デンジャラスな遠足に行って参ります!鉱脈に危険な魔物が居着いてました
グランマルクを尋ね孤児院に預けられて間もなくドラムコングの襲撃を受けた。
ドラムコング3体を討伐した実力の説明を求められ身体強化魔法を解説するも理解が得られなかった。
院長さんに体験していただこうと始めた体験会はいつの間にか院長さん育成計画へ。
院長さんが化け物じみた強さを得たものの失った武器の代わりを求めゴミ屋……じゃなかった、鍛冶屋の下を訪れた。
新たな武器を作るためにある金属が必要とついでに依頼を受ける事になった。
そのままの足で冒険者ギルドを訪れミーティアの冒険者登録をする運びとなり、冒険者となったのだった。
入会試験?を終えて今は冒険者ギルドの受付け前に戻って来た。
「はい、これが冒険者ギルドカードでございます」
そういってトレイに乗せられ差し出されたカードが――。
――見えない。
ボクの身長は104cm、カウンターの高さは96cm、つまり目線はカウンターの下なのだ。
「よっ」
なので、あん馬でするようにカウンターの縁に手をかけて身体を持ち上げる。
カードを拾うため支える腕を一つにしてT字姿勢になって手を伸ばす。
ほとんど水平になるまで足を上げないと手が届かなかったが、この幼ボディーのあんよの間を覗く者は……そんなに居ないと信じたい。
カードを受け取るとストンとカウンターから下りる。
カードは柔軟性がある……何だこれ?素材の検討が付かない。
プラスチックでも有機繊維でもない、ここまで指の力で歪むような金属に心当たりはない。
鑑定で見ても”冒険者ギルドカード(C)”とあるだけだ。
カードを両手で持って上に掲げてみたり右手に左手に持ち替えながらひっくり返したり弄んで観察していると声がかかった。
「お嬢ちゃん、そのカードを手首に巻いてご覧」
一瞬「?」となったが言われるままい巻いてみた。
まぁコミケの入場証みたいなもんかと思っていたが期待しない現象が起こった。
手首に巻いたカードが肌と同化するように吸い込まれると白い肌をより一層白くした跡へと変わってしまった。
何だコレ!ファンタジーか!?あ、ここ非現実だったわ。
む!?周囲から視線が………。
微笑ましいものでも見るような視線がっ。
きっと、面白い表情でもしていたに違いない、少し恥い。
「ほらぁ用事も済んだしぃ行くわよぉ」
と院長さんが呼ぶので、駆け足で逃げるように寄り添った。
注目を集めていたのは強い子供がいるとかアルマディアさんが連れて来たとか、そんな事じゃなくて真っ白なワンピースという異色すぎる格好のせいだと気づくのは後日の話であった。
冒険者ギルドを後にしたボクたちは住宅区の孤児院へと戻ってきていた。
「院長っおかえり!」
「ミーちゃん、おかえりー」
「あれ?もう武器出来たの?」
「あっミーティアちゃんが冒険者になってる!」
「んっ…………!!」
お出迎えは多色。
いきなり街の外に出ずに孤児院に戻ったのには理由がある。
「ただいまぁ、みんなぁ準備はどぉう?」
「万端だぜ!」
「もちろんっ」
「ばっちりよ」
「ちょっと待って」「よしっ」
「ふ…………」
そう、今回の金属素材は孤児院の子供も全員一緒に行くことになったのだ。
というより、事前に準備させていた辺り院長さんは素材を取りに行く可能性は考えていたのだろう。
「それじゃぁ今日はぁドラムマインに向かいまぁす」
「「「「はぁぁぁぁいぃぃ」」」」
「っ………」
ドラムマインはグランマルクから砂漠の方にある歩いても4時間ほどの距離にある鉱山の町である。
色々やってすでに夕方だが、走れば日が落ちるまでに着けるらしい。
というかこの時間から日帰りとか言わないだろうな?
院長さんを一瞥すると顔が言ってるわ。
「張り切り過ぎて疲れてる子なんていないわよねぇ?」
「「「「「………………」」」」」
あれ?5人とも外方向いてどうしたの?
