破られる沈黙と訪れる静寂
そしてこれにはどうやら巨漢も驚いたようで、
「〔正義部〕の、ジャスティスマスク2号、だと・・・?」
と一歩を引いた。持ち直した正義も『〔正義部〕ってそもそもなんだ!?そしてどこの誰がそんな部の部長をやっているんだ!?』とツッコミ、不和がそれらの疑問を解消してくれることを期待した。
しかし、
「敵ながらなんと素晴らしいネーミングセンテンスを持っていやが・・・」
言葉の途中で、期待を裏切られた正義のツッコミ忍耐が限界に達した。
だから、
「そこは関心するとこじゃないだろおおおお!?そしてセンテンスじゃなくセンスじゃないのおおおお!?あと誰かお医者様はおられませんかあああああ!?重症ですう!この人達重症ですうううううううううううう!?」
正義はついに大きな声でセリフをかぶせ、ツッコんだ。
そして、数秒。
静まり返った、校庭。
無音と沈黙に満たされた、空気。
つまり、
『僕がすべったみたいになったああああああああ!』
うなだれる正義をチヒロと不和すら、
「・・・え、ええっと、引き下がってはくれないのかな?幾ら活動の主体が人助けの〔正義部〕でも、この空気はちょっと・・・」
「・・・お、男が一度始めた喧嘩、引けるわけがない。こ、この空気でもな」
と遠まわしに正義を責めた。そしてやっとチヒロが正義に振り向いた。
『そうだ、いつだってチヒロ姉は僕の味方に・・・』
正義がそう思い顔を上げた先には、
「あの、セイギ?その、うん、悪くないツッコミだったと思う、よ?」
そっぽを向いて目を泳がせる気まずそうな少女がいた。
『引いてるううううう!目を、目を合わせてくれチヒロ姉ぇぇえええ!?』
助けに現れたらしいドン引き級の変態仮面にまでドン引きされ、正義は彼女にすがりつこうとした。
しかし、
「や、やめて!」
思わずといった感じでチヒロが繰り出した拒絶の掌底を顎に食らった。
意識が飛ぶほんの一瞬の間、正義は〔縁之下家・鉄の掟〕の一つを思い出していた。
曰く、
『スベッた者には近づくな。近づくようなら薙ぎ払え』
よく正義の実家に遊びに来ていたチヒロがそんな家風を律儀に身につけてしまったことを身を持って悟り、正義の意識はブラックアウトした。
そこへ、
「何の騒ぎでしょうか?」
陽光に光るフレームレスのメガネ。雰囲気だけでも上級生とわかる落ち着いた様子の男が割り込んだ。彼の細い長身を見止めたチヒロが声を上げる。
「可愛い後輩をかばっただけですけど?」
今までの調子とは打って変わり、凍えるように冷たいチヒロの声とまなざし。しかし対する少年は小揺るぎもせずメガネにかかった鉄色の髪を指先で払う。
「揉め事の処理は僕ら風紀委員の管轄ですが?」
「あのね青山委員長?うちのセイギが殴られてからじゃ遅いと思わない?ああ、そっか。つまりセイギを使ってお得意の〔刈り〕ってこと?」
「でしたらなんだと?」
仮面の少女と青山と呼ばれた少年の間の空気が軋み、無言の圧力が周囲を圧した。周囲の生徒達の多くが身を縮め、大柄な不和すら一歩を退く。
しかし、
「セイギと私がいる限り、アナタの思い通りにはならないよ」
そう吐き捨ててチヒロが青山少年に背を向けた。同時に圧力が霧散していく。
そしてチヒロは不和の方を向き、
「うるさいのが来たから、ここは一旦おあずけにしてね?用があるなら2年4組の虹村チヒロを訪ねてね?」
最後に気を失い、勝手に巻き込まれたことも知らない正義の襟首をひっつかんで校庭を去った。