死体の山
しばらくすると、澄んだ笛の音が辺りに響いた。
緑竜が降下を始め、着陸の体制を取る。
「オリバー卿!ご無事ですか!」
滑り降りるように地面に立つと、少し離れた場所に出来たゴブリンの死体の山の前に、オリバーが立っていた。
「もちろんかすり傷ひとつありません!少しお待ちください、近くにいる騎士団に今回の件を報告しますので」
オリバーが報告書を作っている間、エヴァンはゴブリンの死体に近づいた。
「魔物の死体か…古代では魔法薬の素材に使われる事もあったと言うが…今では焼却処分するしかないのだろうか」
「魔物の体には瘴気が蓄積していますから…。薬効は素晴らしいと論文にありましたけれど、廃棄するしかないでしょうね」
死体からこぼれ落ちた黒い血が、大地を濡らしている。
「今、近くの第六騎士団と連絡が付きました。死体の処理は彼らが引き受けてくれるとの事です。少し土を汚染してしまったので、この辺りの地主に事情を説明しに行きたいのですが、寄って構いませんか?」
オリバーが通信用の魔導具を手にやって来た。
「もちろん。騎士団を待たなくてもいいのか?」
「ええ。最近この辺りでゴブリンの襲撃が多く、日常茶飯事との事だったので大丈夫だそうです」
「わかった。では行こう」
私は念の為、オリバーの全身をじっくりと観察した。
服にも鎧にも、傷一つない。
「お疲れではないですか?疲労回復ポーションなら軽いものを今持っていますけれど…」
「心配ご無用ですよ!この程度、赤子の手をひねるようなものです」
おどけるオリバーに、ほっと胸を撫で下ろす。
私たちが向かう先は、木造の家が密集する小さな集落だった。
見慣れない客に驚いたのか、村人が家から顔を見せている。
地主の家は、周りよりも少しばかり大きい程度の素朴な家だった。
花壇にたくさんの花が植えられ、穏やかな風に揺れている。
「ごめんください。村長のロッソさんはご在宅ですか」
オリバーが声をかけると、焦げ茶の髪を短く刈り込んだ、がっしりとした男性が顔を見せた。
「はい。ロッソは私ですが…」
ロッソは、キラキラとした顔のいい若者を目の当たりにして目を丸くする。
オリバーが丁寧に事情を説明すると、彼は深々と頭を下げた。
お礼に夕食を、と言われ、甘えることにする。
ついでに泊めてくれるらしい。
「じゃあ僕は、エルメラと荷物のことを第六騎士団の連中に頼んできます」
再び魔導具を取り出したオリバーが言った。
窓の外では夕焼けと夜空が美しいグラデーションを描いていた。
ここからあと数時間も進めば、南部最大の都市、カンジャスに辿り着く。
私は期待と不安を胸に、静かに空を眺めた。