実は身体強化魔法を教えたのは院長さんだけではない。
院長さんが四苦八苦頑張ってる間に子供たちにも教え込んでいたのだ。
どうやら身体強化魔法を覚えて調子に乗ってしまったらしい。
全員がかなり消耗しているっぽかった。
「はぁぁあああ」
院長さんの溜息が深い、手で目を覆って伏せっている。
「はぁい、延期っ延期よぉ」
「「「「えぇぇえええ」」」」
「っ…………………」
当然だろう。
街の外という危険な場所へ向かうのに消耗していたらボクでもそういう判断をする。
「ディオネ、やっぱり夕食の用意をお願い」
「そうなると思って、もう作ってあります」
「助かるわぁ」
下手したら夕食抜きだったんかい。
と、実は食事について思うところがある。
まず天使という種族は命を維持したり消耗を回復する目的での食事や睡眠が必要ない。
そのため、食事に関する感覚が著しく鈍いのだ。
昨日の時も孤児院だから贅沢な食事ではないだろうと味は仕方ないと思っていた節があった。
しかし、改めて今日食べてみて思ったのは――。
とにかく不味いのだ。
野菜はまだマシだ、味が薄いと感じる程度で歯医者で麻酔した後にサラダを食べるくらいの感覚だ。
しかし、肉はあかん。
気持ちとしては歯磨き粉をポカリで飲んでるような感じの味が残る舌で生レバーを食べているような感じだ。
宗教上の理由で食べられないとか言いたいくらいに食べるのを避けたい。
肉は贅沢品、これは日本の価値観だ、この世界では農業の規模が小さくむしろ肉の方が安く野菜が高級品なのだ。
つまり、肉を食べられないと言う事は贅沢な我儘を言っているのと変わらないのだ。
否、これがこの世界の肉の品質のせいか、だって魔物肉だ。元々食用の水準じゃない可能性も……ないな、獣人のエレナとルリナが幸せそうに食べている。ちゃんと美味しい物のはずなんだ。
じゃぁ原因は天使の舌だな、たぶん天使にとって食べない方が良いという警告なんだろう、そう思う事にした。
翌朝。
予定より遅れた(そもそもタイトなスケジュールはないんだけど)ので日が出てすぐに出発する事になった。
行くのは砂漠方面なので、住宅区から近い西門に来ていた。
西門は人が通れる通用口のようなものがあるだけで、大きな荷物が出入りできるだけの空間はない。
一昨日近くを通った時はそう見えていたが、上の方まで菱形に削られていた。穴の大きさからドラムコングが入ったのはここだろうと判る。
周囲には血糊だろう、二日経って黒くなった染みが方々に見える。
「アルマディアさん、お出かけですか」
この衛兵さんどこにでもいるの?
一昨日からずっとお世話になっている衛兵さんが、東門で出会った本来の所属は東門だろう衛兵さんが、西門にいた。
「あれ?所属は東門じゃないんですか?」
気になって聞いてしまったが。
「あぁミーティアちゃん、そうだよ元々はあっちの所属なんだけどね、今は負傷者で人員が少ないこっちに来てるんだ」
そういえば百人以上が重症だったな。
「そうなんだ」
というか昨日も孤児院に来ていたし昨日から西門に来ていたんだろう。
「それじゃぁ冒険者ギルドカードを確認しますね」
そうして衛兵さんが持つ装置に左手首の白い跡を差し出すとボクの身分と冒険者ランクが表示された。
「え?ミーちゃんいきなりCなの!?」
「えぇ!すごいすごい」
「院長に腕相撲で勝つだけあるんだな」
「んっ………んっ…………」
「昨日教えてくれた魔法も凄かったしそんな気がしてたのよ」
子供たちが沸き立ってしまった。
子供たちの方のランクは…………Dが4人Cが1人だった。
一番の年長者だったコレットちゃんがCランクであった。
「あたしの時は冒険者登録が通るまでに2年もかかったのに」
「あたいの時は1年だったわよ」
「コレットは魔法があったもんね、わたくしも2年かかったわ」
「はいはい、わたしは半年っ、ルリナは1ヶ月だった」
「ふんっ…」
ルリナちゃんが無言でドヤってる。
「ほらほらぁ、行くわよぉ」
院長んさんから催促だ。
「「「「はぁああい」」」」
「んっ…………」
そうして、門を後にして走り出す。
街の中の移動は徒歩だったけど外に出たら走るって事は街の中で走らないのはルールなのかな?
