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ある脇役の英雄譚  作者: 小元 数乃
王都動乱編
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17話

 そのころ、サーシャが出てきた下の階では屋内用に改造されたと思われる人間と同じくらいのサイズの虫たちと、ヴァイルの部下である南門警備隊の激闘が繰り広げられていた。


「玉座の間への通路は完全に封鎖した! これでサーシャ総隊長と四天王の戦いを邪魔されることはないはずだ!!」


「お前ら気合い入れろっ!! 総隊長の晴れ舞台……邪魔したなんてヴァイル隊長にばれたら、怒られるなんてもんじゃすまないぞっ!!」


 サーシャが玉座の間に乗り込んでいった階段を死守しながら、魔力で作った武器や獣を操り次々と虫たちを撃退していく警備隊員。


 その魔力も、魔法も。派手なところは何もない。他の部隊と変わらない何の変哲もない形状を与える魔法だ。


 だが、彼らの自身の動きはほかの部隊とは雲泥の差があった。


 身のこなし、敵を見据える視線の配り方、武器の振るい方や、配下の獣の配置の仕方。そのすべてにおいて、彼らは完成された戦闘者としての振る舞いを行っている。


 ヴァイルは確かに仕事をさぼる常習犯だった。


 碌に部隊の詰所にいないし、書類仕事のほとんどはロベルトに丸投げ。たまにいたとしても居眠りしているという体たらく。部隊長としてこれほど不真面目な人間はいなかっただろう。


 だが、武人として――兵士としての実力は他の部隊長の群を抜いていた。


 そして自分と同じような境遇でありながら、まるで違う答えを出した人間……騎士に憧れ夢破れ、それでも復讐ではなくただただ、貴族たちを黙らせられるくらい強くなりたいと願った人間に対しては最も頼れる隊長でもあったのだ。


「テメェら、ここで引くんじゃねぇぞ!! あのヴァイル隊長(めんどくさがり)にかりちまった恩をここで返す!! いつまでも借金した状態じゃ気持ち悪いからなっ!!」


 そう掛け声を上げ部隊を鼓舞する小隊長が言うように、彼らは騎士をあきらめた境遇を持つ平民たちだった。それでもあきらめきれずに城壁警備隊に入り武器をふるう彼らに、ヴァイルは苦笑いをしながらも、


『諦めの悪いバカな奴らだ。だが、俺にできなかったことをしているバカは嫌いじゃない……』


 といって、彼が知りうる限りの武術を、彼らに教え込んだのだ。


 ヴァイルのメインウェポンは短槍だ。だが、騎士として身を立てようとした以上、それ以外の武器が使えないわけでもない。きちんと天使の国にいる師匠のもとで、ある程度の武術はかじっていたのだ。


 そして、天使の国の水準は外の国々と比べると非常に高い。そのことが幸いしてか、ヴァイルが直接指導をした南門警備隊の面々の武術の腕は、他の部隊の追随を許さないものとなっていた。


 紅蓮の剣が流れるように虫を断ち、


 流水の弓が一筋の激流となり虫を貫き、


 不可視の風の長槍が辺り一帯を薙ぎ払い、


 砂塵の戦斧が豪快に虫をたたき割る。


 炎熱を吐く獅子が術者と連携し虫を食い殺し、


 宙を泳ぐ水の鮫が羽虫たちを貪り食い、


 巨大な岩の象が主を背中に虫たちを踏み潰し、


 突風を纏う狼が群れを成して虫たちを蹴散らす。


 慣れない魔法を使っているにもかかわらず彼らの動きはよどみなく、鋭く的確に戦場を見据え、より効率的に虫たちを殲滅するための行動を一人一人が的確に行い、それが連携となり巨大な一匹の生き物のように、虫の軍団を迎撃していく。


