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僕と彼女の猟奇的な日常  作者: nnnkkk
続 僕と彼女の猟奇的な日常

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第二話 SAINO EDITION

「Saino Edition」


その単語だけが、妙に浮いて聞こえた。


茂の視線は動かない。


記憶が自然に繋がる。


夜。

三和通商。

坂口と並んで座ったデスク。ノートPC。


Zoom。

画面越しの異国の空気。


妙に明るい男だった。チャーリー。

CEOとは思えないテンション。スーツではなくシャツ姿。


背景にはマシニングセンターが並んでいた。


「Hi, Saino!」


場の空気を無視した、あの声。


「I finally get to talk to the guy actually USING it」


坂口が淡々と訳す。


『やっと実際に使ってる人と話せる』


『アメリカじゃ皆、銃ばっかりだからな』


『さすがサムライの国だ』


営業の温度ではなかった。


画面の向こうでチャーリーは笑っていた。


『どうだ? あの槍。で、何が欲しい?』


唐突だった。

性能評価でも満足度調査でもない。改良点の質問。


「……」


茂はわずかに迷った。

だが出た言葉は単純だった。


『失敗しないやつ』


坂口が一瞬だけ言葉を止めたのを覚えている。


チャーリーは笑った、異様なほど嬉しそうに。


『Perfect』


『That’s the ONLY correct answer』


『いいね』


『それが正しい』


あの時の空気。


あの笑い。


あの目。


今、手の中にある黒い槍と、完全に繋がった。

茂はゆっくり視線を落とす。


Interdiction 4.5。


「……あの時の話か」


「繋ぐけど大丈夫?」


坂口の声は静かだった。


「今ですか?」


「そう」


説明ではなく進行だった。


「本人が待ってる」


店長の視線が坂口へ向く。一拍遅れて、茂を見る。


「いいですか?」


「うるさくするなよ」


「はい」


即答。


坂口は無言でタブレットを鞄からとりだした。

慣れた動作だった。

接続音。


画面が光り、チャーリーが映った。


相変わらずだった。笑顔。異様な高揚。

背景は前回と同じ、マシニングセンター


「SAINO!!」


店の空気が一瞬で破壊され、店長がビクッと肩を跳ねさせた。


坂口だけが無反応。完全に慣れている。


「Oh my god, look at that face」


チャーリーは笑っている。


止まらない。


「He already touched it, didn’t he?」


坂口が淡々と訳す。


『もう触りましたよね?』


「……はい、まぁ」


茂の返答は短い。


チャーリーがさらに笑う。


「I KNEW IT」

『分かってた』


「That reaction」

『その顔』


「That’s EXACTLY why we built it」

『だから作ったんだよ』


茂は何も言わない。


画面。


槍。


もう一度、画面。

チャーリーの視線が異様だった。


評価でも営業でもない。


観察だった。


「How does it feel?」

『どうです?』


坂口が繋ぐ。


茂は少しだけ考える。

言葉を探すというより違和感を言語化する時間。


「……重いですね」


少し考えてから言う。


「でも、嫌な重さじゃない」


チャーリーが真顔になった。

坂口が訳しチャーリーの表情が崩れる。


「YES」


「YES YES YES」


異様な興奮。


「CENTER MASS SHIFT」

『重心を移動させました』


「Carbon-Titanium Composite Shaft」

『複合材シャフトに変わってます』


「You’re actually FEELING the structure」

『君はもう、この武器の構造を手で理解している』


店長が完全に置いていかれていた。


「……なんだこれ……」

小さな呟き。



チャーリーは止まらない。


「Ports?」

『ポートは見た?』


茂の視線が自然にブレードへ落ちる。


「……8」


チャーリーが笑う。


「DOUBLE INJECTION RATE」

『注入速度は2倍の速さに』


「Because hesitation kills」

『一瞬の遅れが命取りになる』


坂口の訳だけが静かに店内へ落ちた。

空気が、わずかに冷える。


「Indicator?」


チャーリーの視線が槍へ固定される。


茂は自然にチャンバーへ目を落とす。


「……ありますね」


