表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/7

005 お見舞いにて

本日2話目の投稿となっております。

養健(ようけん)病院・病室 四堂(しどう)誠一(せいいち)


「……そういうわけで、私はいまパパとママと喧嘩中なの」

 夏美が見舞いに来たと思ったら、家族への愚痴がはじまった。


 愚痴りながらも、夏美はナイフでリンゴの皮を薄く長く()いている。器用なものだ。

 戸田さんが持ってきてくれた見舞い品だが、大量にあるためなかなか減らない。


 しかし、夏美がこれだけ(いきどお)るのは珍しい。だがそれよりも……。

「夏美、ちょっと調べてほしいことがあるんだ」


「調査? いいけど、マジな方?」

「マジな方だ。人を動かしてほしい。……理由はこれだ」


 俺は、戸田さんが置いていった雑誌『大衆パンチ』を夏美に渡した。

 このパンチという雑誌名は、イギリスで150年以上もずっと発行され続けた風刺漫画雑誌『パンチ』から取ったのだろう。


「なによこれ……同じ時期にほぼ同じ場所で、二種類のヒュージ種が出たの? しかもゲート付近で? ありえないわよ!」

「加えて、俺たちを助けてくれた戸田さんが言うには、オレたちが襲われた日に、怪しい二人組が目撃されている。しかもその一人は高価な望遠レンズ付きのカメラを首から下げていたとさ」


