無
小学校。放課後。帰り支度を始める生徒達。
その中に、
「え?健ちゃんってハルカが好きなんじゃないの?」
『違うよ春馬くん。健ちゃんはね、穂波ちゃんが好きなんだ』
「やだ~、言ってないってぇそんな寝言!」
『そうだっけ?ううん、言ったよ。先生は気づいてなかったけど、お腹いっぱいって言ってた』
「よっしゃ!行こうぜ!?今日こそあのボス倒すぜ!」
『あのボスはね。怒ってる間は攻撃しちゃ駄目なんだ。緑になるまで待ったほうが楽に倒せるんだよ?』
「ああ!待ってよお!置いてかないで!」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
ランドセルを背負い、心の中だけでツッコミを入れたメガネの少年は、どこにもいなかった。
河川敷。夏の夕日。土手沿いの通学路。
「だからあそこは西村に交代するべきだったんだよ!?監督わかってねぇって絶対!」
俯いて帰路につく、メガネの少年。
その前を、3人の少年が大声で話しながら歩いている。
ダラダラと歩く彼らに、メガネの少年の歩みが追いつく。
ドン。
「痛っ!?」
「あ・・・」
メガネの少年が、大柄な少年の背にぶつかった。
3人の少年が、小さく声を上げたメガネの少年を見る。
『美倉くんと、安西くんと、菊池くん、だ』
そして、
「俺もそう思うね!だって後半慌てて出してたしな!」
「え~、そうかなあ!?アイツ体力ないから温存してたんじゃない!?」
3人の少年は再び歩きだした。
「ま、待って、よ」
少年は、小さく、しかし確かに言った。
そして、
「馬鹿、ちげぇって!やっぱアレは采配がだなあ!」
クラスメイト達は、行った。
振り返りもせず、行った。
代わりに、メガネの少年は立ち止まった。
『僕は・・・』
少年は空を見た。
ぼんやりとした、光のない黒い瞳。
それは死人の瞳。
『僕は、どこにいるの?』
そして、
「にゃ~」
5分後。同じ場所。猫の鳴き声。
カウントダウン、スタート!
〔運命〕となる出会いまであと10秒!