たぶん、事故防止のためのものだろうか、後で具体的に聞く事にしよう。
――――――。
―――――――――――。
ボクの全力走行には及ばないものの、それなりの速さに至っていた。
昨日身体強化を教えた事もあって息が上がるものはいない。
「コレットがこの速さで置いてかれてない!?」
「ちょっと失礼な、これもミーティアのおかげね」
「ミーちゃん凄いのね、魔法職の人がここまで走れてるの初めて見たわ」
「ぃやはぁああああ」
「………………」
3人はボクの側に並んで走っていて院長さんが先導している。
獣人の2人はジグザグに……否、周りをグルグル回っている。
元々教える前から感覚で扱えていたっぽい獣人の2人はボクが教えた事で上の段階に上がったらしい。
が――――。
「退避ぃいいい退避いいいい」
「むっ…………!!」
魔物に見つかって―――――トレインしてきた。
ワイルドイーグル32体かな。
飛行でる魔物だし別に走り回らなくてもいずれ見つかった気がするからトレインって訳でもないか。
よし、ならば筋肉魔法っ、投石散弾!
………………うん、解ってる、悪ノリした。
道端に落ちている石を適当に拾い上げリリースする瞬間に重さを10倍にして投げる。
その数430個。
とはいえ、ばら撒いた分とは別に確実に命を奪うための石には特別100倍の加重をしている。
ボクが投げるモーションを終え残心している頃には一斉にワイルドイーグル32体は血飛沫を上げて落ち始めていた。
「あはははは、壮観ねぇ」
「ミーちゃん!今っ何したの!?」
「投石ってあんな威力出たっけ?」
「いや、普通は拳大の岩を投げてやっと落とせるくらいだったはずよ?」
「あいつ、魔法使いにとっても当たらなくて面倒なんだけど」
「んっ………!」
ルリナちゃんは私にも出来るかな?みたいに視線で語っている。
「出来るようになると思うよ」
質量魔法ありきだけどね。
「うそっ!?」
おっそんなやり取りしてると代杯だ。
よしっもう一度、と思っていると院長さんが――。
「ふんぬっ」
――砂を掴んでぶん投げていた。
投げた砂は斬撃のような剣閃を描くと軌道上のワイルドイーグルを撃墜した。
「ほらっ落ちろっ」
そうやって何度も砂を投げ、院長さん一人で片付けてしまった。
「私にもぉできたわぁ」
この人、怖い。
質量魔法抜きの筋力と身体強化のみで再現しやがった。
子供たちも院長さん凄いの空気になっている。
ちなみに、ワイルドイーグルの死骸は4体分だけその場で血抜きしてルリナちゃんが回収していた。
なお、院長さんが倒した分は断面が砂塗れでとても食べられそうになかったので放置である。
道中はそれ以降、目立った出来事はなくドラムマインに着いた。
ドラムマインは砂漠の崖谷地帯の端にある町だ。
町の建物はすべて木造であり、ウェスタンのガンマンが居そうな雰囲気だ。
グランマルクのように頻繁に襲撃を受けている訳ではないからだろうか、町の周りに壕も石壁もなく木柵があるだけだ。
入口でも検閲もなく素通りできた。
「じゃぁまずはぁ冒険者ギルドに行きましょうぉ」
「「「「はぁぁあい」」」」
「んっ……」
到着した足そのまま冒険者ギルドへ歩いて向かう。
どうも町の中に入ったら走ったらいけないというルールが本当にありそうだ
グランマルクと比べて随分と小さな冒険者ギルドだ、木の門を形容できる扉を退けて中へ入る。
入ると中央に人が通るための通路があり左右には酒場用のテーブルがぎっしりと置かれ朝っぱら飲んだくれている者たちで満ちている。
カウンターの近くは広く空いていて右の壁にクエストボードだろうか、縦横1.6x6mくらいの板に依頼書がみっちり貼られていた。
院長さんがクエストボードまで行くと目当ての依頼書を探し当て……一瞬見渡した後、鋲を抜かずに引き千切って持ってきた。
「素材を取りに行く時はぁ目当ての素材を求める依頼が無いかぁ探しておくと良いわよぉ」
なるほど。
「あとは、たまに依頼が複数貼られてる時があるけど、そういう時は相場に対して割高の方を取る事を勧めるわぁ」
