神霊薬(ソーマ)をめぐる
後書きとかで設定の紹介(Tips)として情報を出すだけにするつもりでしたが、追放の理由に関わる部分ですので、1話使う事にしました。
というか、設定情報だけ乗せても本編並みの文量になってたので……
時間は少し遡る。
まだ大きすぎる剣に振り回されていた頃。
私の聖水の行方が気になって後を着けて行ったら。
「おや?アオじゃないかね」
見つかってしまった。
この人は『聖水一番搾りぃいいいい』の人、アルバルトさんである。
「あははは」
「こそこそしてどうした」
「いやぁあ、ね」
「まぁここにおるという事は神霊薬の事じゃろう?」
「うん」
「良かったら見学していくかい?」
「はいっ」
きらっきらである。
それはもう目を煌めかせて大きく頷いた。
―――――。
しばらく移動すると煤けた匂いのする錬金工房に着いた。
簡素な5段の棚と机が二つあるだけで床には材料らしきものが無造作に置かれている。
「神霊薬を作るにはな、まずは霊薬を作る必要があっての」
神霊薬の素材の一つである霊薬の作り方から教えてくれるらしい。
「まずはこれ、聖水じゃな」
そういって取り出したのは透明な方の聖水である。
こちらは天使であれば誰からでも採取できるものである。
「この聖水に秘薬草を混ぜるんじゃ」
秘薬草とは痕邪の海の傍に自生している雑草である。
え?珍しそうなものを雑草呼ばわり?
だって、クローバーだもの。
あ、でも秘薬草になるのは四つ葉のものだけみたい。
「混ぜる時に聖力を込めるんじゃ」
「魔力とは違うの?」
「当たり前じゃ、あぁそういえばその年じゃまだ教わらんか」
聖力とは天使が基本的に備えている力の一つらしい。
根源は......<神の贈り物>辺りだろうか。
魔力が力学的な現象に対して作用するものであるのに対して、聖力は理そのものに作用するものらしい。
「ほれ、やってみ」
―――――――。
――――。
―――――――できた。
「ほう、筋がええのぉ」
「ふふ」
スキルが色々増えた。
聖力を込めるというのがすぐには掴めなかったけど、ヘイローと翼からの力を意識したら割と簡単にできた。
魔力を操作する感覚とは違いすぎて魔法に組み込むのは難しそうだけど、その内に試してみようと思う。
「はて、神霊薬の方へかかろうかの」
そう言うと床に置かれた材料からいくつかの果実を取りテーブルの上に置いた。
この果実は『禁断の果実』…………という名前の天使の主食である。
名前が物騒だけども普段食している物だ。
採取場所は大陸の外縁で自生している物から無尽に取れる。
「さっきの霊薬にこの果実を溶かして」
そう言いながら果実を何も加工せずに放り込む。
すると果実が酸に放り込まれた肉のように崩れて行く。
何も説明が無いけど聖力を働かせて溶かしているみたいだ。
「聖力ってこんな事もできるんですね」
「おっと、説明が抜けておったわい、そうじゃの、聖力を果実だけに作用させて液体に変えるんじゃ」
「ふむふむ」
そうして果実が跡形もなく溶け落ちて完全な透明な紅い液体になると。
「そこにこの『純天聖水』を一滴だけ滴とすんじゃ」
そのまま紅い液体に一滴、すると周囲の空間ごと清らかな光に包まれる。
光の塵が舞い、陽光に照らされているはずの空間は暗く感じた。
しかし、眩しさは感じず、液体がより強く煌めく。
まるで光はそこにしかないとばかりに液体だけが輝いて見えて幻想的であった。
蒼白い輝きが鎮まると液体は黄金の輝きを纏っていた。
「これが神霊薬じゃ」
神霊薬
弱い呪いを解呪する。
※強い呪いの場合は一時的に解呪する。
状態異常をすべて解除する。
HPを超回復する。(最大HPの約5倍ほどの回復量)
「これが無いと天使は欠損を治せないでな」
そう、天使は<不老不死>の特性により欠損の回復ができない。
欠損という状態異常だけ治療のフローが特殊であり『HPの回復』と一緒に治るのだ。
しかし、死なない代わりにHPが回復しなくなった天使はその方法で欠損を治すことができない。
そこで解呪と回復を同時に行う薬が必要になったわけである。
それだけでなく、呪いが解けるわずか数秒の間に欠損を修復するだけの回復力も必要だ。
そのどちらの要件も満たすのが神霊薬しか無いのである。
「ほれ、これもやってみるか?」
「是非!」
先ほど作った霊薬に禁断の果実を加える。
そこから聖力を操作して――操作―――操作して―――。
これ意外と難しいぞ。
個体から液体に変遷するイメージを乗せてみてるけども、ちっとも先ほどのように溶けださない。
うーん……アプローチを変えてみるか。
そもそも水に溶けるという現象は原子のイオン的な結合を云々して……といった感じだったはず、なので成分ごとに分離した上で電気的な結合を―――――――。
「ほぉ」
できた。
でもこれ、結構集中してないと別の物質になってしまいそうだ。
あ、スキル増えたっぽい、これなら―――――。
「本当に初めてかの?」
そこには黄金の液体が、神霊薬ができていた。
もちろんスキルが沢山増えた。
「ところで原料って純天?聖水じゃないとダメなのですか?」
「ダメじゃな、女子が産まれなかった500年の間にもずっと研究しておったが、聖水に聖力を加えても、ただ力を多く秘めた聖水と成るだけで純天聖水には至らなかったのじゃ」
「へぇ」
「だからの」
奇妙な間があった気がする。
「次の生誕でも女子を生み落として頂かなければならぬのじゃ」
「うん?」
「おっと、これはお主は知らなくても良い事じゃ」
「なるほど?」
そうして、錬金工房を追い出されるように後にした。