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プロローグ 人に似て人ではない少年の初恋

桐生アラン(24)177センチ:

俳優兼歌手をしている吸血鬼。10年前に出会った少女を忘れられない。

その面影の残る女性ばかりを狙って吸血行為を繰り返す。俳優兼歌手をしているのは手っ取り早く顔と名前を売ることで女性関係を華やかにできることと吸血できる相手を得るため。


片桐芹那(24)155センチ:イギリス人と日本人のハーフ。大学で事務員として働いている。19歳と若くして結婚したが、モラハラ男に変貌した夫に苦しめられている。10年前に出会った少年が忘れられない。元の名前は芹那・クロフォード


モラハラ夫(30):何度も浮気を繰り返しているが、男の権利として暴力やモラハラで支配してきた。最低限の金しか渡していない。貧しい暮らしをさせることで支配している。


芹那の母:元高級娼婦でかなりの額を稼いでいたので娘を一貫性の女子高へ行かせる。が、愛情が持てず顔を合わせたことはほとんどない。

数少ない吸血鬼族の純血に生まれた俺は、幼い頃からはれ物に触るようにして育てられた。その意味を知ったのは14歳の頃だった。


第四の欲… いわゆる吸血衝動に初めて駆られた瞬間で、相手は屋敷に出入りしていた若いメイドだ。メイドはふくよかな体つきに優しげな面立ちの、若さ以外に取り柄のない女で性欲など欠片も感じさせなかった。だが……


俺の牙が突き立てられると同時に女は甘く声を上げて、絶頂を求めて俺に抱きついて見せるありさまだった… この牙と見た目が女を引き寄せると知った瞬間だった。


『アラン、そろそろ君も目覚める頃だと思ってね。少し街へ行かないかい?』


既に夢魔族として成人していた日向カイルに誘われて、言われるままめかしこんだ格好で出かけたのも14歳になった年だったか…


『ねぇ、あなた達どう? ホテル代おごってあげるからさ。お姉さんたちと遊ばない?』


少し街に立っているだけで媚びてくる女達には困らないことを、カイルは教えてくれた。…初めて抱いたのは馴染みのホストにフられたという女で、彼女は仕事で体を売っているからと、事細かに女の体のつくりを教えてくれた。


それからは坂を転げ落ちるようにしてカイルとの外出に溺れた。両親に恵まれず、誰からも愛されなかった反動のように吸血衝動を満たし、目覚めたばかりの性欲を満たす日々… そんな毎日の中で出会った一輪の花。


『私、芹那です。芹那・クロフォードといいます』


オアシスに咲く花のように美しく清らかな少女…… 赤茶色の髪にアクアマリンの目と雪のように白い肌をした美貌の娘で。清らかすぎると男は手を出しにくくなるんだと、畏怖と憧れを同時に知った。


『俺は桐生アランだ。見たところ同じ年みたいだけど、この街に来るのは初めて? 顔色が悪くなるほど怖がってる』


『普段、寄宿舎学校に通っていて、あまり学校の外を出ないから… それに友達とはぐれてしまって…』


『あっははは! なるほどな。君、俺についてきな。メイン通りまで連れて行ってやるからさ。ちょうどヒマしてたんだ。遊ぼうぜ』


成人して間もないのに一縷の隙もなく完成された美貌を誇っているカイルのように、彼女をエスコートして街を案内してやった。とはいっても普段のようにホテルではなく、どう見ても世間知らずな芹那に合わせて、カフェやゲームセンターに連れて行って…


彼女はその何もかもに驚いてくれて、笑ってくれるだけで性的快楽にも勝る何かを得た気分だった。


『アランはひどく慣れているけれど、普段からこの街に出入りしているの?』


『まさか! 俺だって学生だよ。普段はね。だから、月に何回かって感じかな。すさまじいイケメンの割に悪い親戚がいるんだ。そいつに付き合ってるだけさ』


デートまがいに連れまわした最後に藤の大木が咲き誇る公園のベンチで休憩するついでに、色々とお互いのことを話した。…カイルは沢山のことを教えてくれた。


吸血衝動を適度に満たしつつ性欲を満たす方法があること。その為に女性が必須であること、だからこそ、彼女達を恋人のように大事にしなければいけないこと。


だけれど、人間の血など一滴も流れていない魔族なのだから、決して恋人関係になってはいけないことなど… そんなカイルとの約束を守らなければいけないことは分かっていた。人間に見えても人間ではない。これは厳然とした事実なのだから。


どんな見目麗しい女達であっても決して本気で愛さないことと決めて…


『アラン、もう一度会いたい。ダメかな?』


『俺も芹那とずっと一緒にいられたらって思うよ。こんなの初めてだ』


そう言いながら不器用な仕草で抱き締めて、欲なのか芽生えたばかりの恋心なのか判別の付かないまま、カイルがするように優しく唇を重ね、白い首筋にそっと牙を突き立てた…


無我夢中で、その血の味も覚えていない。ただひどく幸せで甘美な瞬間だったことだけは鮮烈に覚えている。


気が付くと芹那は気を失ってしまっていて。スマホにははぐれたことを心配したカイルからの通話が幾つも入っていた。結局、芹那を貧血で倒れていたことにして、見回りに来た警察官に預けてカイルの元へ戻った。


…その日はカイルと共に荒んだ時間を過ごす気分になれなくて。おとなしく家に帰り、数日間引きずった後は芽生えたばかりの吸血衝動に任せて、カイルと共に街へ繰り出す元の日々へ戻り……


「あれから10年かよ。忘れない俺も大概だよなあ」


火のついていないタバコを片手に、吸血行為の果てに意識を失ってしまった女の髪を梳きながら呟く。偶然にも女の髪が赤茶色に染められていることがきっかけだったのかもしれない。


「…芹那。俺は…」


そっと呟く。実のところ俺自身は何も成長できていないのかもしれない。カイルに街へ行こうと誘われた日から全く……


14歳の頃から10年経っても、あの時の吸血行為に勝る幸せはなかった。それはそうだろう。古の時代より吸血行為というのはただ欲を満たすだけの行為じゃないのだから。


本来、吸血行為は……


そこまで考えて紛らわすようにタバコを咥え、火をつけた。タバコのほろ苦い味が女の血の味を薄れさせてしまうが、構わない。この女も芹那を超えてはくれなかったのだから。


あれから、どんな素敵なレディに育っているんだろう。不意にそう考えてみたが、10年経っても根幹から成長していない俺を見られたくなくて打ち消す。


それでも、会いたいという飢餓が募って仕方ない。俺はそれを紛らわすようにして女を求めた……

始めました( ^^) _旦~~ お付き合いくだされば幸いです。

ヴァンパイア族の桐生アランくんが主役です。このシリーズは彼の成長と幸せも描きたかったのでOPから活躍してもらいました。ハピエン大好きなので目指してがんばります(`・ω・´)

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