第2話 武装した日常
同じ日のうちに世界の都市に似た映像が流れた。
そこで初めて理解した、地域の事故ではない。
国境で止まる話でもない。
ただ――崩れ方には差が出た。
民間に銃があるかどうか、という単純な話ではない。
軍や警察が国内で動きやすい国は、初動が違う。
規制が強く、国内で軍が動きにくい国ほど、空白が傷になった。
封鎖はできる。
警告も出せる。
だが封鎖と警告は「守る」ではない。
守るために入って、止める者が要る。
同じ現象が起きているのに、
ある国では「対応の遅れ」になり、
ある国では「秩序の遅れ」になる。
最初の一週間はどの国も似ていた。
確認。封鎖。警告。会見。
そして同じ言葉――「調査中」
一か月で世界は別の形に変わった。
問題は獣の被害じゃない。遅れだった。
遅れは、生活そのものに入り込んだ。
二か月目には制度の方が擦り切れていく。
人員は増えない。予算にも限界がある。
警察も軍も「危険区域に入ること」に慣れていない。
三か月目、政府は「緊急」を言わなくなり、文書だけが増えた。
規制に例外、手続き、区域。
社会を縛る線だけが増えていく。
半年の終わりに残ったのは、恐怖ではなく疲れだった。
同じ現象を受けても、
立て直せる国と、削れていく国に分かれる。
日本は変わり方が一番きつい側に寄った。
自衛隊は動く。災害対応として当然だ。
だが国は臨時出動ではなく「恒常増強」には踏み込めない。
中韓は、日本の増強を「軍事化」「再軍備」と呼ぶ。
さらに金が続かない。景気は落ち、税収も落ちる。
一時的に動かすことはできる。だが、増やし続けることはできない。
穴だけが増える。
守れない場所が増えれば、次に生まれるのは自衛だ。
「守れ」と言うだけでは、人は死ぬ。
「出るな」と言うだけでは、社会が止まる。
道路は通さないといけない。
線路も回さないといけない。
だが全ての地点に、警官も隊員も置けない。
だから国は、線を引く。
危険区域。警戒区域。立入制限。自己責任。
責任の形を作ったあとで、ようやく道具を出す。
銃ではない。
代わりに銃以外を緩める。
護身具と防護具を害獣駆除の文脈で認める。
現役のハンターと猟友会が、最初に現場へ出た。
だが数が足りない。都市は広く獣は多すぎた。
こうして国は体裁を保ったまま、国民に刃を渡した。
――自分の命は、自分で守れ。
敗北宣言には見えない形に整えられた、最低限の生存戦略だった。
だが武装しても害獣は減らない。
危険区域は増え、警報は鳴り続ける。
そして社会は気づく。
これは「自衛」では足りない。
駆除が要る。
国は、金で人間を動かす。
――駆除制度。
それは制度上、害獣だ。
害獣として扱えるなら、行政は駆除にできる。
駆除にできるなら、予算にできる。
財源は緊急予算。
目的は駆除と、治安維持。
失業者が増えていた。
輸送が止まり、店が閉じ、工場が止まり、仕事が消える。
国は仕組みを急いで作る。
駆除証明アプリ。
駆除成立の記録を取り、位置と時間を残し、認定を自動化する。
駆除制度が回り始めると、次に問題になるのは「人間の形」だった。
国は、駆除従事者を管理したい。
危険を引き受ける理由が要る。
報奨金。危険手当。
制度の外にいた人間まで呼び込む仕組みを作った。
登録駆除従事者。
登録すれば、ベーシックインカムが出る。
装備も、情報も、最低限の保護もつく。
代わりに義務が増える。
守られる代わりに縛られる。
縛られるのが嫌な人間は必ず出る。
制度の外に流れた者たちは、自分を別の名前で呼んだ。
未登録駆除従事者――現場では、フリーの駆除屋。
恩恵はない。義務もない。
その代わり、組織には命令されない。
国はそれを潰し切れない。
フリーを潰せば、駆除の手が減る。
だからグレーを線引きせず、制度の外側に残した。
そしてもう一つ現実が噛み合わなくなる。
死体だ。
駆除が増えれば、死体が増える。
回収が追いつかない。行政が委託していた回収が、すぐ飽和する。
ここで市場が生まれた。
民間回収業者。
害獣回収の延長で始まった業者が、害獣の死体を扱い始める。
未登録は制度上、国へ直接出せない。
業者は回収して、運び、証拠を整え、申請する。
後日、控除後の金がフリーに渡る。
害獣を殺す。
死体を業者に売る。
業者が回収記録と引き渡しログを揃え、案件番号に紐付けて申請処理に回す。
報奨金との差額で業者が利益を出す。
こうして駆除は、国家の制度であり、同時に――制度の隙間で回る民間ビジネスになった。




