を心配させると思って答えることが出来なかった。
さらに、
『か、顔も絶対やべええええええええええええええええ!』
正義が〔駆動〕と名づけたこの使用法は顔面の肉が空気の壁に当たって波打ち、凄まじい変顔になる。それは上京してくる前段階から正義自身が行った〔自主練〕で実証済みであり、
しかし、
「知ったゃことょきゃわわわわあああああ!」
正義は風圧で歪んだ顔でそう叫んだ。ロケットーブースターを押さえきれず幾度もその轟炎で火傷を負い、おかげで円藤の作った炎に怯まなかった左手を必死に固定する。置き去りにされそうなスピードに死に物狂いで足を動かす。
なぜなら正義は見たのだ。
〔あの日〕見たのと同じ感情を宿した瞳を。
それだけで少年の身体は当然のように動いていた。
それは、
『〔無視しない〕!』
ただ〔無視される〕恐怖を知り、それだけはしないという信念の下に。
そして目の前に女の子の姿。しかし空からは疾走途中でバラけた恐ろしい鉄骨の影が迫り、
ついに、
「あ」
正義はこけた。
しかし、
「のおおおおおおおおお!」
自分の身など省みず、女の子に向かって両手を伸ばす。
「セイギ!」
チヒロの叫び声を、鉄骨の奏でる轟音とロケットーブースターの作った灰と白の爆煙が圧した。
そしてやっと気づいたようにチヒロの足が動いた。
「セイギ!?」
濛々と立ち上る粉塵を掻き分けて事故の中心へと飛び込み、必死にその名を呼ぶ。




