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吸引力は変わらない

「ど、どうした?えーっと、不和君?」

『え・・・?』



 正義はそこでやっと顔を上げた。すると一瞬だけ金の三つ編みの巨漢、不和と目が合う。彼はすぐに教師に向き直ると言った。



「縁之下君が教科書フォーリンラブしたみたいなんで、リッスントゥーミーしてやっていいすか?」



 教師は不和の不可解なフェアリーテイル語をなんとか理解し、



「あ、ああ。構わないが」



 そう頷いた。



「グッドラック!」



 まず正義は思った。



『・・・フォーリンラブ?リッスントゥーミー?グッドラック?』



 と。次に段々と不和の言葉遣いに慣れてきた正義は思った。



『・・・そうか、僕が教科書を〔忘れた〕みたいだからから〔見せて〕やるってこと?最後はサンキューと間違えたのかな?』



 と。

 そして正義は、



『ノーセンキュウウウウウウウウウウ!』

 と思った。





『なぜこんなことにいいいいいいい!?』



 正義は4時限目の授業を受けながら内心でそう叫んだ。

 今の自分の状況を端的に表してみると、こうだ。



『隣の席の不和、正義と教科書と筆記用具を仲良く使ってばかやろおおおおおおうう!?』



 つまり正義は不和と机をくっつけて授業を受けていた。

 まだ高校生活が始まって二日目だが、正義は現在3つの窮地に立っている。

 1つは陰湿な優男に目をつけられたこと。

 1つは他のクラスメイトから早くも敬遠され始めている恐怖の象徴・不和と仲良く授業を受けていること。

 1つはその不和にそもそも正義自身が目をつけられていることだ。

 つまり、



『怖えええええええええええ!』



 正義はかつてないほどの恐怖を至近距離に抱えたのだ。

 そして疑問も一つあった。

 それは、



『そもそも僕を〔腐った奴〕だって言って、敵視してたはずなのに?』



 しかし誰かが答えてくれるはずも助けてくれるはずもなく、結果、



『何かある!?多分おそらく絶対僕のあずかり知らぬ策謀や謀略があああああ!?』



 そんな妄想の恐怖に押しつぶされそうになりながら、正義は授業に集中することで必死に自我を保とうとした。教師が黒板に書いていく文字の列を、必死になって写し取る。

 が。

 正義の使っていた不和の所有物、なぜかかなりガーリィでフェミニンなピンクの花柄シャープペンシルの芯が少年の緊張の振動で折れた。動物の本能に従って、飛び行く芯を反射的に視線で追った正義は。



 フシュ。



 そんな音を立てて、シャーペンの芯が不和の鼻の穴に吸い込まれたのを見た。



『花柄から鼻の穴にストライクだとおおおおおおお!?』



 ガクガクと顎を鳴らしてしとどに汗をかく正義が『死んだぜマサヨシいいいいい!ひゃはああああああ!』というトチ狂ったツッコミを入れていると、不和が。



「ん?ふぉんぐ!」



 鼻に感じた違和感つまりシャーペンの芯を鼻水をすする要領で一気に吸い込んだ。



『吸引力の変わらないただ一つの掃除機いいいい!?』



 正義がやや分かりづらいツッコミをいれている間に不和は何食わぬ顔で授業を受け続け、



『気づいてない!助かったああああ!』



 と、正義がそう思って安堵したのが間違いだった。


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