 それはまさしく巨大な城壁。外敵から仲間を守る不破の防壁だ。


「我ら城壁警備隊っ!!」


『民を守る盾とならん!!』


「我ら夢破れし脱落者!!」


『されど、心意気は騎士である!!』


「ならば見せつけよ!! 騎士になれなかった落伍者よ!! 我らが最強の盾であるという証明を!!」


『委細承知っ!!』


 一人の掛け声とともに、反抗と不変を誓う部隊心得を復唱しながら彼らは一つの城壁となる。


 一人一人が無双の力をふるう、絶対防御の城壁に。




…†…†…………†…†…




「はぁ……はぁ……」


 巨大なクモと勇者が戦う地下。どうやら元々は隠し書庫であったと思われる巨大な地下空間では、巨大な書棚の裏に隠れながら、紫色の煙の中未来は荒い息をついていた。


 かろうじて蜘蛛の足による斬撃を躱せた未来だったが、切り札である光化どころか呼吸すらままならない状況ではさすがの勇者であっても防戦一方になるしかない。


 本当なら今こんな風に荒い息をつくことすら遠慮したいのだが、ついさっきまで呼吸を止めながら必死に蜘蛛から逃げ回っていたのだ。新米勇者の未来では逃げ込んだところで絶息の限界が来てしまった。


――まずい。


呼吸をするたびに体調が悪くなっていくのをきちんと感じとりながらも、それでも未来は呼吸を止めることはできない。先ほどまで酸素を断っていた体が、細胞が、呼吸を止めることを許してくれないからだ。


――こうなった以上長期戦は無理ね。一気に勝負をかける必要がある……。


 そこまで考えながらも、だが未来は困り切った表情で自分の手に握られた光の刀を見据えた。


 先ほどまで呼吸を止めての回避運動に集中しすぎたせいか、まったく剣に魔力がチャージされていなかった。これではヴァイルに教えてもらった切り札は使えない。


――はやく……早くためないと。


 全身に走る毒物によって引き起こされる痺れを必死に無視しながら、未来は何とか得られた安全圏の陰の中で光の剣に魔力を流し込んでいく。


 だが、絶望はすぐにやってきた。


 ギチギチギチと固い甲殻がこすれ合う音が、未来の頭上がから響き渡る。


「っ!」


 その音を聞いた未来があわてて頭上を見上げると、そこには無数の目を真っ赤に輝かせた巨大なクモがいて、


「しまっ!!」


 その姿を見た瞬間悲鳴交じりの声をあげかけた未来は、はっきりとその光景を見た。


 突如天井が無数の巨大な槍に変貌し、ものすごい勢いで自分と蜘蛛に向かって落下していくのを。




…†…†…………†…†…




 城の裏側で荒まじい崩落音が響き渡るのを聞き、ゲイルは思わず目を見開いた。


「城がまた崩れたか? いや……だがそれにしては音がこもっている。まさか、まだ王宮には隠された地下の空間でもあったのか?」


――まぁ、だとしても納得はできる。避難経路はいくらあっても足りないなんてことはないだろうし、うちの王族の黒い事情を隠す空間は、いくつあっても困らないだろうしね。ヴァイルが王宮の周囲の地面を全部槍にかえちゃったから、地下を隠す地面が全部槍になって落下っていうのが真相かな?


 内心でそんな予想を立てつつも、あとで見に行ってみるかとのんきに考えるゲイル。


 その体からは闘志はもう感じられない。敵を倒すための気概などというものは綺麗さっぱり消え去っていた。


 そう、なぜなら。


「それはそれとして……また俺の勝ちだね。ヴァイル」


 ゲイルがそう告げて視線を向けた先には、体のあちこちが炭化するほどに焼き尽くされ、もはや瀕死の重傷を負ったヴァイルが苦悶の声をあげながら横たわっていたからだ。


「魔力を吸収する浄魔火(セントエルモ)相手に、魔力で補強した槍の防壁って何考えているんだって思ったけど……なるほど。お前の狙いは大量の槍で炎を防ぐことじゃなく、最後の最後で魔力を全部放出して、浄魔火が吸収できる魔力量を極限まで減らすことだったんだな? だから浄魔火はお前を殺すほどの炎を起こす前にお前から消えた。魔力がない物質は大して燃やせない。浄魔火の弱点を突いたいい対策だと言える……が」