「……被害者を助けた人と、この記事を書いた記者についても調べてみるわ」

「頼む。……それとこのことはケントには内緒にしといてくれ」


「どうして?」

「まず確証がない。それにこのことを知った途端、何をおいてもアイツは真相究明しようとするだろ」


「そうね。突っ走る様が目に浮かぶわ」

「もし作為されたものだった場合、アイツは自分の経歴に傷が付くのを恐れずに復讐を果たそうとする。だから絶対に内緒だ」


「そうね……分かったわ」

「ケントの新しい能力はすごいだろ? だからアイツがもし突っ走るなら、おまえが手綱を握ってやってくれ」


「ああ……そうよね。そうしないとダメよね。私もまさか、お団子を食べて本当に覚醒するとは思わなかったし」

「そうだな。やっぱりあの時、アイツが無事でよかった」


「拳人くんは拳人くんで、自分が犠牲になればよかったってまだ落ち込んでいるけど」

「アイツはそういうやつだからな」


 誠一が笑うと、夏美はふてくされた顔をした。

 仲間はずれにされたと思ったのだろう。


「いつも思うけど、二人ともすごく仲いいわよね。どうして?」

「どうしてと言われてもなぁ……」


「なにかきっかけとか、あるでしょ?」

「う~ん……あったとしたら小学生のとき、山で遭難しかけたときかな」


「えっと、登山家の人に助けてもらって、一緒に下山した話よね。前に聞いたことあるけど」

「ああ、クラスの六人で夏に登山をしたんだ。ケントはそのとき、(なま)のきゅうりを何本も持ってきてさ」


「はっ? きゅうりって、野菜の?」

「そう。みんな笑って……その頃はまだ、ケントとは普通のクラスの友達って感じでさ」


「そうなんだ。……で、どうなったの?」

「山頂で弁当を食べて下山をはじめたんだけど、道に迷った」


 山のイラストに尾根(おね)を描き入れると分かるが、尾根は下に行くほど枝分かれする。

 登っているときは、それに気づかないのだ。


 尾根が分かれていることを知らずに下山して、道を間違えてしまった。

 あたりは暗くなったが、懐中電灯を持ってきている者はだれもいなかった。


 しかもすでに、食べるものも飲むものもない。

 山を舐めていた。みながそう思っても、もう遅い。


「みんなが怖くて不安に思っていたとき、ケントはリュックからきゅうりを取りだしたんだ。知っているか? きゅうりは95パーセントが水分なんだぞ」

「食べるからお腹に溜まるし、水分は確保できたわけね」


 あのとき、拳人はみなに馬鹿にされたきゅうりを平等に分け与えてくれた。

 とにかく腹が減っていたし、なにより喉が渇いていた。


「オレたちが立ち上がれたのは、あそこで水分を補給できたからだ。そうでなければ小学生の心なんて、簡単に折れてしまったさ」


 みんなで立ち上がって、なんとか来た道まで戻った。

 そうしたら偶然、下山中の登山家が見つけてくれた。


「全員が助かったのは、拳人がくれたきゅうりのおかげだといまでも思っている。拳人は極限状態のときでも、他人を思いやれるヤツだ。それはいまも変わらない」


「ふうん。人に歴史ありってことかしら。私が会ったときは、普通のクラスメイトにしか見えなかったんだけど」


「目に見える部分がすべてだったら、この世界はもっと単純で生きやすいものだろうぜ」

含蓄(がんちく)ある言葉だわ。うちの両親に聞かせてあげたいくらい」


「ご両親の言うことも、間違いではないと思う。戦えない覚醒者を星間闘争に投入しても、無駄に死ぬだけだし」


「戦えない覚醒者……ね。拳人の作るお団子、ちょっと公開できないわよね」

「ああ、無理だ。絶対……貴族の占有になる」


 日本は、星間闘争で大きな功績をあげた者に貴族籍を与えている。

 優遇するから、これからもがんばりなさいという意味を込めてだ。


 人類を破滅から救うためには多少の優遇も仕方ないと、国民も納得した。

 日本に貴族籍が誕生してから、五十年以上が経つ。


 その五十年の間に、貴族は利権の確保と自勢力の拡大に邁進(まいしん)した。

 結果、彼らはその既得権益の上にあぐらをかき、手放そうとしない。


 不壊(ふえ)の塔攻略より、派閥争いの方に一生懸命なのだ。

 そんなところへ、覚醒者になれる団子が登場したらどうなるか。


「老い先短い老人へ優先的に回すよう、世論が誘導されるわよね」

「金を持っている老人や病人はゴマンといるからな。何年経っても、戦える者のところへ回ることはないだろう」


 ひとたび覚醒すれば、身体能力は倍以上になる。

 免疫力は強化され、不治の病ですら現状維持か、回復に向かうことも確認されている。


 地位も名誉もある老人たちでも、覚醒しているのは二百五十人に一人。

 残りの二百四十九人は(ほぞ)をかみながら、自分が覚醒する日を夢見ている。


「拳人くん……ちゃんと、考えているわよね」

「大丈夫だろ。もし面倒なことに巻き込まれても、オレがフォローする」


「それはそうと、残りの期間は一二年と七三日って啓示が出たわ。残っている白晶石(はくしょうせき)は二六三個、赤晶石(せきしょうせき)は三三四個ですって」

「七十一個もの差がついているのは問題だな。毎年五個ずつ差を縮めても人類は勝てない」


「そのわりには、だれも危機感を持っていないのよねぇ……」

「貴族が吹聴している終了間際の大攻勢だろ。それに国民は踊らされているんだ」


 人類が存続するには、不壊(ふえ)の塔にある敵の晶石を破壊するしかない。

 そのために与えられた力が覚醒である。そして覚醒者の一部は、特殊能力にも目覚めている。


 特殊能力はまるで、映画や小説に出てくるような物理法則を無視した力を発揮する。

 これならば勝てると人類が希望を抱いてもおかしくないくらいの力が与えられた。


 だが七十年前の啓示には「公平」という言葉があった。

 つまり、敵側にも公平に力が与えられていたのだ。


 銃弾すら跳ね返す敵の防御力を見て、人類は勘違いしてしまった。

 あれこそが、敵に与えられた特殊能力なのだと。


 ならばより強力な武器を使い、物量で圧してしまえばいい。

 銃やライフル、マシンガンなどは、非覚醒者でも使える。


 なんだ、簡単ではないか。人類はそう思ってしまった。

 かくして物量による飽和攻撃を仕掛けたのだが、ここに誤算があった。


「あれ? 敵の防御力が上がっているぞ」

「おかしい、前に効いた攻撃が効かなくなっている」


 はじめは、わずかな違和感だった。

 数ヶ月前には効果があった大口径の拳銃が、ほとんど役に立たなくなっていたのである。


 これはどういうことか。録画してあった映像を注意深く観察した結果、ある特定の武器に対してのみ、敵の防御力が格段に上がっていることが分かった。


 有識者たちがこぞって、それらの映像を分析し、敵の特殊能力を推測した。

 数多の検証から分かったのは、どのような攻撃でも、効果があった数か月後には半分以上の耐性がついてしまうこと。


 半年も経てば、ほとんどの個体が耐性を持ち、一年後には攻撃がほぼ無効化されることが分かった。

 この反則的な耐性を人類は『状況適応能力』と呼んだ。


 難なく貫通していたライフル弾は、もうとっくに体表面で弾かれるまでに対応されてしまった。

 これから先、人類が強力な兵器を持ち出せば持ち出すほど、敵の防御力はより強固になってしまう。


 これを知った人類は、兵器による攻撃を控えた。

 いたずらに敵を強化させるわけにはいかないからだ。


 ならば短いスパンで次々と兵器をパワーアップさせ、耐性が付く前にカタを付ければいい。

 かといって、少量の火力アップでは意味がない。


 兵器の開発速度や、携帯性、そして費用や運用のし易さを考えると、大幅なパワーアップができるのは、五回か六回が限界だろう。

 それにすべて対応されてしまえば、人類に抗う術がなくなってしまう。


 敵がそのことを知れば、逆に大攻勢をかけてくるはず。

 そうなれば、塔は守り切れない。


 ならば兵器開発研究は継続し、期限が切れる数年前に一気に攻勢をかけて逆転させてしまえばいい。

 なるほど、それは名案だ。いまは雌伏の時なのだ!


 貴族はそう説明して、期限間際に大攻勢をすると発表した。

 世論がそれに誘導され、大攻勢の後、人類の勝利は約束されるのだと国民は信じた。


 そして「大攻勢のときに貴族が力を発揮できないでどうする」という主張のもと、いまも貴族優遇社会が続いている。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
なんというか貴族=サンは盛大に負けフラグを建ててそうな感じです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