高校デビューは鮮烈に
そこへ近づく大きな影。
「お前えええええええ!?」
少女に投げられ、地面に擦った顔面が満身創痍な不和が裏声と共に戻ってきた。この状況では初心な正義の救世主はむしろ彼のほうだが、未だ危害を加えようとする彼を応援することも出来ず、メガネの少年は動けなくなってしまった。すると一度を顔を俯けて、ゆっくりと、チヒロがそちらへ振り返った。
「何?」
言葉は実にシンプルなものだった。
だがそれが内包したエネルギーは莫大だった。
不和と周囲の生徒達、校舎自体をガタガタと震わせ気圧すほどの怒気。
どうやら少女は邪魔されたことが気に入らなかったようだった。
彼女に背後に庇われた形の正義は『アレを正面から見たら死んだな僕』という感想を恐怖の生唾と共に飲み込む。再びチヒロが口を開く。
「何かって聞いてるんだけど?」
押し殺した声音に気丈にも不和が口を開く。
「あ、その、こういう場所でそういうことをするのはちょっと・・・」
完全に萎縮してしまった巨漢がもじもじしていると、近づいてきたチヒロに髪を一束鷲摑みにされた。
「だから何なの?ホラ、ねえ」
「や、やめて!フェ、フェアリーテイルだけは!私のキューティクールが!」
その光景に正義は、『あ、髪の毛触られてると女口調なんだ。そしてキューティクルね』と最初に猫に襲われたときの不和の妙な悲鳴の原因を突き止めつつ冷静にツッコんだ。
そして、
「って違ああああう!」
やっと不和が持ち直し、チヒロの手から髪の束を引き抜き、
「お、お前誰なんだあ!?あああ!?」
と羞恥を誤魔化すように語尾を裏返らせて叫んだ。するとその質問が奇跡的に少女の機嫌をとったようだ。「朝からセイギを待っててよかった」と小さく呟いたチヒロは背後の正義にもわかる笑気を放出し、
「私は〔正義部〕副部長、ジャスティスマスク2号よ!」
不敵な笑みでそう言った。
そしてほんの一時の間を挟んで、
『これが高校デビューというヤツですかああああああああ!?』
あまりの驚愕にもうどこからツッコんでいいのかわからなくなった正義は一人ガクガクと顎を鳴らしてそう慄いた。