火と燃えた人
過去に戻れるなら、どうする?
そんなたらればを、よく耳にすることがある。
子供のころに戻って、ちゃんと勉強するとか。
ちゃんと青春したいとか。
誰しも後悔があって。
それを取り戻したいと願っている。
………でも。
僕は、そうは思えない。
過去も辛い、今も辛い。
戻ったら、ただ懲役が長くなるだけだ。
過去に戻っても、何も変えられない。
自分が変えられないことは、どうしたって存在している。
耐えるしかない期間というのは、どうしたって存在している。
…これ、わからないやつには、一生わからないんだろうな。
過去に戻るなんて、考えたくもない。
それが、僕の答えだろう。
そんなだから。
僕は今、夜中に散歩している。
昼間にしろと言われそうだけど、どうして、人と会わなきゃいけないのか。
何故か不機嫌そうな人と、すれ違わないといけないのか。
お辞儀しても返さないやつに、会わなきゃいけないのか。
そういうのがめんどくさいから、僕は夜中に散歩している。
どこかで誰かが笑って。
どこかで誰かが泣いて。
社会全体で、幸せになれる人間には限りがある。
ハブれた僕は、その席に座れそうもない。
だから、自分で自分を慰めるしかない。
学校のペア決めで一人残ったみたいに。
夜中に一人歩いて、カッコつけるしかない。
ふと立ち止まって、空を見上げる。
星なんて一つも見えない。
ただ、雲ひとつない空に、黒が広がっていた。
「あーー」
マイクテストみたいに、音を出した。
意味はない。
なんとなく、声が出るか不安になった。
街灯が僕を白く照らす。
今僕は、まるで光っている。
…見えないものを考えて、なんの意味があるのか。
暗いのは、怖い。
でも、みんなが怖いところなら、人が少ない。
実際に危険かどうかは関係ないから。
……そろそろ、帰ろうか。
行きとは違う道で、帰る。
一定のリズムの足音が、何故だか心地いい。
なんとなく、生きるを感じる。
行く目的は、ないようなもので。
戻る目的は…なんだろう。
また、光に照らされる。
それは、夜明けの光だった。
外に出るのが遅かったせいか、もう、今日が死んで、明日が生まれたらしい。
誰かにとっては惜しいもので、誰かにとっては気にも止めないものだろう。
僕にとっては、惜しむものだ。
逃げ場にしていたところが追いやられて。
お気に入りのおもちゃを取り上げられたみたいな気分だ。
「……はぁ」
ため息が、白く色づいた。
伝わるかな~。




