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ある脇役の英雄譚  作者: 小元 数乃
王都動乱編
26/46

プロローグ

いつから、この小説がエタっていると思っていた!?

「王宮の様子がおかしい?」


「そうなんですよね~」


 ヴァイルがその話を聞いたのは、いつものように仕事をサボリ、貧民街に作られた雑魚寝スペースである小高い丘に昼寝をしてきたときだった。


 貧民街の住人たちの家は、強風や大雨でよく壊れるので、そういった不慮の事故で家をなくした住人達が、野宿をして過ごせるスペースとして、雨をしのげる小さな森や飲み水用の清流、そして寝やすい背の低い草原によって構成されるこの場所は、とっても昼寝に最適かつヴァイルを怒るサーシャが常駐する城壁南側とはま反対にある城壁北側にあるため、さぼるにも最適な場所だったのだが……当然、そういった場所にはよく先客がいた。


 北門の警備を任される部隊の隊長であり、ヴァイルと同じサボリの常習犯――アルフォンスだ。


「うちの親父たちからいつものごとく『もういいかげん実家戻ってうちの家を継げ!!』という催促がてらに話されたことなんですけどね?」


「もうお前本当に継いでやれよ、かわいそうに……。うちでこんな平隊長やっているよりよっぽど儲かるだろ?」


「大将ぉ~俺にいまさら貴族に戻れとか野暮なことは言わないでくださいよ!」


 何気にいいとこの貴族出のこのド変態同僚の話を呆れた風にききながら、ヴァイルは小高い丘の斜面に寝転がっていた体を起こし、そこから見ることができる王宮へと視線を向けた。


 いつものように美しい白亜の城。建物は住んでいる人間の心を表すとは言うが、数千年前に建てられた建築物にその理論は通じないだろう。建てた人間と住んでいる人間が全く違うのだから。


――おまけに、貴族や王族は見栄っ張りだからな……。城の掃除は、外壁から内部に至るまで毎日欠かさず行っているようだし……。と、城の壁を上下する、まるで虫のような黒い点に見える、掃除業者たちの姿に「せいがでるね~」と苦笑いを浮かべながら、ヴァイルは再び自分の隣で寝転びいい感じにポケーとしているアルフォンスに視線を戻す。


「んで? 王宮の様子がおかしいってどんな風に?」


「ん~。何がっていう明確なことは上げられないらしいんですが……。目立ったところを上げると、立ち入り禁止地域が増えたことと、王様の妾さんや近衛兵が爆発的に増えたことだそうですよ?」


「妾や近衛が?」


――なんでまたいまさらになってそんな? と、ヴァイルは思わず首をかしげる。


 妾を増やすのは……まぁいいだろう。年甲斐もなく王様がハッスルしているのだと思えば納得がいく。そうして、あの税金の無駄遣いでしかない男子禁制のハーレム宮殿《ヴァルハラ殿》をいっそう女同士の醜い争いの場へと変貌させているのだろう。


 問題は近衛の増兵だ。


「これ以上近衛兵を増やすような金があったのか?」


「そこなんっすよね……。俺も不思議に思って調べてみたんですけど、べつにどこかの地域が豊作で税収が増えたなんて話も聞きませんし、むしろとある怪盗魔族の襲撃のせいで今回の決算は赤字だったみたいですし」


「ホントひどいことするよな~魔族(棒読み)」


「まったくです。今度現れたら俺たちの手で捕まえてやりましょ~(棒読み)」


 とまぁ、そんな三文芝居は置いておくとして。


「おまけにその近衛兵っていうのが特殊で、《国王直属護衛近衛兵団》っていう新しく作られた近衛らしくて、一度はいったら四六時中王に張り付いて護衛をする兵士たちで、休暇もろくに取れないどころか家にすら帰らず、連絡すらとれないみたいで……。配置移動した騎士たちの姿を見た人間も誰もいないようですし」


「そいつは変だ!!」


――そんな拷問じみた職業、生ぬるい貴族のボンボン騎士たちが耐えられるわけがない!? うちの国王はとうとうご乱心か!? と、悪い意味で王宮の騎士団たちへの信頼を発動したヴァイルは、ようやくアルフォンスの話をまともにきく気になる。


「実際その近衛騎士団に引き抜かれた奴らの親からも不満の声は上がっていて、何度も王に抗議をしているようなんですが、その王様も最近どうやら自室にお籠りになられたみたいで……」


「……なんかあるな?」


「この状況でそれを悟らないのはうちの貴族ぐらいでしょうしね……」


――まず疑うべき段階は、その近衛兵団が本当に存在して、ちゃんと生きているかどうか? 長年の魔族との戦闘の経験から、最悪の事態を常に考える癖がついたヴァイルの思考回路は現状もっとも悪いと思える状況を描き出す。


「そうなるとあのハーレム御殿で妾が増えた理由も……。完全に隔離された場所だからな。何仕様が王様以外に気付く人間もいないし、その王様も話を聞く限りは……」


――もう敵の(とりこ)……か。


 そんな思考を巡らせるヴァイルの脳裏に浮かぶのは、とある黒い本の助言を受けたサーシャが極秘ということで城壁警備隊体長三人に告げた、とある未来の可能性。


『一年もたたないうちに……この王都は、魔族の手によって落とされるだろう』


 サーシャが告げたその言葉を頭の中で繰り返しながら、ヴァイルは小さくため息をつき、めんどくさそうに立ち上がる。


「これはちょっと……さぼっている場合とかじゃないかな?」


――貧民街と平民街に呼びかけて、いざというときのための避難行動の打ち合わせをしておくべきか? と、だんだんきな臭くなっている王宮の様相から、ことが起こるのが近いことを悟ったヴァイルは、サーシャにその事実を進言するために丘の上から走り出した。


「お、大将が珍しくやる気に!? がんばってね~」


「お前も来い!」


「ぶっ!?」


 一人だけ真剣に仕事をするなんて許せなかったので、ゆる~くさぼり続けるつもりと思われたアルフォンスを殴りつけ意識を刈り取り、グッタリした彼を引きずりながら!!




