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003 依頼はいつも突然に

○ファミリーレストラン・シーグル店内 上野拳人


「拳人くん、お待たせ」


 ファミリーレストラン『シーグル』の店内でメニューを眺めていると、夏美が一人の少女を連れてやってきた。

 彼女が、夏美の魂妹(こんまい)だろう。


 ノースリーブのワンピースに、小さな麦わら帽子を被った正統派の美少女だった。

 彼女が「はじめまして」と会釈したとき、肩まで伸ばしたストレートの黒髪が少しだけ揺れた。


「はじめまして、夏美さんの友人の上野拳人です」

「お噂はかねがね聞いています。私は夏美さんの後輩で、高校一年の法院(ほういん)静香(しずか)と申します」


「シズカとは親の仕事繋がりで、小さい頃からよく知ってるの」

「夏美さんとは、とても親しくさせていただいています」


「そうなんだ……ん? 夏美のところって、ガス会社だよな」

 夏美の家は超金持ちだ。『水無瀬(みなせ)ガス』という名前で、甲信越と首都圏の一部に都市ガスを供給している。


 夏美の家のように都市のインフラを牛耳っているところは強い。その関係者というと……。

「水無瀬ガスにLNGを提供させていただいています」


 以前夏美から、LPGはプロパン、LNGはメタンやエタンを圧縮させて液化させたものの略称だと教えてもらった。

 そのLNGを提供しているということは、やはり目の前の少女の家も超がつく金持ちなのだろう。インフラを握っていると強いよな、ほんと。


「我が家は、バタフシャーン公国にある天然ガスの採掘権を持っています。その関係で、クランはあちらにおいてます」

「バタフシャーン公国……なるほど」


 バタフシャーン公国は、ジョージアとロシアの間にある小国だ。

 かつてはジョージアのバタフシャーン領であったが、本国がロシア領に組み込まれたときに、反ロシア政権誕生して独立を宣言。


 EUやアメリカ、日本などの後ろ盾を得て、公国を立ち上げたのがはじまりである。

 当初はかなり揉めたが、いまは完全な独立国となっている。


 ただし、そのままでは独立を維持できないので、経済は西側諸国の援助を受けつつ、塔にまつわる諸々を日本に依存している。


 現在日本は、バタフシャーン公国に複数のクランを派遣して、バタフシャーン公国の代わりに不壊(ふえ)の塔を守っている。


 なぜバタフシャーン公国は、西側諸国から覚醒者を派遣してもらわなかったのか。

 十字軍の例を持ち出すまでもなく、何度も西から攻められた経験があり、国民感情を配慮して、それらの歴史とまったく関係ない日本を選んだのである。


 当時一番経済的にイケイケだった日本はバタフシャーン公国と同盟を結び、クランを派遣するとともに、さまざまな影響力を行使したのである。


 たとえば公国の公用語は、ロシア語と日本語だったりする。

 バタフシャーン公国の国民のほとんどは、普通に日本語を話すことができるという。


「もしかして天然ガスの採掘権とバーターで、向こうにクランを?」

 法院さんは「はい、その通りです」と頷いた。


 せっかくクランを作ったのに、わざわざ他国の塔を守りたくないはず。

 ゆえに水面下でそういう取引があったのだろう。


「それで……特定の素材を求めていると伺いましたけど、公国から行けるゲートの周辺にないと難しいと思います。それとご存じかと思いますが、それなりの費用がかかります」


「そうだね。クランを海外に置いているとは思わなかったけど……俺が欲しい素材は『ギアギランの心臓』なんだ。ギアギランは森林に棲息している猿型の原生魔獣で、再生力が強いのが特徴だ。見つけるのは大変だけど、クランなら狩るのは難しくないと思う」


