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緑竜



緑竜の背に取り付けられた鞍に乗り、しっかりと体を固定する。


手網を握るのは私の前に座ったオリバーだ。


後ろにはエヴァンが座っている。


「よろしくな、エルメラ」


オリバーが優しく声をかけ、手網で合図を出した。


緑竜は嬉しそうに鳴き声を上げ、大きく翼を広げる。


同時に、力強い魔力が周囲を満たした。


エメラルドグリーンの鱗が光を帯び、発動した風魔法が飛び立つのを補助する。


緑竜は纏められた物資をしっかりと両足で掴み、優雅に大空へ飛び立った。


同時にオリバーが結界を展開する。


緑竜は滑らかに高度を上げ、あっという間に雲の上へ到達した。


「凄いな。今まで私が乗った飛竜の中で、一番スムーズだ」


緑竜の体勢が安定し、私達も体を水平に保てるようになった頃、エヴァンが感心したように言った。


オリバーの結界は風避けと日除けの効果などが発動しているようで、内部がかなり快適になっている。


「そうですね!エルメラは騎士団の中でも有名なんですよ。運が良かった!」


と、オリバーが返す。


私は緑竜の体に隠れて下があまり見えないことに、少しばかりほっとしていた。


「平気か?」


「はい、ありがとうございます」


流れていく雲を眺めながら、エヴァンの問いに返事をする。


「ところで…今回どうしてお二人がカンジャスまで?魔法薬師が飛竜に乗ってわざわざ行く遺跡だとは思えませんが…」


「あぁ、調査団に同行している、結界魔法師のナルサス老師に用があるんだ」


「そうなんですか!ナルサス老師なら、私も一度お会いしたいと思っていました」


当たり障りのないことをぽつぽつと話しながら三時間ほど飛んでいると、緑竜が不意に小さく声を上げた。


「どうした?」


「そろそろ休憩したいみたいです。近くにマルタという村があるので、そこに降りましょう」


「わかった」


オリバーが軽く手網を引く。


緑竜はそれに応えて速度を緩め、ゆっくりと降下を始めた。



マルタ村の端にある森の中の小さな泉の畔に降り立った緑竜は、私たちを下ろして嬉しそうに水を飲んだ。


オリバーが荷物からリンゴを取り出し、そばに置いてやる。


近くの木下に座り、私は鞄から昨日頼まれたスピア菓子店の袋を取り出した。


「アシュフォード室長。こちら、昨日頼まれたものです。あと、指輪もお返し致します」


「あぁ、ありがとう。君はなにか買ったか?」


「はい。お言葉に甘えて、金平糖を購入しました」


「あの人気商品か。君は運がいいな」


袋を受け取ったエヴァンが、嬉しそうに中身を確認する。


「そうそう、良かったら私のことはエヴァンと呼んでくれ。私も君のことを名前で呼んでかまわないか?」


キャラメルを数個こちらに差し出しながら、エヴァンが言った。


「えっと、はい。大丈夫です」


「じゃあお二人とも、僕のこともオリバーって呼んでくださいね」


お湯を沸かしたのか、鍋を持ったオリバーが近づいてくる。


「わかった。そうしよう」


「わかりました…」


戸惑う私を置いて、男性二人組は楽しげにお茶の準備を始めた。


泉の畔では、緑竜が美味しそうに林檎を頬張っている。


「お茶をどうぞ、アリーシャ」


「ありがとうございます。…エヴァン様」


「はい、おやつのパイです。アリーシャ嬢」


「…ありがとうございます、オリバー卿」


三人は軽食を囲い、顔を合わせて笑いあった。


その後再び飛び立った緑竜は、調子が上がってきたのか更に風に乗り、予定した宿泊先の街まで一息に私たちを運んだ。


街の名はトラン。


トラン伯爵家の領都だ。


「私はトラン伯爵に挨拶をしてくる。先に宿に行っていてくれ」


「わかりました。よろしくお願いします」


軽く身支度を整えたエヴァンが、通りすがりの貸馬車を呼び止める。


それを見送り、緑竜と荷物を伯爵領の警護に付いている第三騎士団に預けて宿に向かった。


「では部屋で少し休みましょう。夕食はエヴァン様が戻ってきてからで」


「わかりました。ではまた」


宿の使用人に案内されて通された部屋には風呂が備え付けられており、温泉が引かれていると聞いたので私は入浴の準備をした。


その後は温泉の成分を解析してみたり、クロードの手記をぼんやりと眺めてみたりとゆっくり過ごした。


自分で思ったよりも緊張していたようだ。


あんなにも高い空を飛んだのは、初めてのことだった。


不意に扉がノックされ、オリバーが私を呼ぶ。


「アリーシャ嬢。エヴァン様が戻られました。夕食にしましょう」


「すぐ行きます!」


手記を鞄に戻し、姿見で軽く身なりを整える。


ハンナに渡された、白いワンピース。


裾でゆらりと、小魚が泳ぐ。


「お待たせしてすみません」


階段をおりて食堂へ行くと、エヴァンとオリバーがゆったりとワインを飲んでいた。


「いいや、大丈夫だ。では頂こう」


私の姿を見て、エヴァンが少し目を見張る。


驚いた顔もつかの間、サッと夕食が運ばれきた。


メインはデミグラスソースのたっぷりかかったハンバーグだった。


大きく切られたゴロリとしたパンに、ポトフとサラダが添えられている。


その他にも数皿のおかずがあり、どれも美味しそうだ。


「アリーシャは酒は飲めるのか?」


「ええと…友人に絶対に飲むなと、言明されています…」


「一体何をやらかしたんだ…?」


「知らない方がいいと言われて、聞いていませんが…かなりの迷惑をかけたみたいで…」


オリバーがさりげなくワインのボトルを私から遠ざける。


エヴァンが店員にお茶を頼んだ。


私に飲むなと忠告した友人の必死な様子を思い出し、私は肩を竦めた。


あんなにも必死に飲むなと忠告されたものを、わざわざ試す必要もない。


*卿は騎士を呼ぶ一般的な呼び方です

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