どうしたの?
慈しみと柔らかさをもった眼差しで、少女、チヒロが微笑んでいた。
少年は、激しく動揺した。
大きな違和感を感じた。
だからそれを口に出す。
「ど、どうしたの?」
「何が?」
「お、怒らないの?」
その言葉にいつも正義を責めていたチヒロが、なぜか傷ついたような顔をした。そして、
「お、怒らないよ?」
と、少しぎこちなくそう言った。それに納得がいかない正義はさらに言い募る。
「だ、だっていつもだったら僕に・・・」
「た、確かに失敗はしたよ?で、でも、その、いいの」
「い、いいって・・・」
そして、
「い、いいったらいいの!」
チヒロがついに怒った。
「ご、ごめん!」
だから正義は謝った。するとまたチヒロが苦しそうな表情になり、正義は混乱する。
「どう、したの?」
「・・・違うの」
問いかけにチヒロが俯く。
「ゴメンね。そりゃそう思うよね。私が言ってきたことだし、ね・・・」
チヒロの言葉が途切れ、詰まる。
正義には、その理由がまるでわからない。
だが、
「チ、チヒロ姉は何も悪くないじゃない」
そう言った。
「つ、次は気をつけるから。その・・・」
それ以上は上手く言葉が出てこなかった。
しかし、
「・・・ありがと」
正義のただチヒロを心配する気持ちが彼女に笑顔を与えた。
だから、
「い、行こっか?」
「うん!」
正義は疑問を抱えたまま、持ち直したらしいチヒロと一緒に帰路につく。
それから正義は帰宅するまでに必死にロケットブースターを誤魔化す言い訳を並べ立て、チヒロが自宅に侵入しようとするのを防ぐのに精一杯になった。
だから彼は気づかなかった。
その一部始終を巨大な体躯を持つ男にずっと見られていたことに。