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お嬢様はもっと強い  作者: ビーデシオン
間のお話

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10/20

第10話 元傭兵 VS お嬢様


 私の名前はキュージ。キュージ・クライオブルーム。

 かつては魔法剣士を数多く揃えていた、センデルバルド傭兵団の精鋭に数えられた女。

 私は今日も魔石付きの剣を手に走る。

 鬱蒼と茂る植物の横を、間を、そして跳んで上を抜けひたすらに走る。


 私は、逃げなければならない。

 何としても逃げきらなければならない。


 精鋭様が逃げるなだって?

 そんなことを言う奴は、きっと彼女のことを何も知らないんだろう。

 彼女は、生半可な覚悟で勝てる相手ではない。

 だから私は、この地形の理だって最大限活かして逃げるのだ。


「まちなさあああああい!」

「くっ!」


 第一、主人を傷つけたりできないからね!

 やはり彼女の……ネリーお嬢様のフィジカルはおかしい!

 まだまだ日は高いままだというのに、もう追いつかれそうだ!

 庭師のレイサムさんと協力して作り上げた、植物性アスレチックを次々と攻略してきている!

 足元を埋め尽くす数多くの低木の中から、足場になる正解の枝を一瞬で見極めて追ってきている!


「奥の手を使うしかありませんね……!」


 想定外の攻略速度だけど、仕方がない。

 踵を返して進路を変え、私はあるエリアに向けて突き進む。


「ふっ、コーナリングが甘いわよキュージ!」


 すぐさま続くドドドという音。

 目的地への最短ルートを通ったせいで、お嬢様との距離は随分縮まってしまった。

 だが、これでいい。

 このくらいの距離であれば……間に合う!


「そりゃあああああ!!」

「えっ!?」


 私は大声を上げながら、地面を蹴って跳躍する。

 その行く先には、地面がない。

 あるのは空を反射する水面のみである。

 私は、庭園の泉へ向けて力強く跳んだのだ!


「危ないわよ!」


 直後になって背後からネリーお嬢様の悲鳴が上がる。

 そりゃそうだろう。

 中庭と言えど、この泉はごつごつした岩だらけであって、どう考えても泳ぐことを想定した地形ではないのだから。

 私だって、追っていた人物が突然そんな場所に飛び込もうとしたら、安否を心配すると思う。

 でも、私は泉の中へ飛び込んだわけじゃない。


「……あれ?」


 背後の悲鳴が、困惑の声に変わる。

 水面を打つような水飛沫もあがっていないし、ザバンという音も聞こえない。

 私の跳躍は結果として、少し水面を揺らしただけだったのだ。

 なぜなら、私は今、水面の上に立っているのだから!


「ふはは、どうですかお嬢様!」


 両足を揃えて腕を組み、お嬢様目掛けて笑う。

 足を地面に触れさせるまではひやひやしたけど、実際にやってみればなんてことはなかった。


「ず、ずるいわ! どうやってるの!?」

「教えてあげません!」


 なんて言ってしまったが、別に手品をやっているわけではない。

 秘密は今履いている、この靴にある。

 きっかけは、レイサムさんを交えて、作戦会議をしていたこと。

 レイサムさんが仕入れてくれた植物に、珍しいものがあったのだ。

 この植物がまたまた不思議なもので……


「そっか……! その靴、アメンローズの葉が貼ってあるのね!

「えっ、知ってるんですか?」


 アメンローズ。

 水底にまで伸びる細長い茨を持つ、水面に咲く魔法のバラ。

 その葉には、花弁への水の侵入を妨げるため、浮上の魔法がかかっているそうで、靴の裏に張り付ければ、水面を歩けるっていう代物なのだけれど……お嬢様もご存知なのか。


「もちろん! 元々アメンローズは、貴族の作った花だもの!」

「そうなんです?」

「ええ! 教えてあげるわ! 遡ること30年前、森に咲くバラが水面に落ちた光景を見た貴族たちは…………」


 そこから突然始まったのは、ネリーお嬢様によるアメンローズを主題に据えた物語調の講義だった。


「ほ、ほう……なるほどなるほど……?」


 単純に興味を惹かれてしまい、私は水面に直立しながらお嬢様の言葉に相槌をうちつづけてしまう。

 ネリーお嬢様はフィジカルも化け物だけど本当妙に博識だ。

 しかも、話すのが上手いというか、ついつい聞き入りたくなるような口調で続くものだから、時間を忘れて聞き入ってしまう。


「だからアメンローズは今も、宮廷の庭園を彩る主要な花となっているのよ!」

「なるほど……!」


 結果として、お嬢様が一コマの講義を終え、私が脳内ノートにアメンローズの全てを記録し終えるころには、日が傾いてしまっていた。

 お嬢様はそのことに気づいたあとも「あ、時間ね。テラスに行きましょう」なんて満足気な様子だったがそれでいいのだろうか。


 少なくとも、追いかけっこ勝負に負けた人の表情には見えなかった。

 なんだか負けた気分だけど、別に次回からこの手を使わないなんて生温いことをする予定はない。


 ここまで来たら私も意地なのだ。

 一月だって、二月だって、どれだけ時間が経ったとしても、剣には指一本ふれさせないぞ……!



 なんて考えていたら、翌日の追いかけっこで普通に泳いで追いつかれるようになってしまった。

 水面には障害物がないとはいえ、水中戦で追い込まれるとは……私もまだまだ修行が足りないな……

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