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お嬢様はもっと強い  作者: ビーデシオン
後編

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20/20

最終話 横並びで歩いて


「キュージ、どうしたの?」


 今から言うようなことを後日談と言うんだと思う。

 結論から言えば、私とネリーは、たった二人で、街を悩ませていた盗賊団を壊滅させてしまったわけで。


 セブラさんの向かわせてくれた憲兵は、ネリーの魔法を頼りに、意外と素早く来てくれた。結果として、私たちは街の憲兵団並びに騎士学校から表彰されることとなった。


 ちなみに、私は背中に矢が刺さったままブレイズチップ家に帰ったので、まずメイジェリアさんに死ぬほど怒られた。

 庭師のレイサムさんとか、レニーさんは何とか耐えてくれて助かったけど、その場にいたレネシアはショックで気絶してしまった。

 ネリーが飛び出していなければ、頭でも打って危なかったかもしれない。


 でも、それきっかけだろうか。私がセブラさんに事の顛末を説明している間、ネリーとレネシアは楽し気に話していた。


「ねえ、キュージ? 聞いてる?」


 でも、本当の恐怖はそこからだった。

 本当に怒ったセブラさんは、私が今まで直面したどんなものよりも、恐怖を体現していた。

 お説教の内容はほとんど私の無茶に関してのことだったけれど、ドレスに穴をあけた件に関しては「全く着る機会なかったもの。有効活用できてよかわったわ」ということで済ませてくれた。


「キュージ?」


 そうそう、肝心なのは私とネリーのことだけど……あれからはすっかり仲直りを果たすことができた。ネリー自身、騎士学校の方から休養期間ももらえたので、何日かは前みたいに日課をこなしていたんだけど……


「キュージ! 現実に戻ってきなさい!」

「はっ!」


 耳元に入ってきた叫び声で、現実に引き戻される。

 いや、これが現実であるわけがない。

 だって私、また豪華なドレス着てるし、なんかアクセサリーもたくさんつけてるし、お化粧もしてしまっているのだから。

 ましてや、私の隣には同じくキラッキラのネリーがいるのだから。


「これは都合のいい夢です」


 そんなことを呟いた瞬間、ネリーがおもむろに私の頬をつねってきた。


「痛い!」

「なら、夢じゃないでしょ?」


 寝ぼけたことを言った自覚はあるけど遠慮がなさすぎる。

 いやまあ、そのくらい親密な関係で居られていると思えば、うれしくもあることではあるのだけど……


「でもやっぱり、使用人の身でこんなこと許されるはずが」

「違うわ! あなたは今から、私と一緒に暮らすのよ」

「その言い方は語弊があります」

「なによ! 一緒の寮に入るんじゃない!」


 そうなのだ。

 何故か、私はネリーと同じ寮に入ることになってしまえたのだ。

 いや、もちろん理由ははっきりしている。

 これには、騎士学校の制度が関係しているのだ。


 昔、騎士学校の卒業要件が、盗賊の捕縛だったという文化は、今にもほんの少しだけ残っているそうで……騎士学校には、特待生制度というものが存在する。


 曰く、傭兵や自警団として、街の治安維持に大きく貢献したものは、無条件で、しかも学費ナシで騎士学校に入れてしまうのだそうで……私たちは今日から、一緒に騎士学校に通えることになってしまえたのだ。

 それも、特待生として。


「いやいや、やっぱりダメです。私にそんな資格は……」

「キュージ?」

「……何でもないです」


 危ない。またしても、ネリーを怒らせてしまうところだった。

 というかもう、約束してしまったのだから。いい加減やめにしよう。


「私は、ネリーの友達ですからね」

「……わかればいいのよ!」


 そうして、ネリーと一緒に歩いていると、もう一人の友達が門の方で手を振っていた。

 なんでも、もう一人の友達……レネシアは、ブランクまみれの私たちのために、今日丸一日かけて、騎士学校の施設を案内してくれるらしい。


 正直、そんなことをしたら、また学年から浮くんじゃないかとか思ったけど、まあ、それでもいいと思う。

 少なくとも私たち三人と、ブレイズチップ家のみなさんは味方になってくれるわけだし。


 どうせ週末には一度戻るのだから、なにかあったら誰かを頼ればいいのだ。

 悲しいことがあったときは、いっそのこと、セブラさんとか、メイジェリアさんに泣きついてもいいかもしれない。

 その時は、レイサムさんや、使用人のみなさんも呼んで、レニーさんの料理をふるまってもらおう。


「行くわよ。キュージ!」

「はい。ネリー」


 私たちは横並びで進んでいく。

 手を振ってくれていたレネシアも、こちらへ駆け寄ってきてくれている。



――おしまい――

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