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ある脇役の英雄譚  作者: 小元 数乃
勇者の友人編
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6話

「はぁ……なんでこんなことになったんだ?」


「縁ってやつじゃないかしら!! よかったじゃない!! こんな美人に付きまとってもらえるんだから~♡」


「……チェンジで」


「この世界にもあるんだ……」


 場所は南門警備隊詰所。城壁でそんな風に夫婦漫才を繰り広げるアリサとヴァイルを、クスクスと笑いながら、荷物検査を終えた商人たちは通り抜けていく。


 そんな光景に嘆息をしながら、ヴァイルは執務室でやったやり取りのことを思い出していた。




…†…†…………†…†…




「で? 何の用だ、コラッ?」


「命の恩人に向かってずいぶんな口のきき方ね? もちろん私の魔法の練習に協力してもらおうと思っただけよ」


「ふざけんな!! 俺は今から仕事だ!!」


「いつもさぼっているお前が言うと説得力がなさすぎるな……」


 結局勇者の友人の一声によって退散した騎士団長を除き、サーシャの執務室では三者三様の言葉が激突し、カオスを作り出していた。


 ……要するに揉めていた。


 これ以上貴族の厄介ごとに巻き込まれたくないヴァイルは全力でアリサを追い出そうとする。しかし、アリサも手段を選んでいられる状況ではない。このままでは貴族にいいように利用されるのは必至だからだ。


「大体、なんでこんなところに来てんだよ!! 騎士団長よく許可出したな!!」


「『わたし~城壁警備隊見に行きたいの~ダメ?』って感じでぶりっこしながら聞いて、後ろの勇者を配置したからね~。勇者の友達の願いを無碍にするわけにもいかないでしょう?」


「お前の腹黒さは貴族も真っ青だ!!」


「や~ね。ほめても何にも出ないわよ?」


「ほめてねぇよ!!」


 そんな二人の平行線上の言い合いに閉口したサーシャは、小さく嘆息したあと、


「やめんかこのバカどもがぁああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 思いっきり怒鳴りつけた。


「「っつ!?」」


 サーシャのあまりの声量に耳を抑えるヴァイルとアリサ。そんな二人を一瞥した後、サーシャはため息交じりに命令書を与えた。


「ヴァイル・クスク。貴様に三週間の特別任務を言い渡す!!」


「その言葉にトラウマが刺激されます!!」


「三週間……王宮賓客『富阪アリサ』の世話を命じる。騎士団長直々の命令だ。拒否権は我々にはない」


「!?」


 あわててアリサに視線を戻すヴァイル。そして見つめられたアリサは、あさっての方向を向きながら下手な口笛を吹いていた。


 何とも古典的な反応を示すアリサに、ヴァイルは思わず顔を引きつらせる。


「おまえ……騎士団長に命令させるとかどんだけ!?」


「あの人黒いうわさ絶えないからね~。ほんのちょっと本気だして調べたらあっという間に弱み握れたわ」


「……」


 こいつもしかして腹どころか全身が真っ黒なんじゃねーの? と、アリサの笑顔に底知れない恐ろしさを感じて、ヴァイルはツツッと冷や汗を流した。




…†…†…………†…†…




 と、まぁ、そんなわけで南門へと連れてきたのだが……。


「まぁ、命令されたからには仕方ない。とりあえずどこまで収束できるようになったか見せて見ろ」


 ヴァイルは、先ほど部下から上がってきた積み荷の報告書に確認のサインを入れながら、商人に通るように指示をだす。そんなふうに、珍しく真剣に仕事をしながら、ヴァイルはアリサにそう指示を出した。


 そんなヴァイルにアリサはにやりと笑い、


「ふふん!! 括目するがいいわ!! 私の才能に!!」


 と、なにやら自信満々に言ってきており、


「ハイハイ……」


 ヴァイルは三白眼になりながらその言葉を受け流した。


 なぜなら、魔法の体得は簡単なものではないからだ。才能があるといわれたゲイルですら魔法の完全習得には4カ月かかった。昨日今日で劇的な変化が訪れるわけがないと、そうタカをくくっていた。


 だが、


「はぁっ!!」


 何やら仰々しい気合いを入れて、右手に魔力を集中させ始めるアリサ。額には汗を浮かべ、目は完全に閉じている。集中していますよ~といわんばかりの顔で掲げる彼女の右手には、


「おいおい……うそだろ?」


 昨日ヴァイルが見せたような、炎のようにゆらめく、魔力の塊が生成されていた。




…†…†…………†…†…




「俺がそれ体得するのにどれくらいかかったか教えたよな?」


「あれ? あれってあんたの体験談だったの?」


 とりあえず、そんな光景を部下たちに見せるわけにもいかなかったヴァイルは『どうだ!!』といわんばかりにドヤ顔をしてくるアリサを拘束し、食堂に連れ込んだ。


 そこで、額を抑えながらアリサに話しかけたのだ。


「あたりまえだろ……俺の周りでちゃんと魔法が使えるやつなんて三人ほどしかいない」


「よくそんなので魔法大国名乗れるわよね……」


 白けた瞳をこちらに向けてくるアリサ。そういわれると返す言葉もないヴァイルだったが……。ぶっちゃけ、この国がこんな風になったのは彼のせいではないので、そんな視線を向けられても困る。


「はぁ……。異世界の人間はみんなこうなのか? 正直成長が早すぎて気持ち悪い」


「失礼ね!!」


 ぶちのめすわよ!! といって手に魔力を集中させるアリサに、ヴァイルは真剣におぞましいものを見るような視線を向けた。


「事実だ。あんまこのことは人に話すな。強すぎる力に人は恐怖を覚える。そうなると、この世界では生きづらくなるぞ……」


 いきなりヴァイルからぶつけられた真剣な言葉に、アリサは目を見開いた後、ひきつった笑みを浮かべる。


「そ、そんなわけないじゃない。大体それあんたの体験談であって、ほかの人たちはもっと早かったかもしれないし……」


「まぁ、確かに多少の誤差はあるが、俺が知っている中で一番早くそれを覚えた人間でも、俺の記録の半分……つまり会得に四カ月かかった。お前みたいに二日で覚えたやつなんて前代未聞だ」


 そして、ヴァイルは最後にこう締めくくった。


「お前本当に人間なのか? 化物じゃないのか? 正直……今のおれはお前の才能が気持ち悪くて仕方がない。命令がなかったら今すぐにでも逃げ出したいくらいだ」


――俺はほら……『強盗に襲われたところを勇者に助けてもらったはいいが、そのあまりに強力すぎる力に『化物!!』とかいって石を投げつける村人その壱』みたいな感じのわき役だから。


 軽い口調でそう言ったヴァイル。しかし、彼の手が小刻みに震えていることに気付いたアリサはその言葉が、彼の本心だということを悟っていた。しかし、


「そう。でも、付き合ってもらうわ。たとえあなたがどれだけ私のことを嫌おうと、私が頼れるのはあなただけだから」


 若干悲しそうな顔をしつつ、アリサはそうつぶやく。


 その顔は涙も流していないのに、声も震わせていないのに、なぜか泣いているようにヴァイルには見えた。


 そして、そんな表情をされてもヴァイルは意見を変えるつもりは微塵もなく、


「ああ、わかっている。面倒は最後まできちんと見るさ」


 無表情になりながらそう答えた。彼らの間に落ちた気まずい沈黙。それはいつまでも破られることなく、彼らの間に重たく横たわっていた。


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