 もとより燃え続けなくても、浄魔火は鉄すら蒸発させるでたらめな温度を持つ炎だ。ほんの数秒体に触れただけで人間に致命傷のやけどを負わせることくらいわけはない。


「何より魔力をすべて失った状態のお前が、俺に勝てるわけがないだろう?」


 そう言ってゲイルは自分の鎧を包み込む炎を城の浄魔火から普通の紅蓮の炎に切り替え、ヴァイルに近づいていく。


「魔力を失ったお前の体はふつうの人間と変わらない。俺が操る普通の得意属性魔法でも十分お前の体は焼ける」


 そして、火傷の激痛にうめき声をあげながら倒れるヴァイルの頭上に到着したとき、ゲイルは何のためらいもなくその剣を振り上げた。


「さようならだ。親友」


 そして、ゲイルはためらうことなく高熱の炎を纏った大剣をヴァイルに向かって振り下ろし、




「っ!?」


 その剣が、まるで鋼鉄の城壁を木刀で殴りつけたかのように弾き飛ばされるのを見て、ゲイルは大きく目を見開いた。


――ば、ばかな!? こいつに魔力は残っていないはず!! じゃないと浄魔火が消えた理由が!?


 内心混乱の渦に叩き込まれるゲイル。そんな彼の隙を突き、黒こげになったヴァイルの手がゲイルの足首を力強くつかむ。


「なっ!? ど、どうしてっ!!」


 それと同時にヴァイルの手に万力のような力がかかり、ゲイルの足の骨を見事にへし折った。


 激痛に思わず声をあげるゲイルだったが、戦闘者として鍛えられた彼の頭は常に思考を続けている。


――どうして!? なんでっ!? 今のは身体制御の強化を受けてないと今のヴァイルには不可能なはずっ!!


 そんな疑問が頭の中であふれるゲイルに向かい、激痛に声をひきつらせながらも、それでもこの機会を虎視眈々と狙っていたヴァイルは笑いながら、


「よぉ幼馴染」


 自分の勝利を教えてやった。


魔法財宝(MPストレージ)って知ってるよな?」


「なっ!!」


 王家にしか使えないはずのその魔法の名に、ゲイルは思わず絶句する。




…†…†…………†…†…




「MPストレージ……。魔力を増設した別空間に保存保管し、本人の意志によって自由自在にその保管した魔力を引き出せる魔法技術。リッチモンドが悪法書(ハムラビ)と共に王家の格を上げるために授けた、《王族》のみが継承を行える特殊技術」


 自身に襲い掛かってくる莫大な量の水を、真っ赤な雷を円形に展開させることで何とか蒸発させ防いでいるサーシャの耳に、四天王レイアのそんな言葉が聞こえてきた。


「ただの魔力保存技術だといって侮ってはいけない。もとより魔力というものは消費した後、個人差はあるけど、常に一定量回復する。でもその回復はその人物の魔力キャパシティの限界に届いてしまうと止まってしまいます。つまり、魔力が全回復した状態の時間というのは逆に言えば、その時間に得られるはずだった魔力を無駄にしているということでもあります。でも、MPストレージがあると話が違う」


 魔力が全快した状態になれば一定量の魔力をMPストレージに預け、また魔力が減った状態にする。そうすることによって無駄になるはずだった回復する分の魔力が手に入れることができる。


「おまけにチャージされた魔力は半永久的に保存されるうえ、預けられる魔力の上限は存在しない。まったくリッチモンドはとんでもないものをこの王家に預けてくれました」


 おかげでこの国の国王はたった一人で核兵器級の魔法を操ることすらできるのだ。なにせ晩年の先代国王が貯蓄した魔力は、得意属性の水に変換して解き放つだけでも、王都全域を水没させることができるほどの量に至ったといわれている。


