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三話 始まったのは清らかな不倫関係

アランと再会できてから、私の生活は一変した… わけでもないけれど、少し張り合いができた。


「あら? 片桐さん! なんか華やかになったんじゃない?」


出勤するなり、同じ大学で事務員を務めているおばさんからそんなことを言われて、思わず顔が赤らむ。思い出すのはアランとの別れ際のやり取り…


『これ、俺の家の鍵と住所に電話番号な。いつ来てもいいから』


そんなことを言いながらも私を抱き締めているままで。名残惜しく思ってくれているんだと分かって嬉しかった。


「良いことあったの? いつも同じ格好してるのに今日はメイクしてるし」


「ちょっとだけ。古い友人と再会できたことが嬉しくて。まだ少し引きずってるんですよ。年甲斐もないですけど」


そんなことでお茶を濁して、普段通りに仕事へ取り掛かる。おばさんはまだ何か言いたそうだったけれど、仕事は山積みで普段通りにこなさないといけないから。


…夜は仕事が入っている分、昼には会いに来てくれるって言ってたけど、どうするんだろう。


そんなことをチラリと考えて、その後は仕事に頭を切り替えた。夫がアランだったらいいのにと考えてしまう自分がいたけれど。


いつも手錠のように嵌めていた指輪のなくなった左手が少しだけ軽くなって嬉しかった。…夫にバレたら何がどうなるかなんて分かっていたけれど、アランの本気具合を思えば、それこそ好機になるのかもしれない。


なにより… 今までよりもずっとずっと毎日が楽しくてならない。メイクも勉強したくなっているし、服装もブランドものとはいかないけれど、オシャレしたくなって。もう24歳じゃなく、まだ24歳だと言えるようになるのかな。



仕事を片付けながら、そんなことばかり考えてしまう。アランのことと夫を捨てるタイミングや、離婚するために何が必要かとか…


そんなことばかり考えていたからだろう。普段は無限に長く感じてならない仕事の時間があっという間に過ぎていって。昼食の時間になっていた。


「休憩いただきます。なにかあったら学食にいますので」


と簡単に上司へ伝えて、学生食堂へ向かう。いつもまともに話をすることもないけれど、賑やかなのは嫌いじゃない。そもそも大学にはいろいろな人種の人がいるから、私の赤毛もそんなに目立たなくて助かる。


あり合わせを詰めてきたお弁当片手に学生食堂の片隅に座ると、隣に髪を金髪に染めて色の薄いサングラスをした生徒が座る。目の前には山盛りのから揚げ定食が置かれていた。


…あれを一人で食べるのかな。さすがに若い子たちは違うなあと思いながら、自分の小さく見えるお弁当を広げていると。


「よっ、芹那。昨日ぶりだな」


明るく快活だけど少し低い声… 忘れるわけがない。思わず大声を出そうとした私の口を大きな手で塞いで、


「一応、芸能人なんだ。ここでバレることもないとは思うけどな」


と苦笑交じりに言った。私がその言葉に小さく頷くと、ようやく大きな手が離れていく。会いに来てくれるとは言ったけれど…


「まさか、こんな形でなんて思わなくて… ごめんなさい」


「驚かすつもりじゃなかったんだけどな。時間がないんだ。次はもう少し時間作るからさ」


そう言うと、堂々と私の頬に触れるか否かのキスをした。


変装しているとはいえ、うっかりバレてしまったら一大事件みたいに派手に掻き立てられるだろう。そんなことを思ったけれど、今はアランとの時間を大事にしたいし、わたしよりもずっと覚悟の上のことだと思ったから黙っておくことにして。


「仕事が忙しいのは喜ばしいことなんだろうけれど… 今度はカフェ巡りでもしてみたいかも。カフェのランチメニュー大好きなの」


「俺の幼馴染が得意だぜ。カイルって俺が呼んだあいつ。今度、教わるかな。俺、自分の好きなものしか得意じゃないんだ。ビーフシチューとかレバニラ炒めとかこってり系ばかり」


アランの言葉で思い出すのはつややかな黒髪を少し長めに伸ばして結った柔らかな雰囲気の美貌の男の人で… あの人ならカフェで出すようなオシャレなメニューも作れそうだと納得する。


「カイルさんって… あの可愛らしい女の子を連れてた人? なんだか頭の良さそうな人に見えたけれど」


「実際、頭がいいんだ。俺より四歳年上ってだけで弟扱いしてきたしさ。なにやらせても完璧で、どんな美人が相手でも絶対に本気にはならなかった。そんなあいつでも恋愛するんだな。それが最近の驚きかもしれない」


そう話してくれたアランの言葉の端々にはカイルさんと兄弟のように一緒だったことが伺えた。そんな兄のように慕っていた人が恋人を作ったっていう事が、どれだけ衝撃の強い事だったのかも…


素直に寂しいって言ってみればよかったのに… だけど、24歳にもなってそんなことを言うのはプライドが許さなかったんだろう。なにがあったのかは分からないけれど。


「アランには私がいるから。大丈夫だよ。私が傍にいるから」


思わずアランの手を握りしめて言った。すると、場所も構わず私の肩を抱き寄せて。


「夜には何が何でも会いに行くからさ。それに… 絶対にお前を開放してやる。それも最高の条件で。期待してていいぜ」


と妖しく不敵に微笑みつつ、すさまじく色っぽい様子で囁いた。恥ずかしいと思うよりも嬉しくて。私はアランがしたように頬へキスを返すことしかできなかった。…ありったけの思いを込めて。


いつか不安定な関係に終わりが来る。終わりにしないといけない日が来る。だけれど、アランなら本当に最高の形で終わりにしてくれるんだろう。その日が来るまで耐えていよう。どんな風になるのか分からないけれど。


そう決意して、私はアランとの短いデートに集中した。

清らかでキスくらいしかしない二人ですが、どうなるやら。どれだけ清らかでも不倫関係ですのでね。狙っていたわけじゃないんですが(-ω-;)ウーン まあ、いいです。ハピエン目指して頑張ります。次回もお付き合いくだされば幸いです。

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