第18話 即効性の致死毒
「何か言い残すことはありますか?」
同じ炎魔法使いでも、こいつが団長を殺した犯人かどうかは分からない。
だけど、少なくともこいつは、ネリーを連れ去って、レネシアを脅した。
命までは取らないにしても、こいつにはできるだけの報いを受けさせたい。
「思い出したぞ! お前、こないだノコノコやってきて、俺たちに装備を提供してくれた馬鹿どもの仲間だろ!?」
「は?」
自分でも頭に血が上っていくのがわかる。
大声で喚き散らして、状況をわかっているのか?
「その剣で思い出したよ! 高く売れたんだよなぁ!あの剣!いっちょ前に魔石付きの剣もっときながら、結局俺の魔法を防げずに丸焼きになっちまうようなやつが団長だったんだっけなあ!?」
「お前が……!」
やっぱりか。
炎魔法使いの盗賊なんてそうそういるわけがないと思っていたけど、こいつが団長の仇で間違いない。
だったら尚更、相応しい報いを受けさせなければいけない。
「そういうあなたは騎士崩れでしたか? 民を守る立場から、仲間ごと焼き殺す腐れ外道になるなんて、大層な特進ですね」
「ははは……なんとでも言いやがれ……」
うん? 急にやけに大人しいな。
目の前の男は後頭部を地面につけて、空を見ている。
本当に観念しているのだろうか?
いや、だとするならさっきまでの負け惜しみは一体……
「キュージ! 危ない!」
「えっ」
その声で、私は振り返る。振り返った時にはもう、ネリーの後ろ、すっかり開け放たれたテントの隙間から、何かが飛んできていた。
「うっ」
背中に激痛。二つの何かが直撃した。
背筋が沿って、筋肉が固まる。
振り返ると、私の背中から何かが伸びていた。
それは、長い棒のような、鳥の羽の着いた……
「は、ゆみや……ですか」
はは、そうだった。
そう言えば、こいつら、弓兵いたんだっけ。
そう言えば、空いているテントが一つあったな。
夕暮れ時だから、狩りにでも行ってたんだろうな。
なんで忘れてたんだか。
大きな音を立てれば、気付いて戻ってくるにきまってるのに。
「なにも、誤射を恐れないのは俺だけじゃないさ。俺たちはみーんな、お互いが生き残るためなら、なんだってやる。そのためなら、リーダーに弓を向けてもかまわない」
私の目の前で男が笑う。
ムカつく顔だ。殺しておけばよかった。
でも、もう遅い。
視界が傾いて、横になって、地面に頭が付く。
失敗した。くそ。また失敗した。
「キュージ! しっかりして! キュージ!!」
「……ね、ねりー……」
身体を倒してうつ伏せになって、ネリーの方を向く。
剣は右手に握ったまま、なんとか這いずる。
みると、ネリーもこちらにはいずってきていた。
はは、ウデも足も使えないから、ワレなガらまるでイモむしみたいだ。
「おーおー感動的だなー、従者と主人の美しき絆ってやつか。騎士として心打たれるぜ。ハハハッ」
「キュージ、聞こえる!? キュージ!」
はいはい、そんなにおおきなこえじゃなくてもきこえますよ。
いつもそうだ。
ねりーはおーばーだ。
いつもどおりだ。よかった。
くそ、ムカつくなぁ。 くやシい。
コロしておけばよかった。
まちがえたな。
ネリー。
ネリーだけでもニガせばよかった。
ああでも。 ねりーはススむのがうまいな。
にっかのおかげか。
イたイなぁ。
ああ、へんだな。
これ。どく、か。
「キュージ……」
こんどはちいさすぎる。
もっとおおきなこえじゃないと。
「キュージ……剣を……剣を私に……!」
けん? みぎてにもってる。
「私に……触れて……! 私に剣を、触らせて……!」
ははは。まだ、そんなこといってるんですか。
いいですよ。
きょうは、それくらいなら。
「掴んだ……!」
もう……だい……じょうかな。
わたしより……おじょうさまは、つよいから……ひとりでも……いや……
「騎士の――誉れに……報いを――!」
どうせなら………… ふたり…… で…。
………… ……。
………。