「全部取っちゃダメなんですか?」
「ダメよぉ、他の冒険者が受けられなくなるのもあるけど、そういう受け方をすると持ち帰る量が増えるだけじゃなくて自分の分が確保できなくなるわぁ」
「そういうものなんですか」
「まぁこれは暗黙みたいなものね」
「なるほど」
「で、受ける意思をカウンターで報告してから出るの」
ふむ、なるほど、そうすると依頼が受注されたと依頼者に伝わるだろうな。確かに必要だな。
「あと、素材収集系だとね、ギルドから情報を受けられる時があるわぁ」
「なるほどね」
院長さんは色々教えながらカウンターに依頼書を渡す。
おや?ギルド職員さんの顔色が良くない。
「何かぁあったのぉかしらぁ」
「ひっ、えっとあのぉ……」
院長さん、圧力、圧力が出てる。
「今、その鉱脈の付近に危険な魔物が出まして依頼のランクを上げるかを検討中なんです」
「ほう?」
「だからしばらくお待ちいただけますか?」
「うーん……」
少し考えた後。
「解ったわぁ、その”危険な”魔物についての情報をいただけるかしらぁ?」
「ひぃっはぃいっ、鉱脈へ至る坑道の入口に居座った魔物がおりましてっ――」
ただの受付嬢には院長の笑顔は刺激が強すぎるんよ。
「すぅーはぁあ、ジャイアントハイオークなんです、本来はワイルドコボルトくらいしか出ない場所なんですが――」
「知ってるわよぉ、でもジャイアントオークくらいなら問題ないわぁ」
「ジャイアントオークじゃなくてジャイアントハイオークです!」
「どっちも同じよぉ」
「全然違いますよぉ、A級とS級の差がありますっ、見たところB級ですよね、それも子供の引率でなんて行かないで欲しいです」
「まぁまぁ、任せておきなさぁい」
「任せられません、ちょっと待ってくださいぃい」
「ほらぁ行くわよぉ」
子供たちも「え?良いの?」な雰囲気だが強引に行こうとする院長さん。
「まぁダメそうなら見てから引き返してくるわよぉ」
「はぁあ」
受付嬢さんも「どうなっても知らない」って雰囲気だ。
そのままの勢いで院長さんが出て行ってしまったので子供たちと共に追いかける。
「必要なのはステラライトって金属だ」
「あぁ重くて掘り出すが大変なアレねぇ」
「そうだ、重量があって頑強になるのはステラライトしかねぇ」
ってのが昨日のバルクさんと院長さんのやり取りだ。
何が大変かというとまず重い、それだけでも大変だが一つの塊が非常に巨大でかつ部分的に切り取るのがかなり難しい。
塊を丸ごと取り出しても1m立法で200tほどあり積極的に掘りに行かない金属なのだ。
用途も豪邸の基礎として使われるくらいで需要が多くない。
そんなでも依頼が出ていたのはタイミングよく求める人がいたからに過ぎないが、それでも依頼が出されてからもしばらく残る事が多い。
相場が良いにも拘らず残りやすいのは面倒臭いからである。
しかし、今回はそれに加えてS級魔物が立ち塞がるときた、これでは誰も受けられない。
閑話休題。
今回は重い戦槌を作るためにその金属が必要なのだ、S級魔物ごときに阻まれた程度で引き返せないのだ。
ボクもいるし、化物と化した院長さんがどこまで通用するかを確認できる機会でもある。
ダメそうなら引き返せば良いしね、さすがに邪狼ほど強くないと思うけど。
ステラライト鉱脈のある場所はドラムマインを出て南に3kmほどの場所にある。
崖の下にはドラムマインから行けるようになっていて崖下の溝道を行く。
砂の壁に挟まれた溝道を走る事10分、目的地にはすぐ着いた。
「あれが、ジャイアントハイオークです?」
「そうねぇ」
溝道がおよそ幅9ー14mほどである。
そして、件のジャイアントハイオークさんは13mある通路を横断して肩から手首の範囲だけで道を塞いで仰向けに寝ていた。
「でかすぎない?」
「ジャイアント種は皆あんな感じよぉ」
マジか。
否、地上に来てすぐ会った龍神さんはアレよりも巨大だったなぁ……。
「院長さん、アレ、倒せますか?」