小さな突起、赤いインジゲーター。

V-Gelが使用可能かどうかだけを示す、単純な表示。


「Good」


満足の頷き。


「That thing saves lives」


坂口が訳す。


『それは生存率を上げます』


生存。

という言葉の選び方だけが妙に正確だった。


「Ejection system?」

『排莢機構は?』


茂の指がチャンバーラッチに触れ、

フォアエンドを引いた。


カシャン


「……軽いな」


チャーリーの笑顔が戻る。


「YES」


「Speed is mercy」


坂口が一瞬だけ訳を迷った。

だが最終的に言葉を落とす。


『速さが命です』


チャーリーは笑っている。


「Blade?」

『刃は?』


「Cobalt maraging steel」

『素材を変更しました』


「DLC coating」

『コーティングも変更してあります』


茂の視線が刃へ落ちる。

坂口の訳は簡潔だった。


「で」


茂が静かに言った。


「いくらなんです?」


店の空気が少しだけ変わる。

坂口の視線がわずかに揺れる。


チャーリーは笑顔のまま止まった。

ほんの一瞬。

次の瞬間。


「NOT FOR SALE」


即答だった。


「……は?」


店長が素直に声を出した。

坂口は静かに言葉を整える。


『販売モデルではありません』


「え?」


茂の視線が上がる。

チャーリーは完全に楽しそうだった。


「LIMITED MODEL」

『限定モデル』


「Name registered」


『モデル名、確定済みです』


チャーリーの顔が、画面いっぱいに近づいた。

満面の笑み。


「Interdiction 4.5」

チャーリーは首を振った。


『それは型番だ』


笑う。


『名前じゃない』


「SAINO EDITION 」


茂の視線は動かなかった。


「……もうそれ聞きましたけど」


坂口が、一瞬だけ言葉を探した。

「……参考価格ですが」


店の空気が静かに固まる。


「試算で――」

「約54000ドルになります」


「……いや」


最初に反応したのは茂だった。

即答。

迷いなし。


「無理でしょ」


チャーリーは笑顔のまま首を傾げる。


「Why?」

「なぜ?」


坂口が訳す。


「高すぎる」


それだけだった。

感情も装飾もない。


「Price isn’t the issue」


坂口が訳す。


『価格の話ではない』


「Concept」

「これは思想」


「Symbol」

「そして象徴」


坂口の訳は短く落ちる。


「違います」


茂の声は静かだった。


「道具でしょ」

「武器ですよね?」


店の空気がわずかに張り詰める。


チャーリーが笑った。


「YES」


異様なほど楽しそうだった。


「Exactly」

『だからだ』


「Good tools need proper hands」

『良い道具には適正な使い手が必要』


「Sports」


「Athletes」


「Signature models」


坂口が淡々と翻訳する。


『スポーツ選手と同じです』


『優れたプレイヤーには専用モデルがある』


『それが自然だ』


「いやいや」


茂は首を振った。


「意味が分からない」


チャーリーは止まらない。


「Market doesn’t care」

『市場は気にしない』


「Story matters」

『物語が価値になる』


坂口が訳す。


店長が小さく呟いた。

「……なんなんだこの会社……」


チャーリーの目が異様な光を帯びる。


「Catalog」


「We’re already working on it」


坂口の指が止まる。


『……カタログ?』


茂の視線が上がる。


「Photo composite」


『写真を合成して』


「You holding it」


坂口の訳だけが静かに落ちた。


『茂くんが槍を持っているカタログを制作中です』


数秒。


完全な沈黙。


「……は?」


茂の声が低くなる。

チャーリーは満面の笑みだった。


「SIGNATURE MODEL」


「Unit 01」


「Gift」


坂口がゆっくり言葉を置く。


『無償提供だそうです』


空気が、わずかに歪んだ。

本日もお読みいただきありがとうございます。


少しでも「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、

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明日も21時に更新予定です。引き続きよろしくお願いいたします。

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