最終話 横並びで歩いて
「キュージ、どうしたの?」
今から言うようなことを後日談と言うんだと思う。
結論から言えば、私とネリーは、たった二人で、街を悩ませていた盗賊団を壊滅させてしまったわけで。
セブラさんの向かわせてくれた憲兵は、ネリーの魔法を頼りに、意外と素早く来てくれた。結果として、私たちは街の憲兵団並びに騎士学校から表彰されることとなった。
ちなみに、私は背中に矢が刺さったままブレイズチップ家に帰ったので、まずメイジェリアさんに死ぬほど怒られた。
庭師のレイサムさんとか、レニーさんは何とか耐えてくれて助かったけど、その場にいたレネシアはショックで気絶してしまった。
ネリーが飛び出していなければ、頭でも打って危なかったかもしれない。
でも、それきっかけだろうか。私がセブラさんに事の顛末を説明している間、ネリーとレネシアは楽し気に話していた。
「ねえ、キュージ? 聞いてる?」
でも、本当の恐怖はそこからだった。
本当に怒ったセブラさんは、私が今まで直面したどんなものよりも、恐怖を体現していた。
お説教の内容はほとんど私の無茶に関してのことだったけれど、ドレスに穴をあけた件に関しては「全く着る機会なかったもの。有効活用できてよかわったわ」ということで済ませてくれた。
「キュージ?」
そうそう、肝心なのは私とネリーのことだけど……あれからはすっかり仲直りを果たすことができた。ネリー自身、騎士学校の方から休養期間ももらえたので、何日かは前みたいに日課をこなしていたんだけど……
「キュージ! 現実に戻ってきなさい!」
「はっ!」
耳元に入ってきた叫び声で、現実に引き戻される。
いや、これが現実であるわけがない。
だって私、また豪華なドレス着てるし、なんかアクセサリーもたくさんつけてるし、お化粧もしてしまっているのだから。
ましてや、私の隣には同じくキラッキラのネリーがいるのだから。
「これは都合のいい夢です」
そんなことを呟いた瞬間、ネリーがおもむろに私の頬をつねってきた。
「痛い!」
「なら、夢じゃないでしょ?」
寝ぼけたことを言った自覚はあるけど遠慮がなさすぎる。
いやまあ、そのくらい親密な関係で居られていると思えば、うれしくもあることではあるのだけど……
「でもやっぱり、使用人の身でこんなこと許されるはずが」
「違うわ! あなたは今から、私と一緒に暮らすのよ」
「その言い方は語弊があります」
「なによ! 一緒の寮に入るんじゃない!」
そうなのだ。
何故か、私はネリーと同じ寮に入ることになってしまえたのだ。
いや、もちろん理由ははっきりしている。
これには、騎士学校の制度が関係しているのだ。
昔、騎士学校の卒業要件が、盗賊の捕縛だったという文化は、今にもほんの少しだけ残っているそうで……騎士学校には、特待生制度というものが存在する。
曰く、傭兵や自警団として、街の治安維持に大きく貢献したものは、無条件で、しかも学費ナシで騎士学校に入れてしまうのだそうで……私たちは今日から、一緒に騎士学校に通えることになってしまえたのだ。
それも、特待生として。
「いやいや、やっぱりダメです。私にそんな資格は……」
「キュージ?」
「……何でもないです」
危ない。またしても、ネリーを怒らせてしまうところだった。
というかもう、約束してしまったのだから。いい加減やめにしよう。
「私は、ネリーの友達ですからね」
「……わかればいいのよ!」
そうして、ネリーと一緒に歩いていると、もう一人の友達が門の方で手を振っていた。
なんでも、もう一人の友達……レネシアは、ブランクまみれの私たちのために、今日丸一日かけて、騎士学校の施設を案内してくれるらしい。
正直、そんなことをしたら、また学年から浮くんじゃないかとか思ったけど、まあ、それでもいいと思う。
少なくとも私たち三人と、ブレイズチップ家のみなさんは味方になってくれるわけだし。
どうせ週末には一度戻るのだから、なにかあったら誰かを頼ればいいのだ。
悲しいことがあったときは、いっそのこと、セブラさんとか、メイジェリアさんに泣きついてもいいかもしれない。
その時は、レイサムさんや、使用人のみなさんも呼んで、レニーさんの料理をふるまってもらおう。
「行くわよ。キュージ!」
「はい。ネリー」
私たちは横並びで進んでいく。
手を振ってくれていたレネシアも、こちらへ駆け寄ってきてくれている。
――おしまい――