「判らないけどぉ、でも今ならぁ行けそうだわぁ」
もう借り物の戦槌を構えてるし体中に魔力を巡らせて臨戦態勢なんだが。
「気を付けてくださいね、即死したら助けられませんので」
「そんなヘマはしないわよぉ、 タブン」
自信ないなら止めていただきたい。
ちなみに子供たちは後ろの方で豆粒して、やんややんやしてる。
「うぉおおおらあああ、起きろぉおお」
『VEGGGMMBB』
呆れていると突進していき手前で跳躍すると、場所は肘に相当するだろうか、戦槌を叩き付けた。
鈍いを音を響かせるも骨までは届いてなさそうだ。
一撃では起きないらしい、そのまま肘を集中的に撲撲にする。
さすがに煩わしいのか、起き上がり様に右腕を振り払う、右側の壁が崩れるのを見た院長さんは跳躍して退避し腕の射程の外まで移動する。
地形まで変わっちゃうんか。
13mしかなかった通路は崩され今は30mほどの広い空間になっている。
数度殴られて傷が付いていた右ひじを抑えるようにしているが、間もなく自然回復によって傷が塞がってしまった。
なるほど、確かにこれは並の攻撃力では倒せないだろう。
「院長さん、行けそうです?」
「ちょっとぉ心折れそうだわぁ」
口が緩いからまだ余裕だろうか。
―――――――――。
――――――――――――。
――――――。
―――――――――――――――――――。
あれから1時間経過。
しばらく見守ってみたけど、院長さんが被弾することがなかったけども、ジャイアントハイオークさんは相変わらず無傷である。
ステータス鑑定でずっと監視しているけどもHPは1%以上減った場面が来ない。
やはり武器の重さが足りないだろうか、攻撃力不足である。
「院長さんんんん、ちょっと良いですかあああああ」
轟音のため、少し声を張らないと届かない。
「なぁああああああにぃいいいい、きいいいこおおおええええなああいいいわぁあああああ」
「ちょおおおおおおっっっとおおおおおおおもおおおおどおおおってえええきいいってえええ」
「はあああああああああいいいいいいいいい」
そうして、院長さんを呼び戻す事ができた。
「あれきっついわぁ」
「強化魔法を試しましょう」
「なるほどねぇ」
「体感、重くなるので気を付けてください」
本来の目的である10tハンマー相当に重くする。
「うん、この方がしっくりくるわねぇ」
「でも、打つ角度が悪いと砕けるので気を付けてください」
「解った、わっ」
あまり長く離れるとジャイアントハイオークさんがこちらに来てしまうので、質量魔法を受けるとすぐに戻っていった。
「うぅぉおおらあああ」
『BACCCOOOMMBBB』
爽快な響かせてジャイアントハイオークの肘から先を吹き飛ばした。
HPも1割ほど削れている。
「うん、やっぱり攻撃の威力は重さに比例するんだね」
攻撃力を確保した院長さんが負けるビジョンが見えなかった。
重さが増えたとて先ほどまでと同じ動きを維持できているのだ、ジャイアントハイオークのHPが一方的に減るはずだ。
『BARARARRRRAAA』
あ、砕けた。
この負け筋を引いちゃうか。
仕方ない。
近くにあった手ごろな岩を地面から切り取ると質量魔法で加速と加重をかけながら後ろ回し蹴りで吹っ飛ばす、威力は充分で一撃でジャイアントハイオークの胸から上を抉り飛ばした。
戦槌を砕けたショックで俯きながら院長さんが戻ってくる。
「もう、ミーティアちゃんだけで良かったのでは?」
「いやいや、武器が壊れさえしなければ院長さんでもS級に通用するって確認できたじゃないですか」
「まぁあそうなんだけどねぇ」
そう、無収穫ではない。
院長さんがS級と戦えるという確認ができた事は大きいのだ。
例え並みの武器では決定打にならないにしても、これから作る予定の武器が仕上がれば院長さんが単独でS級を倒せる可能性を持てるのは非常に重要な事なのだ。
ただ重い武器を振り回せるだけでなく実戦で実用的な段階にある、これが確認できた。
―――――
ドラムマインの冒険者ギルドに子連れの冒険者がやってきました。