…†…†…………†…†…




 ぐちゃぐちゃと……陰惨な音が部屋の中から響き渡る。


 それは何かを作り変える音。致命的なまでな暴力的な方法で、すべてを台無しにする音。


「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛……」


「やはり虫での思考調律はまだまだ難易度が高いですね……。人格と意識の復旧を行っていますが、元の人格に戻ることは絶望的ですね……」


 その部屋に用意された一つの巨大なベッド。このベッドを用意した本人は、ここに女を連れ込み、下世話で下劣な人には言えない性的暴行を行うために用意したのだが……まさか、そこに男と二人で並べられ、自分自身の脳みそを弄繰り回されるために使われるなど思ってもみなかったことだろう。


 白目をむき、ガタガタ震えながらベッドに横たわる二人の成人男性。


 一人は金色の髪にあふれるひげを生やした王冠をかぶったこの部屋の主――スカイズ王国国王、ジョルジア・テンペスタ・リ・スカイズ。


 もう一人はでっぷりと太った体を無理やり鎧に押し込んだ騎士失格の男――スカイズ王国王都防衛騎士団団長、オライオス・リーンロード・ジ・フルキャッスル。


 この国の政治と武力の象徴である二人は現在ベッドの上にきれいに並べられ、意志のこもらぬ条件反射のような声を上げることしかできなかった。


 なぜなら彼らの脳には、無数のミミズのような虫たちが侵入しており、彼らの脳細胞を食いちぎりながら乱雑につなげ治していたからだ。


 そんな彼らの姿を見て、ため息を漏らしているのはまるで少女と見紛わんばかりの小柄な体を持つ一人の女性騎士だった。


「《鮮血の剣》も厄介なことをしてくれました……。彼女の侵入が公に認められたせいで、数年前にもめて、ほとんど絶縁状態だった国境警備隊と連携をとるなんて国王が言い出すから……。いまさらまともな政治をされてはこちらが困るのですよ……」


 毒々しい濃さをもった、ほとんど黒に近い紫色のショートヘアに、光を全くうつさない空虚な金色の瞳。顔は体に似合った童顔はあったが、その表情には子供っぽい色などみじんも存在せず、すべてに疲れ切った老人のような雰囲気が現れていた。

華奢というよりかはやせぎすといった細身の体には女性らしさは見受けられず、女性の体に合わせるように作られた鎧がかろうじて彼女が女性であることを示している。


 彼女はたった二人しかいない王都防衛騎士団副団長――レイヤ・リ・フラン。名前の短さからわかっていただけるように、彼女はもともと貴族階級をもたない平民からの登用騎士だった。


 だが、ヴァイルの例からわかるように通常そういった身分の低い人間が、貴族で固められた王都防衛騎士団に入団することはできないし、たとえ入団できたとしても副騎士団長まで出世することなど絶望的であると言えた。


 だから、彼女の周りにはいつもこういったうわさが流れていた――つまり、《団長の性的な意味でのお気に入り》と。


 もとより騎士団長オライオスにはそういった(ロリコン)趣味があり、幼い見た目の女性や本当に幼い少女たちを溺愛する現場がたびたび目撃されていた。彼女の見た目で、平民出身という条件が重なればそういったうわさが立つのは必然といえた。


 そして、その噂が事実ならばなおのこと……。


「まぁいいわ……。おかげで計画は早まったけど、復讐も早い段階ではじめられたし。まったく、魔王陛下の命令でなければだれがこんな豚と褥を共にするものですか……」


 グチグチ文句を吐き散らしながら、レイヤはびくびく震える騎士団長に唾を吐きかけ、その場から立ち上がった。


「術式の打ち込みも完了しましたし、ヴァルハラ殿を掌握できたおかげで戦力は十分《産みだせ》ました。あとは実行に移すだけ」


 そして、レイヤは不気味な笑みを浮かべ、


「今日からこの王都は……私四天王が一人《葬送の魔眼》が掌握します」


 その黄金の瞳を、無数の六角形の瞳の集合体へと変貌させた。


 それは、彼女が計画の発動にはやり、ついうっかりと漏らしてしまった本性の姿。


 その瞳は彼女が文字通り人外であることを示すには十分なもので、


「ひっ!?」


「おや……」


 部屋の様子を覗いていたと思われるとある人物の悲鳴を誘発するのに、十分な異常性を持っていた。


 扉の向こうから脱兎のごとく誰かが走り去る音。


 レイヤが扉を開き、外を見ると、そこにはとある家紋が入った一本の短剣が転がっていた。おそらく逃走した人物が落としたのだろう。


 その家紋は、


「おや……見られてしまいましたか」


 勇者に剣術指導を行っている三人の若い騎士のうちの一人……ジルドレールの実家であるルロウトリ家の家紋。


「まだ勇者に知られるのはまずいですからね……。早急に殺さねばなりません」


 彼女がそうつぶやいた瞬間。


ゾゾゾッ……。と、部屋が(・・・)蠢動した。


 はい、ごめんなさい。調子に乗りました。とりあえず更新再開。とはいえまだほとんど書けていないので、また更新は滞るかと。


 この章が書き終わったら、予約投稿で一本ずつ上げていきます!!

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