「おまけにチャージされた魔法は、チャージした本人以外いかなる手段をもってしても干渉は不可能。それはまさしく王の財宝を守る厳重な保管庫……。王族が常に《魔法財宝》と、自分たちの力を言い表していたのも納得がいくというものですね」


 その力のおかげで、どれほど愚かな暴君が生まれたとしてもこの国の治世は常に王族が握ってきていた。


 誰もが理解していたのだ。どれほど馬鹿でどれほどつけ入るすきが多いような王族であっても、ひとたび怒らせれば町一つ壊すことなど、彼ら王族にとってはたやすいのだという事実。


 そして、長年民を恐れさせた王の証が……今サーシャに牙をむいていた。


「確かにあなたも一応王族ですから、そのMPストレージの継承は行われているようですけど……頻繁に事件が起こってよく魔法を使い戦っていたあなたと、王宮でぬくぬくと過ごしながら自分の特別性を確保するためにマメに魔力をチャージしていた王宮の王族とでは、貯蔵していた魔力の量が段違いです。おまけに、私の儀式魔法によって、すべての王族たちはこの第一皇子に打倒されその力をすべて奪われている……。もう、おわかりですね?」


――他の王族たちの貯蔵した魔力もすべてこの第一皇子が握っているということかっ!!


 冷たいレイアの声音が教えてくれたその事実に小さく舌打ちを漏らしながら、いい加減この防戦一方の状況を打開するため、サーシャは脳裏でMPストレージからの魔力引き出しを行う。


 引き出した魔力の数値は5000。長年ため込んだ魔力の一部を開放した彼女の紅い稲妻はMPストレージから吐きだされた瞬間、莫大な量の紅い雷となって襲い掛かってくる津波を直撃。


 瞬く間にその津波を飲みほし、蒸発。雲散霧消させる。


 爆発するように広がった水蒸気が埋め尽くす部屋。


 その中でじっと佇みながらサーシャは煙の向こうにいるはずの四天王たちがどうなっているのか、ずっと見続ける。


 そして、


「追加申請。魔力引き出し……1億6000万」


「っ!?」


 レイアの申請と同時に先ほどまでの水とは比べ物にならない量の濁流が、瞬時に部屋を覆い尽くすのを見て、サーシャは慌てて紅の雷を放つ。


 紅蓮の炎の属性をも持つ真っ赤な雷は、凄まじい温度をもって濁流に直撃。


 爆発するかのような勢いで水蒸気を発生させた後、


 それごと部屋を飲み込む濁流によってあっという間にかき消された。


「しまっ……!!」


 水がサーシャを飲み込む。




…†…†…………†…†…




「バカなっ……どうしてお前がそれをっ!!」


――あれは王家にしか使えないはずだ。この国の常識であることを思い出しながら、必死にその事実を否定するゲイルに、半死半生の状態であるにもかかわらずヴァイルは笑う。


「バカはお前だ。あの師匠の国が……本当に王族だけしか使えない魔法を作ると思っていたのか?」


 そう。MPストレージは確かに王家にしか使えなかった。だがそれは決して《王家の血筋をがなければ発動しない特別な魔術》などではなく、《王家にしか使えないように天使の国がロックをかけた魔法》にすぎなかった。


 数か月前の《鮮血の剣》襲撃の檻、サーシャは他の兵士たちと同じように魔術の技術を継承されたついでに、『これからのお前にきっとこれは必要になる』と言われ悪法書(ハムラビ)にそのロックを解除してもらっていた。


 もうMPストレージは王家だけの魔法ではなくなったのだ。


 だからサーシャは、昨夜の間にそれをヴァイルに与えていた。これから起こると予測される動乱の中、どうかヴァイルが無事でいられるようにと。


「だ、だがだからと言って……俺の浄魔火を防げることにはならないはずだ!! MPストレージは魔力を使って作られた特殊な空間に魔力を封印する術のはず……。俺の浄魔火に焼かれたらお前の魔力で作られた空間も一緒に消え」