名前は知らないけども年に数回程度、子供を引き連れてやってくるその冒険者は武器を持ち歩いてはいませんでした。
いつもは安全なクエストだけを取ってきて受注した事を報告してくれる稀な冒険者でもあったのですが…………。
いかんせん怖いのです、見た目が。
私もここの荒っぽい人たちで慣れてはいるものの、彼……じゃなくて彼女はそれとは違った雰囲気を纏っていたのです。
それでも以前までに見た時はそこまで怖くはなかった、しかし今日はまったく纏っている怖さの度合いが全然違った上に普段とは異なり戦槌を持っていました。
戦槌は武器としてはかなり扱いづらい部類にあり、弱い魔物を倒すには困らないけどもある程度の魔物となると頑強さと重さを伴った物でなければ通用しません。
そして、彼女の持つ戦槌はそこまで上位の物ではなく、C級の魔物には通用する程度のもので腕が良ければB級でも通用する程度のものです。
そしてよりによって今、一番受けて欲しくない依頼を持ってきました。
ステラライト採掘依頼、普段であれば往復の経路上には子供でもなんとかできる程度の魔物しか出ません。
しかし、昨日から事情が変わっていたのです。
「何かぁあったのぉかしらぁ」
「ひっ、えっとあのぉ……」
怖い怖い、この人、笑ってるのに怖いんですけど。
「今、その鉱脈の付近に危険な魔物が出まして依頼のランクを上げるかを検討中なんです」
「ほう?」
「だからしばらくお待ちいただけますか?」
「うーん……」
「解ったわぁ、その”危険な”魔物についての情報をいただけるかしらぁ?」
え?行くの?っていうか怖いから笑うの止めて欲しい。
「ひぃっはぃいっ、鉱脈へ至る坑道の入口に居座った魔物がおりましてっ――」
「すぅーはぁあ、ジャイアントハイオークなんです、本来はワイルドコボルトくらいしか出ない場所なんですが――」
「知ってるわよぉ、でもジャイアントオークくらいなら問題ないわぁ」
「ジャイアントオークじゃなくてジャイアントハイオークです!」
「どっちも同じよぉ」
「全然違いますよぉ、A級とS級の差がありますっ、見たところB級ですよね、それも子供の引率でなんて行かないで欲しいです」
そう全然違う、ジャイアントオークはA級の魔物であり時間と人数さえかければB級の冒険者でも対応可能なんです。
でも、ジャイアントハイオークは次元が異なります。25m高の巨体から繰り出される拳は地図を書き換えるだけの破壊力があり、高い再生能力はS級の冒険者でさえ苦労するレベルです、そんな相手にB級で通用するか怪しい武器で挑むのは無謀です。
「まぁまぁ、任せておきなさぁい」
「任せられません、ちょっと待ってくださいぃい」
「ほらぁ行くわよぉ」
ほら、じゃありませんよ、子供たちも驚いてるではありませんか。
「まぁダメそうなら見てから引き返してくるわよぉ」
「はぁあ」
早目に引き返してくれないですかね……。
ステラライト鉱脈の直前に居着いたジャイアントハイオークは手を出さなければ何もしてきません。
ですので、手前まで行って引き返していただければ良いのですが……。
あれから全然帰ってきません。
すでにステラライト鉱脈までの経路ならば3往復ほどできそうな時間が経過していました。
おそらくジャイアントハイオークは鉱脈までの出入り口を完全に塞いでいますので、もし諦めたのならばすでに戻ってきてもおかしくありません。
そして、今日戻った調査に出た冒険者からの報告で正式にS級の討伐依頼が発注されそうでした。
同時にステラライト鉱脈への出入りの禁止、元々需要の少ない金属です、そこまでの影響はないでしょう。
「はぁあああ!??」
このはしたない絶叫は私のものです。
帰って来ました。奇妙な報告と共に。
「ジャイアントハイオークを倒したってどういう事ですかっ!?」
「そのまんまよぉ?邪魔だったのでぇ倒しちゃったわぁ」
倒した?B級ですと傷を与える事すらできないようなS級でも倒すのに苦労するジャイアントハイオークを?
