表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/30

手記


作りたい薬がある、と言った時、先輩は大笑いして言った。


そんな薬、できるわけが無い、と。


長い長い歴史を持つベルスター王国の記録に、その薬の記録はない。


この国と、隣のランスター王国でのみごく稀に発生する、聖霊の病と呼ばれる奇病。


発症すると、体が徐々に聖霊石に変わっていき、やがて全身が結晶化する。


その治療薬を作ろうと何人もの魔法薬師が人生を捧げたが、結局誰一人完成させることが出来ずに散っていった。



私は研究室の自分の部屋に入り、椅子に座って静かに息を吐いた。


目を閉じると、薄い青緑の、透き通った結晶が頭に浮かぶ。


うっすらと微笑みを浮かべた、母だった者の成れの果て。


私が母と何かをした記憶は、実はあまりない。


小さい頃の私はお転婆で、兄たちに付いて外で遊び回るばかりだった。


むしろ、お淑やかなひとつ上の姉の方が、母と過ごした時間が長かったのではないだろうか。


もっと母の傍にいれば良かった。


後悔しても、もう遅い。


重くなった気持ちを振り払い、私は取り出した資料を開いた。


それは、はるか昔の研究員の手記だった。


彼は王家傍流の出身であり、自分自身が聖霊の病を発症した。


手記には、迫り来る死に対する恐怖と絶望、それから病を治そうとした試行錯誤の結果が乱雑に記されている。


もともと癖字が酷く読むには時間がかかるし、最後の方の筆跡は乱れすぎていて解読ができない。


しかし私は、この記録が最も治療薬の開発に近いと感じている。


だから私は今日も、この手記に最初から目を通す。


何度も、何度も。


既に内容を覚えていようとも。


何十と書き連ねられた計算式、何百ものレシピ。


それら全て、解読を間違えていないか目を皿のようにして確認する。


今日もひとつ、計算式の中に別の文字とも読み取れるものがあったので、それをメモする。


明日、検証しよう。


そばに置いたマグカップを取り、すっかり冷えたお茶を流し込む。


気付けば日は落ち、魔導灯が灯り始めていた。


パラパラと手記をめくる。


最後のページには歪んだ文字で、彼の最後の言葉が記されている。


『私が間違っていた。全ての答えは始まりの───にある』


彼は最後の力を振り絞ってこの言葉を書き残し、そして死んだ。


美しい、結晶となって。


答えは始まりの───にある。


肝心の部分が滲み、読み取ることができない。


これさえ分かれば、聖霊の病の治療薬は作ることができる。


私はそう、思いたい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