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008 特殊能力

○ファミリーレストラン・シーグル店内 上野拳人


 人類はいま、地球の存亡をかけてテラノヴァで戦っている。

 闘争期間が終わるまでに、敵の晶石を一つでも多く破壊した方が勝ちだ。


 晶石を破壊する方法はなんでもいい。手段は問われない。

 と言っても、晶石は必ず不壊(ふえ)の塔の中にあるので、遠距離から爆撃とかは使えない。


 そして人類は何度も、爆撃を試している。

 するとどうなったか。晶石を守る敵が爆撃に適応し、耐性を得てしまった。


 さらに強力な爆弾を落とすことも可能だが、不壊の塔には効果がなく敵に耐性がつくだけで意味はない。

 ではどうやって、攻略するのかというと……。


「不壊の塔は四階建てで、高さは四十メートル。最上階まではおよそ三十メートル。そして中を物で塞いだり、中に多くの人を置いたりすることはできない」

 俺の言葉に、法院さんは頷いた。


「塔の中では、妨害の程度によって時間経過で晶石の輝きが失われ、それがゼロになると自壊します」

「そうだね。星間闘争がはじまった当初、そのことが分からなかったいくつかの国で悲劇がおきた」


 法院さんは頷いた。

 この辺のことはすべて、学校の授業で教えてくれる。

 とくに星間闘争の初期におきた数々の悲劇については、繰り返してはいけない愚行(ぐこう)として教科書に載り、だれでも知っているほどだ。


 晶石に攻撃を加えると、上部から光が失われていく。まるでエネルギーの残量を表示しているように光が減っていき、すべての光が失われると灰となって崩れてしまう。


 ちなみに晶石が破壊されると、不壊の塔も数日で砂の山となってしまう。

 これは不壊の塔が、晶石の力で維持されているからと考えられている。


 問題は、入口や階段を物理的に塞い場合だ。これでも徐々に、晶石の光が失われていく。

「塔の中に十人以上配置しても、晶石の輝きが失われていくのだから、防衛する側としては、困るよね」


「そして失われた光を戻すには、長い時間が必要ですからね」

 今度は俺が頷いた。


 この十人以上というのは、攻める側にも当てはまる。逆の現象がおきる。

 敵よりも十人以上多い数で不壊の塔に入ると、晶石のエネルギーがすごい勢いで回復していくのである。

 とにかくこの仕様がやっかいなのだ。


 塔の最上階に鎮座している晶石の大きさと形はどれも同じ。

 縦長の多角形をしていて、海外では『カテドラルクリスタル』と呼んでいる。カテドラル水晶に形が似ているからだろう。


 晶石がエネルギーを回復する速度は、あまりに遅い。

 三分の一も減れば、完全に回復するまで数ヶ月はかかる。


 星間闘争がはじまって七十年。

 晶石を防衛、そして破壊した逸話は数多くあるが、中には目を覆いたくなるほど悲惨、もしくは情けないものもあったりする。


「晶石を防衛しなければ、こちらの友好的な意図が伝わるんじゃないか」と、本当に防衛をしないで晶石を破壊された例や、仲の悪い隣国が互いに相手国の晶石を破壊した例もあった。一体、何をやっているんだか。


