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オリバー・ハルトラン


飛竜の厩舎には、魔法騎士団の軍服を着た騎士が一人と、城の総務員、そして飛竜の飼育員が待っていた。


その近くには、遺跡調査団への補給物資と思われる箱が複数積まれている。


「お待ちしておりました。私はこの度の護衛役を務めます、オリバー・ハルトランと申します」


金髪碧眼の背の高い騎士が姿勢を正し、敬礼をする。


美しく磨かれた銀の鎧がきらりと光った。


「待たせてすまない。この度はよろしく頼む。こちらは同行する、私の部下のアリーシャ・ランベルト研究員だ」


「伺っております。お任せ下さいませ」


オリバー・ハルトランという名前には聞き覚えがあった。


私が魔法科に在籍していた頃、常に成績上位者の中に彼の名前があった。


西の辺境伯家の出身で、戦闘能力はこの国でもトップクラスだろう。


オリバーは私と目が合うと、にこりと笑った。


どうやら彼も、私のことを覚えているらしい。


「お久しぶりです。今回はよろしくお願いします」


丁寧に頭を下げると、彼はますます嬉しそうに笑った。


「お久しぶりです、ランベルト嬢。卒業以来ですね。転科なされてからなかなか顔を見せてくれないので、先輩がぶつくさと文句を言っておられましたよ」


私に魔法薬学科への転科を進め、推薦状を書いてくれた先輩のことを思い出す。


私は苦笑して言った。


「すみません、ご迷惑をおかけして」


「いえいえ、良ければ今度、手紙を書いてあげてくださいね」


「そうします。ありがとうございます」


話し込む私たちの隣で、エヴァンは総務員との打ち合わせをしていた。


すると奥から、飼育員が今回使用する飛竜を連れてくる。


美しいエメラルドグリーンの鱗が、陽の光で輝いていた。


それは美しい緑竜だった。


黄金の瞳が優しく、私たちのことを観察している。


飛竜は魔力を持った生物の頂点に君臨する種であり、知能が高く、長い寿命を持つ彼らは昔から長いこと、人間と共存関係にある。


鱗の色によって属性が異なり、緑竜は風属性だ。


性格が大人しい個体が多く、最も移動手段に最適だと言われている。


「こちらはエルメラと言う名のメスで、今年で76歳の若い竜です。人懐こい性格で魔法の扱いも上手く、一番安心して乗っていただけます」


飼育員が優しくエルメラの首筋を撫でる。


「しかし若いということもあって少し持久力に乏しい一面があります。賢い子なので自分で休息を取ろうとするでしょうから、その時は無理をさせず休ませてあげてください」


その他にも細々とした注意事項の説明があり、私はそれをメモに取った。


続いて総務員が、支給品と補給物資の説明を始める。


「まずこちらがテントになります。防水加工がされていて、嵐が来ても安心です。しっかりとこちらの杭を使用して地面に固定してください。全て刺し終えると魔法が発動し、結界が発動する仕様になっています。続いて携帯用の魔道コンロですが、こちらは使用される方の魔力で稼働するようになっています。食材と水は最低限ご用意しました。遺跡調査団宛の物資もありますので、本当に最低限になっています。不足分は道中足すようにお願いします。調査団宛の物資の中は主に発掘用の資材だと聞いています。高価なものなので、くれぐれもお気をつけ下さい」


「物資に軽量化魔法や箱の拡張魔法はかけていないのか?」


総務員に渡されたリストを眺めながら、エヴァンが質問する。


「申し訳ありません、調査団への補給物資の中に採掘用の魔導具があり、魔法が干渉してしまって強くかけられないのです。飛竜が無理せず運べる程度に、最低限はかかっているとのことでした」


「なるほど、そういう事か。ありがとう」


「ご理解頂き恐縮です。他にご質問がなければ、準備を進めますが、よろしいでしょうか」


エヴァンが私とオリバーを振り返った。


特に気になることはない。


頷くと、エヴァンは総務員に視線を戻した。


「大丈夫だ。よろしく頼む」


「かしこまりました。ではもう少々おまちください」


飼育員と総務員が作業を始める。


エヴァンとオリバーがテントの取扱説明書を確認し始めたので、私は気持ちよさそうに日光を浴びる緑竜をじっと眺めた。


しなやかな筋肉に覆われた巨体は、大型馬車三台分くらいだろうか。


もっと歳かさの竜はこれよりも大きいはずだ。


しばらく竜を眺めていると、エヴァンが隣にやってきた。


「ハルトラン卿と面識があるとは驚いた」


「はい。魔法学院の同期です。もっとも、クラスも違いましたし、私は途中で薬学科に転科しましたので…彼が覚えているとは思いませんでした」


「君は最初から、魔法薬学科だったとばかり思っていたが…」


「母が亡くなって…寂しかった私は、仲の良かった兄を追いかけるように魔法騎士を目指したんです。ですが私の魔力量では思うように実力が伸びなくて…」


「ランベルト嬢の精密な攻撃魔法は、僕のクラスでも有名でしたよ。針の魔法に麻痺を付与して的確に防具の隙間を狙ってくる恐ろしい女の子がいる、って」


いたずらっ子のような顔をしたオリバーが会話に加わる。


私は思わず赤面した。


「ハルトラン卿!」


「僕の友人が模擬戦でランベルト嬢と当たったことがあるんですが、確かに威力はそうでもないけれど、組み合わせの仕方やコントロール力が凄いと褒めていました。卒業まで魔法科に居れば、第三か第四騎士団になら確実に入れたと思いますよ」


魔法騎士団にはそれぞれ、異なった役割がある。


第一騎士団は城の警備や王族、上位貴族の警護。


第二騎士団は王都とその周辺の治安維持。


第三と第四騎士団は、王城以外の施設の警備や、中級貴族の警護などが割り振られている。


ちなみに第五と第六騎士団は主に魔物討伐の任についており、要請に応じて国中、時には外国にまで遠征に行くことで知られていて、ここには戦闘狂と呼ばれる騎士たちが揃っている。


ちなみにオリバーは第一騎士団の騎士だ。


公爵家のエヴァンの為に派遣されたのだろう、


現役の騎士に褒められ、私は少し嬉しくなった。


そんなことを話していると、総務員が準備が終わったと声をかけてきた。


「では、行こうか」


エヴァンが総務員の方へ歩き出す。


私も気を引き締めた。


これから向かう先に、私の求める答えがあるかもしれない。


そんな希望を胸に、私は王都を旅立つ。


第二章開始です。

よろしくお願いしますm(_ _)m


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