第12話 大きな間違い
「…………」
即答はできない。
確かに、ネリーお嬢様と一緒に騎士学校に行きたいという気持ちはある。私たちはもう友達だから、私がいれば心強いという、お嬢様の意図もわかる。
だからこそだ。だからこそ、二つ返事ではいとは言えない。おそらく、お嬢様は大きな勘違いをしている。
「ネリー」
「……うん」
「騎士学校は、従者も、メイドも、護衛の一人でも、許可が無ければ親族だって、入学資格を持たない部外者の立ち入りが禁止されていることは知っていますか?」
「……ええ、知っているわ」
「騎士学校生に、休学は無いことも、知っていますか?」
「ええ、知っているわ」
驚いた。どうやら、お嬢様は騎士学校の仕組みをしっかり把握しているようだ。
そう、言ってしまえば騎士学校は、完全な閉鎖コミュニティなのだ。
騎士学校に通うものは、自宅通学を許可されない。
学校生は完全な寮暮らしであり、寮の門限を破りすぎると、即座に退学となってしまう。
つまりお嬢様はもう、騎士学校に席をおいていない、完全な部外者であり、再び騎士学校に立ち入るためには、試験を受け直さなければいけない。
ただ、おそらくそれ自体は問題にならないと思う。
お嬢様の学力なら騎士学校の入学試験くらい、簡単に突破できるとだろう。というか一回突破しているわけだし、試験が一回きりなわけでもない。問題は……
「私は……騎士学校の試験を突破できる自信がありません」
「それは……頑張ればきっと……」
お嬢様の顔が曇る。
そう、私はお嬢様と違って、別に学があるわけではない。
騎士学校の試験は受けたことがあるけど、結果は不合格だったし、傭兵でいた期間が長すぎてブランクもある。
一応ここ最近ずっと勉強はしていたけど、付け焼き刃で突破できる試験じゃないのは、私も知っている。
「なにより、私には試験を受けるお金がありません」
「……お母さまに頼めば……」
うん。実際、セブラさんに頼めばなんとかなるんだろうな。
多分だけど、セブラさんは私とお嬢様の関係をかなり好意的に思ってくれている気がする。
頼み込めば、何とかなってしまうんだろうな……
でも、ダメだ。
私は、騎士学校の受験料が、そうポンポンと出せるような金額ではないことを知ってしまっている。
それでも騎士学校を受けて、頑張って、受からなかった時の無力感を知ってしまっている。
「ネリー。私も騎士学校に行きたいです」
「……! だったら!」
「でも、無理なんですよ。やっちゃいけないんです。私みたいな人が、そんなこと挑戦しちゃいけないんです」
「…………」
本心からの言葉じゃない。無理でもないし不可能でもない。
試験を受け続ければいつかは受かれるような気もする。
でも、ダメだ。私には……それをやらせてくださいと頼み込む勇気がない。騎士学校を受け続けて、それでもダメだったら、ただただ時間とお金を浪費してしまうことになる。
人の助けを借りてまで、そんなことをやりきれる自信がない。
「なんなのよ!!」
「えっ」
お嬢様が立ち上がってテーブルに力強く手を付く。いつか見た景色だ。いつか失敗したときと、同じ景色だ。
「どうしてそんなに自分のことを悪く言うの!? それでキュージは楽しいの!?」
「……すいません」
すいませんと言うしかない。
わかってる。これは私が弱いだけだ。
私が……差し伸べられた手を振り払って、逃げてしまっているだけだ。
「もう……もういい! 試験は私一人で受けるわ!」
そう言って、お嬢様は部屋を出て行ってしまった。
……私はなにをやっているんだろう。
***
結局、お嬢様は試験を受けて一回目で合格してしまった。
とんとん拍子で入学手続きを進めて昨日、寮に移ってしまった。
お嬢様が屋敷からいなくなってしまったので、私の仕事もここまで……
というわけでもなく、休日になればお嬢様も戻ってくるので、ひとまずは屋敷に身を置かせてもらえることにはなった。
それまでの間、私はというと……
一切お嬢様と関わらないまま、日々を過ごしてしまっていた。
もちろん、なにもしていなかったわけじゃない。
お嬢様に怒られたことをずっと引きずって……セブラさんや、洗濯を担当してくれているメイジェリアさんに付き合ってもらって、お嬢様の過去についていろいろと聞かせてもらっていた。
だけどもそれは、二人の話を要約すれば、私が友達になった日に、お嬢様が語ってくれた内容になってしまうようなものではあった。
結局そうして、勉強にも手を付けず、お嬢様本人とは全く関われずにいた報いだろうか。
その知らせは突然に来た。
「お嬢様が行方不明です」




