プロローグ
もろもろの理由で更新をやめるどころか、存在そのものを消してしまっていた問題作です。
色々と改造して再び投稿することにしました。
主人公……ヴァイル・クスクは『脇役』である。
金髪碧眼という、この世界ではわりとどこにでもある容姿。職業は門番。趣味は釣り。歩く姿は気のいい兄ちゃん。もはや『脇役どころかモブじゃね?』といわんばかりの容姿の彼であったが、そんな彼でもまわりが無能ならばそれなりの仕事をこなして『主人公』の真似事をしなければならないのだ。
たとえば……権力争いに明け暮れるあまり中央都市を守る騎士団が弱体化している王都。彼が門番をする、自称魔法大国・スカイズ王国王都アタナシアがそれである。
騎士団はすべて貴族の身内で固められ弱体化の一途をたどり、もはやその武力を完全に消失していた。唯一の救いなのが国境を守る《四方騎士団》がいち早く権力の影響から抜け出し独自の武力とヒエラルキーを築き上げることに成功したことだろう。これによって今のところこの王国は何とか国境線の防衛に成功。かりそめの平和を国民たちは享受することができていた。
「とはいえ……いつまでもこんな調子でいて無事ですむはずもなく……」
ヴァイルはため息をつきながらそうつぶやく。敵……魔王軍は着々と侵攻を開始してきている。だからこそ彼はこんな夜遅くに仕事に駆り出されてしまったのだ。
現在彼がいるのは王都の南にある森の中。彼は、満月の明かりが無数に差し込む薄暗い森の中を凄まじいスピードで駆け抜け、森の最深部へと向かっていた。なぜ彼がこんなところにいるのかというと、昨日城壁警備隊がキャッチした情報に、この森に多くの魔獣が潜伏しているという情報が入ってきていたからだ。
「これ全部駆除しても王宮に報告して褒美をもらうこともできないんだろう? まぁ、報告したところで騎士団が全部手柄を持っていくんだろうけど……」
世知辛い世の中だ。まったくもってウザったい。
不快な感情を隠そうともせずに、内心でそう吐き捨てながら、ヴァイルは最深部に到着。周りを見渡し、そして……
「ようやく来たか……。眠たいんだからもう少し早くに来いよ」
――わざわざ誰でも気づけるようにあんな大きな足音させながら走り回ったんだから。
ヴァイルの内心で発言された不吉な言葉。残念なことに、その言葉を襲撃者たちは聞くことができなかった。
「GARURURURURU!!」
明らかに人間ではなさそうなシルエット。森に中から出てきたそれらは赤く光る眼をランランを輝かせて、ヴァイルの周囲を固めていく。どうやら数の利を使って獲物を狩る魔獣のようだ。その数は、十……二十と時間が経つごとに増えていき止まる所を知らない。
しかし、その膨大な数のシルエットたちの出現にも、ヴァイルは特に動じた様子を見せることなく、マイペースに背中にさしていた槍を手に取り、舞いを踊るかのように数個の型を披露する。そして、コンディションがいつもと変わらないことを確認した後、ヴァイルは眉をしかめながら森の中からこちらをうかがってくる者たちに話しかけた。
「明日も仕事があるんだ。五分で終わらせる」
それが開戦の合図。シルエットたちは森から一挙に飛び出し、ヴァイルにまるで突風のような速度で攻撃を仕掛けた!! 姿は二足歩行をするオオカミ。その大軍が、まるで直接的攻撃力を持った風のようにヴァイルへと襲い掛かる!!
飛び散る火花。鳴り響く金属音。
数秒という短い間に、何度も続いたそれがやんだ後には……。
「鋼の毛皮に白銀の爪と牙。魔王軍先兵……アイアンウルフか。本来なら斥候に使われる猟犬だろうに……。うちの王都に直接攻撃を仕掛ける気ならちょっと弱すぎるな?」
なめられてんのか? 誰に聞かせるでもなくそうつぶやくヴァイルの体は完全に無傷。そして、アイアンウルフたちは、
「GAAAA……」
哀愁漂う声で絶叫を上げ、その数秒後、喉から血を噴出させて絶命した。おそらくヴァイルを攻撃するのに使ったのだと思われる彼らの爪や牙は無残に折れており、そこかしこに欠片を散乱させている。
「悪いな。俺は基本的に攻撃が効かないんだ」
ヴァイルはそういうとおもむろに地面に拳を突き立てる。
ゴッ!!
と、到底人間の拳が地面を殴りつけただけでは起らないであろう轟音が辺り一帯に響き渡り、まるで爆風のような衝撃波とともに土煙をまきちらした。
森の中に潜んでいたアイアンウルフの残党たちは、それを見て慌てて逃げ出そうとしたが、時はすでに遅く、衝撃波に巻き込まれた彼らは意識を失い、土煙にのまれてしまった。
「《天使》の国の《魔術》って言葉を知っているか? 俺はそこで《体操作》っていう魔術を教えてもらった。体にどんな攻撃でも耐えられるような硬さや耐久度を持たせたり、体の重量を10tまで重くしたり1mgまで軽くしたりすることができたりするわけだ。ちなみにいまのは《硬化》と《重量増加》の合わせ技だ」
土煙がやみ、その中から出てきたヴァイルはひらひらと手を振りながらそう話す。彼の後ろにはまるで隕石の直撃でも受けたのではないかと思えるほどの巨大なクレーターが出来上がっていた。
そのクレーターの中に倒れ伏している、衝撃波に巻き込まれ気絶していた哀れな何匹かのアイアンウルフたちは、槍による攻撃で止めを刺されたのか喉から大量の血を流し絶命していた。
「更に、俺はその特性を自分の服や武装に移す魔術……《感染》魔術も教えられている。この槍の状態はさっきのおれの拳と同じだぞ?」
重量10t。硬度ダイヤモンドの3倍。何人も傷つけられぬ無双の槍。
勝てない……。この敵と戦えば自分たちは確実に死ぬ!
本能的に実力の差について気付いているアイアンウルフ達は、明らかに怯えの色を浮かべて後ずさる。だが、彼らも引くことはできない。おめおめ尻尾を巻いて帰ったなどと飼い主に知れれば、どちらにせよ悲惨な死を遂げるのだから。
「というわけだ。尻尾巻いて祖国に帰るか、俺に殺されるか……好きな方を選べ。駄犬ども」
答えはすでに出ていた。
天高く飛びあがりヴァイルを食い殺そうと咆哮を上げるアイアンウルフ達を見て、ヴァイルは眉をしかめながら槍を構える。
「まったく。命を粗末にしてんじゃねぇよ」
ただでさえ、魔族関連のモノを殺すのは気が咎めてんだから……。ヴァイルのつぶやきは闇へと溶け、
殺戮の夜が始まる。