公爵邸の謎
暫く歩いたあと、私はちらりとエヴァンを見上げた。
彼は少し難しい顔で、何かを言おうとして言葉を探しているような仕草を見せている。
「…どうかされましたか?」
「いや…少し、気になることがあってな」
エヴァンは一瞬言い淀み、ポケットから古い紙を取り出した。
「歩きながらちょっと、見てもらえるだろうか」
「はい」
受け取って開くと、そこには大きな屋敷のざっくりとした見取り図が書いてあった。
「これは、アシュフォード公爵家のタウンハウスの見取り図だ。前に、我が家はフォーゲル公爵家の縁者で、領地と屋敷を引き継いだと話しただろう?」
「はい。伺いました」
「昨日祖父に聞いてみたら、クロード・フォーゲルが書いた論文も、もしかしたら我が家に保管されているかもしれないと言うんだ」
私は思わず足を止めた。
エヴァンも同じく立ち止まる。
「その見取り図は、ずっと昔の公爵邸の見取り図だ。改修前の、フォーゲル公爵邸だった頃の。そしてこっちは、アシュフォード公爵家が引き継いで、改修した後のもの。ここを見て欲しいんだが…」
エヴァンはもう一枚紙を取り出し、ある部分を指し示した。
「ここ、地下への入り口が改修後に消えているんだ。そしてわざわざ、別の場所に地下室を新しく作っている。祖父は隠された地下室には、フォーゲル公爵家の当時の物が残っていて、何らかの理由でアシュフォード公爵家が隠蔽したんじゃないかと言っていた」
私は食い入るように図面を見つめた。
もしも、クロードの論文が他に見つかったなら。
治療薬への道が開けるかもしれない。
「実は祖父の祖父の時代に、アシュフォード公爵家の直系が不慮の事故で祖父一人まで減ってしまったことがあってな。その時、公爵家の当主にのみ引き継がれる口伝が失われてしまったんだ。祖父は、おそらくフォーゲル公爵家に関連することだと推測している。この話を聞いた後、この場所に行ってみたんだが…壁に聖霊王の絵がかけられていて、これが魔法で固定されていたんだ。かなり昔の術式でビクともしないから一旦諦めたというわけだ」
エヴァンは一度言葉を切った。
そして、私の目を見て言う。
「もしも興味があるなら、帰ってきたら屋敷に来てくれないか?」
「…いいのですか?」
喉が乾いて、声が掠れた。
アシュフォード公爵家に、クロードの論文が隠されているかもしれない。
「もちろん。クロードの論文には私も興味があるんだ」
「ぜひ、お願いします」
私はそっと頭を下げた。
「わかった。家の者にいろいろと準備をさせておこう」
私達は再び歩き出した。
飛竜が待つ厩舎は、もうすぐそこだ。
これから私たちは、遺跡調査団への物資と共にベルスター王国の南東の端、カンジャスまで旅をする。
旅路は遠く、一週間の長い道のりだ。
逸る気持ちを抑え、私はエヴァンの背を追った。
第一章 [完]
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