そういえば持っていた戦槌がありませんね。
「せ、戦槌はどうしたのですか?」
「壊れたわぁ借り物だったんだけどねぇ」
借り物?本来の自分の得意武器でない、しかもS級の冒険者が持つような武器でなくB級で通用する程度の武器で?
「そ、そんな訳ありません、貴方が持つ武器では戦いにすらならなかったはずですよ」
「そんな事ぉ言われてもぉ……あっこれ、ステラライトよぉこれで証明になるかしらぁ?」
ドスンと鈍い音を立ててカウンターに置かれた金属の鉱石、比重がかなり高くわずか8cm立法で100kgもあり私では持ち上げられない、それは間違いなくステラライトでした。
「そんな、いえそもそもそれだけの量を運んできても……」
「まだまだあるわよぉ?」
子供たちに運ばせた分かしら?
さすがにこんな大きさではありませんよね?
???
――――?
!!!????
「は?」
さすがに惚けた声がもれましたが。
「いやいや」
子供たち全員が魔物皮の巾着を持ち歩いており、それぞれが……。
1t相当の体積を詰めていた。
「それ近い鉱脈で採った別の金属ですよね?ステラライトな訳ないですよね?」
「ステラライトだよ~ほら~」
そう言って獣人の子供が巾着を開いて見せてくれました。
まるで重さを感じさせない自然な振る舞いで……。
うーん……確かステラライトの鉱脈の近くに青魔晶の鉱床があったはずです。
青魔晶は鉱石状態ではステラライトと見た目では違いがありませんが、青魔晶の比重は水と同等です。
いや、絶対に青魔晶でしょう、でなければ子供が持てるはずがありません。
「少し預かっても良いかしら?」
「うん分かった~」
せっかくなので重さを確かめてみましょう、青魔晶でしたら私でも……。
そうして手渡しで受け取ろうとして――。
『VAOOGGOOOMMMBBB』
肩っ――肩がぁああああ!!!
その子が手を放した瞬間に巾着の重さを受けた腕が支えきれずに地面に向けて引かれたせいで肩が外れてしまいました。
「ほ………本…物……です…………」
さすがに認めざるを得ませんでした。
「そ、それでは納品の処理をっ……」
しかし、肩が痛すぎて対応できそうにありませんでした。
すぐに代わりの人が来て対応していただけました、面目ないです。
そして、その受付嬢は見なかった事にした。
野営道具の鞄と同じサイズまで膨れた巾着を持つ幼女の事を……。
―――――
俺はジャイアントハイオークの調査を請け負った冒険者だ。
今日の朝に調査の報告をしたその日の内に討伐の確認をする事になるとは思わなかった。
そして、もう日が無くなりそうな頃に現場を見て驚愕した。
まずは身体の方は肉の一部が吹き飛び穴だらけになっていた。
これ自体は頻く見る倒され方では常識的な傷だった。
しかし、異常だったのは致命傷だ。
そう致命傷なのだ。
肉を削り消耗させて倒した訳ではなく致命傷を与え一撃で倒されていたのだ。
鎖骨から上は完全に消し飛びそれまでの消耗が無くても、その一撃だけで死亡していた事が見れば判る程度だった。
今朝、調査の帰りにすれ違った冒険者が倒したらしいが、それを見た時には人の身体くらいのサイズの戦槌を持っていたがそれほどの攻撃力がある業物には見えなかった。
ならば魔法だろうか?
