地極蝶
掲載日:2024/12/29
月影こぼれる夜に、開け放たれた鉄格子の扉———。
俺はそれを連れ出した。
「私を殺すの?」それは無機質に問いかける。
「いいや」
「じゃあ何で?」
「さあ、自分でも分からない」
実際、ぼんやりとした期待だけが俺を突き動かしていたのだ。
「ただ、君がどこかに導いてくれるような気がした」
「この国を? それとも、この世界?」
「俺を」
「へえ。君をどこへ導けばいいのかしら」
「分からない」
「そう…」
それは十六夜の月を背に俺の頬に触れ、言った。
「まだ連れてはいけない。君がそれに気づき、真に望むまでは。
必ず迎えに来るよ。だから、その日まで私を追いかけて」
今度は小指を引っ張られる。
その仕草が意味するところに、俺は「分かった」と口にしていた。
「ここから出してくれて、ありがとう。またね、死神さん」
「ああ、また」
そう言って、夜空へと飛び立っていく背を見送った。
その姿は儚く美しく、物心ついた頃からそばをふわついていたそれと、どこか重なって見えた。