「バカ……天使の国がそんな杜撰な魔術を作るわけがないだろう」


「っ――!!」


 MPストレージは先ほどのゲイルの推測通りヴァイルの魔力を使用し作られた異空間だ。だがしかし、それは作られた瞬間異空間となりヴァイルの魔力とは完全に関係のない独立した現象として世界に存在することとなる。作られた作品を作った作者との関係だと思えばいいとサーシャは言っていた。


 つまり、『その作品は何々という人物が作った』という事実自体は残るが、物理的にはその作品はただの物で、作者と魂でつながっていて、作者が死んだら刀も壊れるという現象が起きないのと同じ。


 もはやヴァイルの魔力による維持管理を受けなくても独立して世界に存在している、《異空間》という作品は、ヴァイルが死のうと決して壊れることはない。そのため、その異空間に浄魔火を直撃させない限りは、ヴァイルのMPストレージはずっと使い続けることができるのだ。


 もっとも、現実世界で誰も触れることができないから異空間なのであって、どのような手段をもってしても異空間への攻撃などはできない。そのため作られた異空間は決して誰も破ることができない金庫として天使の国は利用することを考えついたわけだが……。


 正直もう体が言うことをきかなくなり始めているので、ヴァイルはそういった詳しい説明はできない。だが、その方がいいだろうとヴァイルは考える。


 先ほどまで絶対的な強さを誇った幼馴染が、驚いたように目を見開く光景が最後(・・)に見れた光景ならば、なかなか痛快じゃないかと思っていたからだ。


「くっ……MPストレージに預けた魔力で体操作を使って、回復力でも上げるつもりか!!」


――バ~カ。そんなことしてもお前に勝てないだろ。内心でゲイルの予想に苦笑をうかべながら、ゲイルはそのまま魔術を発動させる。


 発動させる魔術は最もヴァイルが頼りにする身体操作の魔法――ではない。


「っ!?」


 自分の状態を他の物体に――他者にも移す、感染魔法。普段は体内の思考制御で無詠唱発動させている魔法だが、今回は弱っているためそれはできない。


 だから感染魔法の術式は分かりやすくヴァイルの体の外に放出され、無数の|天使の国の言語のひとつ《ルーン》になり、ゲイルの体を犯していく。


「な、なにを……」


 している? と、今までヴァイルが感染魔法を自分の武装の強化にしか使っていなかったのを見ていたゲイルは、思わずそんな疑問の声をあげかけ、


「っ!!」


 ヴァイルの状態を思い出し、息をのんだ。


 全身を覆う致死量の大やけどを負ったヴァイルの体を……。


「しまった!?」


 慌てて感染魔法を焼き切ろうとゲイルは真っ白な炎を召喚しようとする。だが、


「なっ!? どうしてっ!!」


 発動し仕掛けた白い炎はぼっと一瞬だけ燃え上がった後鎮火してしまい、不発に終わってしまう。


「無駄だ……。俺の体の状態全てがお前に感染するように術式を組んだ。それは魔力量も同じこと。もとより燃費がひどいお前の浄魔の大聖火(セント・エルモ)じゃ、発動すらしねーよ」


「――!!」


 その言葉を聞いた瞬間ゲイルは悟った。


 自分はもう、死ぬしかないのだと……。


 自分が死ぬ絶望よりも、自分があの女騎士を救えない恐怖に震えて涙をこぼすゲイルの姿を申し訳なく思いながら、それでもヴァイルは愛するサーシャのために笑う。


「本当なら勇者が成功するまで待たなきゃいけないんだが……そんな余裕はもうないか」


 自分を含んだ二人の無様な最強の騎士を……嗤う。


「よう幼馴染。俺たちガキの頃はずっと一緒だったよな……だから」


――死ぬ時も一緒でいいよな。そう言って笑ったヴァイルの言葉に、


「やめろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


ゲイルは怒号とも悲鳴ともつかない絶叫を上げ、









 激闘が繰り広げられた中庭に、二つの焼死体が転がった。


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