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推し事は有給休暇として認められません  作者: 葉方萌生


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□先輩・東野梓へのインタビュー書き起こし(2025.11.21)

――今日は秋葉菜月さんのことでいろいろとお伺いしたいと思います。よろしくお願いします。彼女について、どんなひとだったのか教えてくださいますか?



 初めまして。■■株式会社営業部のTと申します。

 私は秋葉さんのもと教育係にあたります。

 どの会社にもあるでしょう? 入社して半年間ほど、新入社員の教育をするひとです。同じ部署で唯一の同性ということもあり、彼女の教育係として任命されました。年齢は秋葉さんのひとつ上です。なので、彼女のことは妹みたいに思っていました。先輩・後輩というより、可愛い妹、みたいな。そうです。彼女がとても仕事熱心で真面目で、それでいてちゃんと先輩のことを敬ってくれるし、分からないところは素直に聞いてくれるし、申し分のない“後輩”だったんですよ。私の同期からも、『Tが教育してる秋葉さん、やりやすそうでめっちゃいいな』ってうらやましがられるほどで。普通、いくら新人で気を張っていても、三ヶ月もすれば職場に慣れてくるでしょう? で、慣れてきたところで本来のだらしのないところとか、ちょっとサボっちゃおうっていう気持ちとかが出てきてもおかしくないです。だけど、秋葉さんだけはそういうところが一切なくて、私からしてもこの子すごいなって尊敬できるひとでした。


 教育係は半年で終わったんですけど、その後も姉妹みたいに仲良くなっちゃって。秋葉さん、先輩を立てるのも上手だから、私もいい気になってしまうんです。気持ちよく先輩風吹かせてもらったり、一緒に飲みに行ったり。あの子が来てから営業部も華やかになったし、男性メンバーも彼女のことを好意的に見ていました。あ、その恋愛的な意味じゃないですよ。ひととして、いいよねって話です。まあ、恋愛的に彼女を好きなひともいるのかもしれないですが。



――あなたと秋葉さんはかなり仲が良かったようですね。彼女が会社に来なくなったのは11月13日からと聞いていますが、それまで変わったところはなかったでしょうか?


 変わったとこころ、ありましたよ。

 先月の半ば頃かな。

 急に推し活を始めたと言っていて、それまで仕事ばかりだった彼女が、木曜日の定時後に『“推し事”に行くので、定時で失礼します』って、スパッと帰るようになったんです。推し事、なんて言うのはもちろん私にこっそりと、ですよ。みんなの前では普通に『お疲れさまでした』って言って帰っていくだけです。


 なんだかすごく目がきらきらしていて。夢見心地の乙女のような感じになるんです。でもまあ、普段は仕事以外に楽しみがあるのかな? ってぐらい仕事一筋に思えたんで、私的には彼女がそうやって楽しいことを見つけて嬉しかったです。


 でもなんか……“推し”を見つけてから、彼女の性格が少しずつ変わっていきました。変わったのか、本来の彼女がそうだったのか分からないですが。なんだか自分に酔っているというか、仕事中もぼうっとすることが増えて。デスクにいるときや営業中にスマホをいじる時間が増えたみたいなんです。営業中は営業車に監視カメラみたいなものがあって、営業がちゃんと仕事をしているか見張っているんです。まあ、ちょっと車を停めて眠ったり多少スマホをいじったりするぐらいだったら、見て見ぬふりをされますよ。それぐらいだったらまあ、みんなやってますし。多少の息抜きも必要ですから。でも彼女の場合……推し活を始めてから、明らかに様子がおかしいんです。営業車内で一時間以上もスマホに夢中になっていたり、お手洗いに行くと言って長いこと帰ってこなかったり。さすがに、営業車内での件は上から注意されて、今は気を付けているみたいですが。それまでは営業車内でスマホを見るどころか居眠りも、ちょっとコーヒーを飲むこともなかった彼女が、ですよ。変だなと思って、彼女が席を立っているときにふと、彼女のデスクを覗いてみたんです。ひとのデスクを覗くなんて本当はしたくないですけどね。そしたら……あるものを見つけて。



――あるもの? なんでしょうか。


 ぱっと見は普通のメモのように見えました。

 よくある大きめの付箋で、事務所でみんなが使っているものと同じメモ用紙です。

 そのメモに、怪しげな言葉が書かれていたんですよね。

 怪しげって表現は変かな。うーん、なんて言えばいいんだろ。ちょっと言いにくいんですけどね。



――なんて書かれてたんですか?


 もうぶっちゃけちゃいますね。

『シンジくんあいしてる』『プロポーズされて嬉しい』って書いてありました。



――シンジくん? 恋人の名前でしょうか?


 いや、違うと思います。彼女に恋人がいるという話は聞いたことがありません。私に話していないだけで本当はいるのかもしれないですが。ただ、その“シンジくん”っていう名前を聞いたことがあって。思い出したんです。彼女の推しの名前が確か、“シンジくん”だったなって。



――なるほど。推しの相手の名前だったんですね。でも推しの対象から『プロポーズされて嬉しい』はちょっと妄想が激しいですね。


 そうなんです……。

 妄想だとしても、わざわざ会社のデスクにメモを置いておきますかね?

 ちょっと初めて彼女のことを気味が悪いと思ってしまいましたね……。



――周りのひとからしたらそうかもしれませんね。ちなみにその“シンジくん”はアイドルグループのメンバーか何かですか?


 えっと、確か、そうそう。アイドルグループのひとりです。グループ名は、えっと、そうそう、『Summer Brothers』。私もメンバーの名前とかはよく知らなくて。かなりマイナーなグループだったと思います。



――そうですか。推し活を始めてから様子がおかしくなったのは間違いないんですね。


 はい、そうです。それははっきりと断言できます。あ、すみません。そろそろ昼休みが終わるので戻ってもいいですか?



――分かりました。貴重なお時間を割いていただいてすみません。ありがとうございました。


 いえ、こちらこそ。また秋葉さんのことで何か分かったら私のほうからご連絡差し上げます。

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