ジェイル・ヘンドリクス
南部最大の都市カンジャスは、古くからベルスター王国への入口の街として発展してきた。
ベルスター王国に輸入される品物は、ほぼ全てここを経由して各地に運ばれていく。
南の辺境伯家、ギルベルト家の領都でもあり、軍の駐屯地がある。
初めて見るカンジャスは、想像よりもずっと大きかった。
高い城壁がぐるりと都市を囲み、その向こうで海が煌めいている。
近くには聳え立つ巨大な赤い岩の山があり、その岩肌には所々、遺跡のようなものが見えた。
辺境伯軍の駐屯地に緑竜を預けていると、一人の騎士が駆け寄ってきた。
「アシュフォード様!お待ちしておりました」
燃えるような赤い髪に、エメラルドのような緑色の瞳。
辺境伯軍の軍服に、マントを羽織っている。
「カンジャス遺跡調査団の警護を任されております、ギルベルト辺境伯軍第三分隊副官の、ジェイル・ヘンドリクスと申します」
きっちりと敬礼をした騎士を、私は知っている。
「先輩!?」
エヴァンが返事をする前に、驚いて声を上げてしまった。
完全なるマナー違反だ。
慌てて口を噤んだが、エヴァンは特に気にとめた様子はなかった。
「ヘンドリクス卿もアリーシャの知り合いか?君は意外と顔が広いんだな」
「学生時代の先輩です。私が薬学科に転科する時、推薦状を書いて頂きました」
ジェイルに会うのは久しぶりだ。
彼が卒業後、第一騎士団からの入団の誘いを断り、地方の辺境伯軍へ入ったとは聞いていた。
まさか、ここで再会するとは。
「久しいな、アリーシャ。マーシャルが会いたかっていたぞ」
マーシャルはあの時に火傷の治療薬を作った私の友人で、ジェイルの妹だ。
彼女はその後無事に魔法騎士となり、第一騎士団に入団した。
今は外交で諸外国を巡っている第二王妃の護衛として同行している。
学生の頃、戦闘訓練で火傷を負い絶望していた彼女を見ていられず、私はこっそりと魔法薬を作った。
そしてそれをきっかけに私は魔法薬学科へ転科し、今ここにいる。
「私も会いたいです…」
「あと数ヶ月で帰国するらしいから、その時は是非我が家へ遊びに来てくれ」
「はい!もちろんです。すみません、エヴァン様」
私が声をかけると、エヴァンはひとつ頷いた。
「構わない。それでは、ヘンドリクス卿。案内をお願いしても?」
「はい!こちらです」
ジェイルに先導され、歩き出す。
振り返って緑竜の方を見ると、私たちを見送るように小さく尾の先を振ってていた。
私も小さく手を振る。
晴れ渡った空の下、美しい鱗がきらりと光った。




