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襲撃


ベンチに座り、露店で買った串焼きを頬張る。


そして、膝の上に手帳を広げた。


片手で購入したものにチェックを入れる。


移動時に着用する動きやすい服、外套、雨具、それらを収める拡張魔法と軽量化魔法のかかったリュック。


あとは石鹸や歯ブラシなどの衛生用品。


貰った領収証を、クリップでまとめる。


あとはエヴァンに頼まれた、スピア菓子店に行くだけだ。


城への帰り道にあるので、回り道ではない。


串を近くのゴミ箱に入れ、菓子店へ足を向ける。


飴色の木の扉が美しいスピア菓子店は、古くからの老舗だ。


看板の横には、王室御用達の文字がある。


扉を開けると、ドアベルがカラカラと音を立てた。


「いらっしゃいませ」


ふくよかな女性が、にっこりと笑顔で迎えてくれる。


「こんにちは。魔法局のエヴァン・アシュフォード様に頼まれて参りました。アシュフォード様がいつもご購入なさるお菓子を何種類か出していただきたいのですが…」


そう言って預かった指輪を取り出す。


女性はあらあらと嬉しそうな声を上げ、少し待ってね、と言い残して奥に入っていった。


待っている間、棚に並んだお菓子たちを眺める。


可愛らしい缶に飴やクッキー、チョコレートなどが詰まったものや、瓶に入っているもの、袋に入ったフィナンシェや色とりどりのマカロン。


カフェスペースもあり、その傍のショーケースにはケーキなども並んでいる。


やがて戻ってきた女性はカウンターに数種類のお菓子を並べた。


「こちらがアシュフォード様が良くご購入になるお菓子です」


「明日から出張に行くので、なるべく移動で崩れないものをお願いしたいのですが」


「それであれば…こちらのキャラメルと、チョコレート、硬めのクッキーがよろしいかと思います」


「ではそれをお願いします」


「ご出張は何日くらいになりますか?」


「三週間を予定しています」


「かしこまりました。他に御用のものはございますか?」


私は少し迷い、瓶に入った金平糖を指さした。


色とりどりのそれは、なにかの魔法の効果で内側からきらきらと輝いている。


「ふふ、そちらは人気商品なんですよ。まだ残っているなんて、お嬢さんは運がいいです」


女性は手際よく商品を準備し、最後に紙袋に茶葉を入れた。


「こちらのお茶は、常連さんへのサービスです。ここの系列店の商品です。お嬢さんも、是非お試し下さい」


「ありがとう。嬉しいです」


「全てお支払いはアシュフォード公爵家でよろしいですか?」


「はい。そのように」


「かしこまりました」


私は宝物のように紙袋を抱え、女性に見送られて店を後にした。


甘いお菓子の移り香が、心を軽くする。


いつもの門番におかえりと言われ、ただいま、と手を振った。


荷物が多かったので、夕食を後回しに寮へ向う。


いつもの道の水路が壊れ、水浸しになったと聞いたので、やや遠回りの道を選んだ。


利用者が少ないためか、交換を後回しにされた魔導灯が数個消えている。


ふいに、通り過ぎた木の影で何かが揺れた。


咄嗟に魔力を巡らせる。


魔力を受けた魔導具が、瞬時に結界を貼った。


半径一メートル程の球体の結界は、外からの魔法・物理攻撃を完全に無効化する高等魔法だ。


「っ!なんだ!?結界だと!?」


荒々しい声がして、覆面の人影が飛び退る。


手には煌めくナイフ。


雷魔法を帯びて、バチバチと光を零している。


「誰ですか」


私は魔力が切れないようにしながら注意深く男を観察した。


背はあまり高くない。


中級貴族程度の魔力量。


人を襲うことに、慣れているわけではない。


「くそ、なんなんだお前…そんな魔道具、ただの田舎の娘が持っているはずないだろう」


「そんなこと、今は重要なことじゃありません。貴方は何者で、誰に頼まれたのですか」


今日の出来事を振り返る限り、黒幕の見当は付いている。


男は答えない。


立ち尽くし、目を泳がせている。


「…ビクトリア・フィールズ」


男の肩が跳ねた。


「…言うことを聞かないと、首になる。娘が入院中で、今首になる訳には行かないんだ」


「そういう事ですか…」


深いため息が漏れた。


私はじっと男を見つめる。


「─────」


吹き荒ぶ風が、私の声をかき消していく。


しかし男には、届いたはずだ。


零れ落ちそうになるほど目を見開いた男は、覆面を剥ぎ取り地面に額を擦り付けた。


「大丈夫です。だからもう、行ってください」


謝罪の言葉を受け入れ、私は男に背を向けた。


早く荷物を置いて、夕食を取ろう。


それと、ハンナに出張の件を報告しなくては。


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