表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/6

Prologue

「第三王太子アルバート・ランゲリオンの名をもって、ここにレイシア・ヘルメーヴェとの婚約破棄を宣言する!」


 あぁ、我が婚約者は変わってしまわれた。

 昔はもっと周りが見えていると思っていたのだけれど。愛は盲目、とはよく言ったものね。それにしても、こんな晴れ舞台で断罪を行おうだなんて、一体何を考えていらっしゃるのでしょう。

 たった今、婚約破棄を言い渡された私を、パーティの参加者たちはまるで珍獣かのように観察している。私が暴れ出すとでも思っているのかしら。

 愚かね。公爵令嬢たる私は、そんなことで騒ぎ立てたりしない。

 むしろ、周囲から好奇の目を向けられるほど、私はより気高く、凛と背筋を伸ばす。


「理由を伺ってもよろしいかしら」


 扇子で口元を隠し、鋭い眼差しでアルバート様を見据える。揺らがない私を見て、彼は反対に動揺したように見えた。


「っ…レイシア、君は『気に入らない』という感情的な理由で、我が国の聖女であるシエラ・クリスティアを虐げただろう!」


「私は聖女としてあるべき姿を指摘したまで。殿下の言う、虐げる、に類される行為ではありませんわ」


「意地でも罪を認めないつもりか?君はつい先日、学園でシエラを階段から突き落としただろう!多くの生徒が目撃しているのだぞ!」


 はぁ、とバレないようにため息をついた。

 まったく、感情的なのは一体どちらかしら。


「ですから、それはシエラさんが足を踏み外しただけでございます。何度も懇切丁寧に説明致しましたが、もう一度必要でしょうか」


 パチン、と扇子を閉じて、アルバート様を睨む。握った扇子から軋むような音がした。すると、愚かしくもアルバート様の腕に巻き付いている聖女が、小さく悲鳴をあげた。


「ひっ……もうやめて下さい、アルバート様!私が悪いんです。私がレイシア様の機嫌を損ねてしまったから…っ」


「あぁ大丈夫だよ、シエラ。公爵令嬢であろうと、きちんと罪は償ってもらう」


 傍目に見れば、お似合いの2人だろう。潤んだ瞳で見上げる女と、愛おしそうにその髪を撫でる男。私からしたら、ロマンス小説の読みすぎだとしか思えないけれど。

 白けた視線を向ける私を、アルバート様はキッと睨みつけた。


「如何なる理由であろうと、聖女を害することは我が国では大罪だ!よって、レイシア・ヘルメーヴェ、そなたに国外追放を命じる!衛兵、彼女を捕えよ!」


 あぁ、愚か。本当に愚かね。

 聖女は純潔を保たねばならない。つまり、聖女と婚姻を結んだところで何らメリットはない。それならば、公爵家とのパイプを得る方が遥かに利益があるというのに。


 本当、どうしようもなく馬鹿だわ。

 恋なんかに視界を奪われたあなたも、そんなあなたに惹かれていた私も。

 瞳から零れ落ちた透明な宝石は、誰にも見られることなく床に落ち、砕け散った。


 衛兵に傍を固められながら、命じられた部屋へ歩いていく。

 そこで私は、お父様からヘルメーヴェ公爵家からの勘当を言い渡され、しかし多少の情は残っているのか、何枚かの金貨と装飾品だけは渡していただけた。


 そして数日後、私は馬車に乗ってランゲリオン王国を去った。




 かくして、幕を閉じたかのように見えたレイシア・ヘルメーヴェの物語は、ここより第二章の幕開けとなった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