クラス替えと席替えは人生の賭かった公共のギャンブル
〔才覚高校〕の構造は至ってシンプルなものだった。
まず西側に正門、正面グラウンドがあり、北西の角に体育用具が納められた倉庫がある。
さらに王の字を横にしたような形の校舎が東に向かって伸び、その先には運動系の部活動が行われる専用グラウンド。それらを囲む植樹と塀が全容と言っていい。
そして時は入学式翌日の朝。
相変わらず右腕を包帯で吊った正義はこれから自分が勉学に励む場所、正面グラウンドに面した第1校舎の1階にある1年1組に初めて足を踏み入れた。北に黒板、西に窓辺を持つ室内には幾人も生徒が登校してきており、〔才能〕という共通点を持つ彼らはすでに幾つかのグループを作って談笑している。
そしてなぜだか正義の席であろう場所を中心に男女数人のグループが楽しげに話していた。
だから早速正義は、
『どうして僕の席に他の人が座ってる?』
『机の中にもう教科書とか入ってるし』
『ま、まさかすでに僕はハブられているのかああああああ!?』
というやや行き過ぎた疑問の三段変化を決めて、正義は恐る恐るグループの中心にいた少年に声をかけた。
「あ、の・・・」
「え?何?」
スポーツマンの様子を漂わせたシッカリした体躯の少年だった。涼やかな声でそう聞き返され、同時に取り巻きの数人からの注目を浴びて萎縮する正義。だがこのまま黙っていても埒があかないので、正義は勇気を振り絞った。
「そこって、僕の席じゃ・・・」
一瞬スポーツマン少年の顔に疑問が浮かび、次に笑顔と答えが正義に告げられた。
「ああ、昨日いなかった人だよね?ホラ、黒板見てみなよ?」
「え・・・?」
スポーツマン少年に言われた通り、正義は視線を黒板へと向けた。そこには教室内の机と同じ配置で四角い枠が書かれており、その枠の中にはクラスメイト全員の名前が書きこまれていて、
「なんか今朝〔神さん〕が席替えしたらしいよ?名前順じゃ面白くないだろうからってさ」
スポーツマン少年の補足で正義は事の成り行きを察し、緊張で強張った肩から力を抜いた。
親切なことに「名前なんて言うの?」と聞いてきたスポーツマン少年は、「縁之下ですけど」と名乗った正義に「あそこの席だね」と昨日作られたらしい席の名簿まで示してくれた。正義は小声で礼を言い、今度こそ自分の席、教室の一番後ろの窓際の席に向かった。
同時に、
『やった!こんな良い席だなんて!』
教師との距離が近い前の方の席だったならば、いつ「お前答えてみろ」と言われるかわからない。だから目立つのが嫌な少年は影の薄い席をいつのまにか確保できていたことに内心で歓喜した。
そして、『昨日の行いがよかったからかな?』などと正義が少し浮かれながら教科書や筆記用具を準備していると、
「ねえ君?昨日の朝〔熊殺しの不和〕に絡まれてた人だよね?」
一人の少年が声をかけてきた。