このような創となると氷魔法?いや、この規模の氷魔法を見る機会はあったが1週間くらいは氷が残っていた。
となると土魔法だろうか?いやいや、直径10mを抉るような魔法となる周囲の地形にも影響が出るだろう。
ならば風魔法?いや、無い無い、だったらこいつの背中側の崖の高い位置に着いた血痕はどう説明する?
どう考えても高質量の実体を伴う魔法である事は明白だ。
まさか素手なのか?
確か、さっき子供の中に異様に巨大な荷物を背負った者がいた。
いや、それこそ無いな、もし素手だとしたら伝承にある勇者と同じという事になる。
そもそも、あんなお嬢様みたいな格好した子供がそんな力持ちなわけねぇだろ。
きっと、荷物の中身は野営道具だ、そうに違いない。
だとしたら使い切りのアーティファクトだろうか?
高い出力の砲撃を出す一度切のアーティファクトの存在は聞いたことがある。
一番可能性が高いのはそれだろうな。
まぁもしかしたら他にそういうコトに詳しい奴がいるだろうから、ありのままを報告するとしよう。
さすがにジャイアントハイオークの死体をそのまま持ち帰るのは無理だしな。
現場の報告だけ持って帰るとするか。
この時の報告がミーティアの素性を明かす証言になる事は今のミーティアは気に留めてすらなかった。
登場モンスター紹介
・ワイルドイーグル
雑魚。
危険度を地球生物に例えるならばカラスとハイエナを足して割ったイメージ。
一度に出る数が多い。
・ワイルドコボルト
二足歩行の犬…みたいな魔物、断じて犬ではない。
危険度は訓練済みの警察犬くらい。
・ジャイアントオーク
種:ジャイアントオーク(A)
素材字:大王戦豚
HP:334000/334000 MP:100/100
STR:355
VIT:172
INT:5
ARG:144
DEX:44
POW:198
PHS:1122
自動回復はない。
10m丈以上の武器を持つ。
・ジャイアントハイオーク
種:ジャイアントハイオーク(S)
素材字:巨大王戦豚
HP:734000/734000 MP:100/100
STR:777
VIT:222
INT:5
ARG:125
DEX:23
POW:222
PHS:2670
自動HP回復能力が突出して高く、4分で50%を回復する。
DPMが90万を下回れば絶対に倒せない。
(MMO系ではこういうボスをDPSチェッカーと呼ぶことがある)
武器を持たない事が多いが、適切なサイズの武器が存在しないため。
武器を持つ場合の脅威度は『邪』級の魔物に匹敵する。
登場鉱石フレーバー
・青魔晶
魔晶の内、水や冷温系に偏った物。
・ステラライト(星王魔鉱)
物質次元に存在する元素の中で最も比重が高い金属。
力学魔法、(重力魔法)、質量魔法と親和性が高い。
素材の運輸に用いる巾着
伸縮性のある魔物の革を用いる。
積載量により大きさや素材が変わる。
ミーティアが担いでいた巾着はマギアブルの製で200tまで入る。
インベントリ系の魔法って無いの?
無いです。
魔力や聖力などの非物質を収納する事は可能ですが、
物質次元にある物を収納する事はできません。
(実は転生特典の<ステータスメニュー>に内蔵されてます
が、ミーティアの場合は削減したので使えません)
Tips:音声の表記規則
基本的には日本語音声あるいはオノマトペで表現可能な音は原則として”かなカナ”表記です。
アルファベットでの表記になった場合は音量が戦闘機や航空機の出す音を至近距離で聞く程度の騒音です。
さらに母音を除いた文字の重なり(BBBみたいなもの)が多くなるほど人間の耳が認知できない音声となります。しばらく耳が潰れるほどの轟音、言語認知できない音声、などです。