 法院さんは「ふむ……聞いたことがありませんね」とスマートフォンで検索していた。


「……確認しました。棲息分布図もありましたので、見つけるのは難しくないと思います。正式に依頼を出していただければ、見積もりをお持ちします」


「ありがとう。それで代価なんだけど、コレでお願いできるかな。先払いでもいい」

 俺はビニール袋に入った覚醒丸を取り出した。輝石(きせき)の粉が入っているので、キラキラと青く輝いている。


「このお団子は、何ですか?」

 法院さんが、コテンと首を傾けた。美少女がそういう仕草をすると絵になる。


「一般人がこれを食べると覚醒するんだ。ちなみに俺の能力で作ったから、どこにも出回っていない」

「…………」


「法院さんはまだ覚醒していないって聞いた。あげるから食べてみるといい。体重七十キロ以下なら二個だ」


 法院さんは目線で夏美に確認を取った。「この人、大丈夫?」という顔をしている。

 その大丈夫は「信頼できる人」を意味しているのか、それとも「頭」を指しているのか。


「拳人は信頼できる人よ」

 夏美がフォローを入れてくれた。頭のフォローは入れてくれなかった。


「……分かりました。何事も経験ですね。ただ、覚醒は人知の及ぶところではないと考えています。それでもこれを引っ込めませんか?」


「もちろん」

 俺は自信をもって頷いた。


 法院さんは俺に挑戦的な目を向けたあと、リスのように両手で持って、むしゃむしゃと食べ始めた。意外と度胸がある。


 アイスティーで喉を(うるお)し、「さてさて、どうなるのでしょうね」と興味深そうに残った三個の覚醒丸を見ている。

「十五分くらい待ってね」


 夏美がそれを眺め、「これって拳人が作ったの?」と聞いてきた。

「そう。俺が昨日作った。夏美も覚醒したかったら食べていいぞ。体重が七十一キロ以上百キロ以下なら三個だ。そこから十キロ刻みに、必要な個数が増えていく」


「私はそんなに太ってないからね。シズカと同じくらいだから!」

「ちなみに体重が三十キロ台なら一個な」


「体重の話はいいとして……ホントに覚醒するの?」

「俺の妹はしっかり覚醒した。一緒に作ったやつだから、品質に問題はないはずだ」


 覚醒丸を食べてからきっかり十五分後、法院さんの髪がふわっと広がり、存在感が増したのが分かった。

「えっ、シズカ!?」


「夏美さん……私、覚醒しました。本当に……本当に?」

 最後、法院さんの声が跳ね上がった。よほど驚いたのだろう。


「外から見てもシズカの変化が分かったよ。ちゃんと啓示が聞こえた?」

 法院さんは、手で口を押さえたまま頷いた。目が大きく見開かれたままだ。


 すると夏美が「いただきます」と覚醒丸を口に入れていた。早いな。

 だれも取らないのに。


「一個余ったのは、サンプルとしてあげる。これを依頼料にしたいから、何個必要なのか教えてくれ。作るのにはそれなりの手間がかかるのと、これを作成するための素材が結構必要なので、必要量は早めに言ってくれると助かる」


 俺が「それでいいかな?」と確認すると、法院さんは無言で何度も頷いた。契約成立だ。


 法院さんと連絡先を交換していると、夏美が「やった! 私も覚醒者になった」と叫んで、周囲の顰蹙(ひんしゅく)をかっていた。


 ちなみにここの伝票は、法院さんが持っていってしまった。

 年下の女の子に奢ってもらうのもどうかと思ったが、素材を買ってサイフの中身がさみしくなっていたので、甘んじて受けることにした。


 夏美も法院さんに「ごちそうさま」と軽い調子で言っていたが、夏美は超金持ちなんだから自分の分は出してもサイフの中身は傷まないだろうに。

 いや、超金持ちだからワリカンという発想がないのか。




○法院家・リビング 法院将馬(しょうま)


「にわかには、信じられないな」

「お兄様、決して嘘では……」


 将馬は、妹の静から大事な話があると言われ、急遽(きゅうきょ)家に戻った。

 そこで聞かされた話は、とんでもないものだった。将馬はいまだ、話のすべてを飲み込めていない。


「この団子の光り方は、輝石由来のものだろう」

「はい。私もそう思います」


 青い光を発する団子を将馬はさまざまな角度から眺めた。

「錬金術師が作る最高級のポーションですら、これの何分の一の輝きしか出せない。それを考えれば特別なものだと分かるが……」


 輝石は物質ではない。エネルギーの塊だ。

 熱や電気を固めて結晶にしたと考えれば分かりやすい。


 当然、現代の技術で再現不可能なしろものである。

 そのせいか、輝石研究はまったく進んでいない。


 なにしろ輝石を削ると、本体からこぼれ出たカスはすぐに霧散してしまう。

 半分に割れば、両方とも空気中に溶けて消えてしまう。


 とにかく扱いが難しく、研究者泣かせなのが輝石なのだ。

 つまり、何が言いたいかというと、これほど濃く輝石のエネルギーを現代技術で閉じ込めておけるはずがないのだ。


 そして極めつけが……。

「食べると覚醒する……?」


 そんな効果など、聞いた事がない。

 それが可能なら、覚醒者を増やし放題ではないか。


「本当です、お兄様。私と夏美さんが、これを食べて覚醒したのですから」

 妹の静が必死に訴えるが、そんなお手軽に覚醒できたら、世間がひっくり返るのではと将馬は思ってしまう。


 覚醒すれば身体能力が上がり、病気にかかりにくくなり、寿命も延びる。

 それだけでなく、一部の覚醒者はさまざまな特殊能力にも目覚める。


 それだけ覚醒には多くのメリットがある。

 ゆえに、覚醒者を増やす特殊能力などという話は、古今東西聞いたことがない。


 それに妹の話からすると、彼――上野拳人の能力はそれだけではないらしい。


「失った腕を生やすために、ギアギランの心臓が必要だと言ったんだな?」

「はい。なぜその素材が必要なのか聞いた際、そう答えていました」


「身体欠損の完全修復? すさまじい能力だぞ」

 高価な素材、希少な素材が必要だったりするのだろうが、逆に素材さえ揃えば他にも有用なものを作れるのかもしれない。


「それで、クランを動かす依頼料についてですが、どうしましょうか」

「こんな前例のないこと……双方が納得できるような見積もりなんて、作成できないぞ」


 とりあえずクランは動かす。すぐにでも。

 依頼料に関しては……父に相談するしかない。


 相談された父も困惑するだろうとは、将馬は言わなかった。



ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

本日の投稿は以上です。

明日も同じ時間に、2話投稿します。

また、本作品は1章の最後まで毎日連載します。


本作品を読んで、どのように感じたでしょうか。

感想をお聞かせ願えれば、作者は喜びます。

それでは引き続きよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
主人公の立志の動機が無理のない展開で期待できる出だしでした 最初は身近でもいいから誰がために何のために力をふるうのかがちゃんとしていると自分は興味を持って読み進められます 今後の展開も楽しみにしていま…
まだまだ謎が多そうですが、とりあえずスルッと内容は頭に入ってきました。 覚醒者を増やし放題……始まりは公平だったのに、それでいいのか「声」さん。 あと何気に体重バレを誘うお団子さんの罠よ。
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