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いなかったことにする者

「ふざけんな!お前、お前俺をハメやがったな!?」



 言葉と同時、声の主に突き飛ばされた正義の身体が背中から人気のない校舎裏の花壇に突っ込んだ。



「ち、違う!僕は不和君とは別に・・・!」



 校舎の影に包まれた花壇から必死に身を起こした正義の襟首を掴む左手。さらに顔面に押し付けられるライター。使われていない第3自転車置き場を背景にキツイ香水の匂いを漂わせた男の名は円藤。



「お前、ホントは不和の手下なんだろ!?俺が〔腐ったヤツ〕だって、アイツにチクるんだろ!?」

「な、何を言って・・・?」



 正義は本当に円藤が何を言っているのかわからず、戸惑うばかりだった。

 しかし、



「しらばっくれるな!お前はアイツが中学の時何をしてたか知ってるんだろ!?それで絡んできた俺を、アイツを使って潰そうってんだろ!?」

『不和くんを使って円藤くんを潰す?』



 なぜかそんな恐怖を抱いているらしい円藤は正義の言葉に耳を貸そうとはしなかった。



『不和くんは、中学生の時に何を?』



 疑問を解決する答えはなく、しかし一つだけ正義は気づく。



『円藤くんは何か勘違いしてる』



 正義はそう感づいて、



「そんなことしない!だから話を・・・!」



 しかし、



「お前を、お前を黙らせれば俺は助かるんだ!」



 ボシュ!



 恐怖に我を忘れた円藤がライターの先端にバレーボール程の火球を作り出し、正義に向けてそれを振りかぶった。正義は反射的に火傷の目立つ左手を伸ばし。



 ボジュウウウウ!



 そんな音を立てて正義は火球を握りつぶした。驚く円藤に、正義は〔火に慣れている理由〕を語ることはしない。その代わりに、話を聞いてくれと叫ぼうとした。

 瞬間、



「十分だ」



 安心させる言葉とは裏腹な冷や水のような声。円藤の右手を掴んだ鉄色の五指が、背後を振り返ろうとした円藤を持ち上げ、



 ガァン!



「ゲハ!?」



 円藤が鉄色の右手を持った少年に投げ飛ばされ、自転車置き場に止められた放置自転車に背中から突っ込んだ。

 光景に目を見開いた正義が顔を上げる。

 フレームレスのメガネを鉄色の右手で押し上げ円藤に迫るのは、〔才覚高校〕風紀委員長の青山だった。苦しむ円藤に、青山の足が持ち上がる。



 ドス!



 それは青山の靴の先端が円藤の鳩尾を抉る音だった。声に出ない苦鳴が円藤の口から漏れ、しかし、



 ドス!ドス!ドス!



 無言のまま、青山の足が容赦なく優男の腹や肩に刺さった。

 正義の身体は突然の事態に動かない。

 しかし、



「助け、助けて・・・許して」



 無様にも涙と涎を流した円藤が、誰に向けたともわからない声を出す。

 さらに正義は見てしまった。

 青山の目を。

 見覚えのある色の瞳。

 円藤という存在を〔いなかったことにした〕者の瞳を。

 だから、



「だ、だめだ!」



 正義は青山の足にしがみついていた。

 冷や汗を流して後ずさる円藤。邪魔をされた青山の刃のような眼差しが正義に突き刺さる。

 だが、



「彼は、円藤くんは僕を攻撃しようとしました!」



 青山と円藤を驚かせる言葉、行為とは裏腹な告白を、正義が放った。


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