「物量で攻めれば、敵も防衛できないだろう」と、多くの兵を集めて攻め入った例もある。

 直前で塔への入口を塞がれてしまい、包囲殲滅されたのだが。


 ちなみに入口を塞ぐと、数時間で晶石が自壊する。


 だが防衛側は、そのわずかな時間を使って塔周辺の敵を殲滅したのだ。

 物量で攻めた人類がなぜ負けたかというと、継戦能力がなかったからである。


 物量で塔を攻めるには、非覚醒者の存在が不可欠。

 覚醒者の数が圧倒的に足らないのだから、これは仕方がない。


 だが、非覚醒者は火器に頼るしかないため、弾切れになるとどうしようもない。

 次々とやってくる敵の援軍に、非覚醒者は脱出もままならなかったのである。


 これらすべて、人類の滅亡を回避するための必要な措置として、学校の授業で学ばされる。

 テラノヴァの地理や原生魔獣、素材となる植物の名前なども、「覚醒者になったときに必要」だからと、しっかり学ばされる。


「敵の守りはいまや鉄壁です。それでも塔を壊せるというのですか?」

 法院さんはまだ、俺の言葉が信じられない様子だ。


「ああ。いくつかの塔には、致命的な欠点があるんだ」

 それは俺が前世で学んだ知識。


 前世で敵にやられたやり方を踏襲すれば、同じ結果をもたらせるはずだ。

 もちろんそれにはクラン、もしくはレギオンの力が必要なのだが。


「分かりました。一年後にもしできるなら……いえ、できる可能性があるのでしたら、挑戦する価値は十分あると思います」

「よかった……まだ先だけど、いまの話は覚えておいてもらえると嬉しい」


 専属契約したからには、俺と法院さんは運命共同体。

 ぜひとも戦力を増強させて、塔を攻略してもらいたい。




○上野家・台所 上野拳人


「ねえ、お兄ちゃん。ちょっといい? ……ていうか、またお団子作ってるの?」

「おっ、魔子(まこ)。いいところに来た。ちょっとこれ、三センチ幅に刻んでくれ」


「また手伝い? 前も思ったけど、わたしが手伝っていいの?」

「だれがやっても一緒だよ」


「だったらレシピ渡して、だれかに作ってもらえばいいんじゃない?」

「輝石は粉にするとすぐ駄目になるんだよ。一晩置くと半分は使えなくなる。せっかく自前の輝力を使って粉にしたのに、半分が空気中に霧散するんだぞ。もったいない」


「素材じゃなくて、輝石が原因かぁ。……ちなみに、これを粉にできるのは?」

「いまのところ、世界で俺だけだ。それより、俺に用事があるんだろ?」


「そうそう。わたし、手から糸が出るようになったんだけど」

 妹の魔子が両手を開くと、そこから青く光る糸が何本も出てきた。


輝力(きりょく)の糸か。それ、天井に張り付けてみな」

「どうやるの?」


「やってみれば分かる」

「ふうん……エイッ!」


 上に伸びていった青い糸は、しっかりと天井に張りついた。


「くっついたな。それで身体を引き上げてみな。身体が浮くから」

「わあ、お兄ちゃん。宙づりになったよ!?」


「それが特殊能力『粘糸(ねんし)』の使い方だ。攻撃力はないが、立体移動ができるから便利だぞ。隠密特化の能力だな。あと捕縛もできたっけ」

 前世では、この輝力の糸を使っている覚醒者はそれなりにいた。


 前世の方が、いろんな特殊能力を使えた者が多かったと思う。

 逆に、今世ではほとんど見ない。


 魔子が覚醒丸で覚醒したからなのかは分からないが、特殊能力に目覚めたのは幸先がいい。

「どうやって下りるの?」


「俺に聞くな。いろいろ試してみろ。なんとかなる」

 他人の特殊能力の微妙な使い方なんて、知っているわけがない。


 摩子はしばらくの間、丸薬作りを手伝いもせず、蜘蛛のように糸を使って家中を移動していた。

 もちろん、驚いた母親に怒られていた。




養健(ようけん)病院・病室 四堂(しどう)誠一(せいいち)


 夏美からスマートフォンに連絡がきた。頼んでいた調査の進捗(しんちょく)を知らせてくれたのだ。

 覚醒者のカップルがヒュージスパイダーに襲われたのは、俺たちが襲われた日の翌々日だった。


 助けたのは須藤(すどう)(とおる)という覚醒者で、三十五歳の無職。

 数年前に覚醒したものの、ほとんどテラノヴァに入ったことがないらしい。


 働くのも身体を動かすのも嫌いで、日中はパチンコを打っている姿をよく目的されている。

 各所に借金があって、未返済が続いている。家族、友人とはほぼ絶縁。最近は寸借(すんしゃく)詐欺をして暮らしている。


 夏美からは、「周囲から情報はすぐ集まったけど、はっきり言って人間の屑ね。少なくとも人道的な救助をするタイプじゃないわ」とコメントが添えてあった。


 問題は記事を書いた人物。『大衆パンチ』の社員で、名前は杉林(すぎばやし)秀治(しゅうじ)

 カメラマンを兼務した雑誌記者で、大卒二年目の二十七歳というところまでは分かったが、それ以上はまだ調査中らしい。


「大卒二年目ということは、二十五歳まで大学に通っていたのか。顔写真は……二人ともよく撮れているな。今度戸田さんに写真を見せてみるか」


 あれから俺も調べてみたが、テラノヴァに棲息している原生魔獣を排除するため、忌避剤(きひざい)誘引剤(ゆういんざい)が開発されていた。


 危険な原生魔獣を一か所に集めて退治するために開発されたらしい。

 そうやってゲート付近などは安全が確保されるわけだが、国や地方自治体、それにレギオンならば、身分証さえ提出すれば忌避剤も誘引剤も購入可能だということが分かった。


「つまり……そういうことか?」

 もし彼らがヒュージ種をだれかにけしかけたとしても、その証拠はどこにも残っていないだろう。


 俺はやりきれない思いで、スマートフォンをしまった。



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