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冒険者を目指して

天界を追放され地上へ墜落してしまう。

墜落した先は龍神の住処であった。

住処の修繕もとい大改造により許しを得て旅に出たのだった。

髪の毛をカスタマイズして一人称がボクになりました。

龍神と分かれ、髪の毛をいじり倒した後――。


最寄りの町、フィンドルムには向かわずに内陸の方へ移動していた。

さすがに空を飛んだ移動はしていない。


地上を――。


――もちろん爆速で。




そうして着いた場所は草原と砂漠の境目にある街、グランマルクである。

建物は木材を骨組としてレンガや石材が壁を構成している。

魔物向けなのか人向けなのかは判らないが、堀と石の外壁に覆われている。

それなりの大きさの河が街の中央へ流れ込んでいる。

まぁメタ的な表現するならば、It is fantasy 然とした街並みである。

しかし、機能的な部分まで見てみれば日本とそう変わらないように見える。

浄水場があり、町の中の至るところにマンホールがある。

メインストリートは80幅員ほどもあり群衆によって滞るようなこともなさそうだ。

路地でさえ、乗り物が通れそうな幅がある。

乗り物……乗り物…………?


無意識に違和感すら持たずにいたが周りを見渡して探してみる。

馬車すら見当たらない。

そういえば、自力で走るのがそれなりに早いから乗り物を開発されないって感じなんだったな。

しかし、馬車すら無いのは違和感を覚える。

物を運ぶのにどうしてるんだろうか?



「おい嬢ちゃん」

「ん?」

「あんただよ、腰ほどの背も無い」

「あぁボクか」

「ボク?……そうそう、あんたどうしたんだ?」

「へ?」

「見たところずいぶん豪華な服を着てはいるが……」


そう、ここは入り口の門であり、入門の際に衛兵に呼び止められていた。

そして、多くの者はここを通る時に手形あるいは身分証のようなものを提出していたのである。

もちろん、そんなものはないので。


「身分を証明できないって事は孤児なのか?しかし……」

どうも綺麗すぎる服がいけないのか大分混乱してそうだ。

「まぁとりあえず、孤児院に案内してやる」

「ありが、とう?」


とりあえず孤児として処理してくれるらしい。

身分を証明できないと色々不便そうなので乗っかっておくことにした。


――――。

―――――――。


この衛兵さんが色々話してくれたが、自分語りばかりだったので右から左にをした。



―――

東門から入り、防壁沿いに北門を経由して()()()向う。

東門の付近は商人や旅人が多くいる区画で商店や倉庫など商人に関わる施設がメインで商人や旅人が利用する宿が栄えている。商人区と呼ばれているらしい。

北門付近は冒険者が多くいる区画で装具や旅の道具、薬を扱う施設がメインで収入が怪しい人向けの安宿がかなりの数がある。冒険者区と呼ばれているらしい。

それらを通り過ぎて住宅地の区画へと着いた。住宅区と呼ばれているらしい。

住宅区は中央値以下の住人が済む区画であり、商人区で見たような木材を骨組みにした建物は少なく、レンガを組み上げただけの建物が多い。

壊れたままにされている建物がいくつか見える事からも建造物の優先度が低い事が判る。

この衛兵さんによると一月(ひとつき)もあれば直されるみたい。

ここでは建物の頑丈さよりも外から運び込む資材が少ない建築法を用いたスピード感の方が優先されているとの事、決して貧乏だからではない。


そうこうして、門と言うより通用口と表現する方がしっくり来る西門を通り過ぎて孤児の区画へ到着した。

孤児区と呼ばれる場所の建造物は商人区と同じように木構造を石で補強する作りとなっている。

門や防壁からやや遠い場所にある事でここまで侵入される事が稀なのだろう。




「ほら、着いたぞ」

孤児区に入ってから十数の孤児院を通り過ぎて三周りくらい大きな建物に入る。

ここは孤児に特化した役所のような場所だろうか、建物に入ってすぐの所は壁から壁へ至る長い机に横に区切られている1フロア丸ごと使った大きな部屋だった。


「まずはここで手続きをするんだ」

見れば判る、(いや)、見たまんまだ。

だけど、こういった異世界で戸籍の概念があるのは意外だったな。

「あんた、字は書けるかい?」

子供の識字率ってどうなんだろう?

とりあえず貴族っぽいって思われてそうだから――。

「はい」

というわけで書いてみて……

「あ~~」

おや?

「ごめんよ、これ何て書いたんだ?」

あれ?

読める人かどうか回されている。

「ダメみたいだ、ここに読める奴が誰もいない」

なん……だと……?

この大陸で最も多いはずの言語のはずだ。

それがダメだと?

「代筆……………お願いしても良いですか?」

屈辱…………。


とりあえず必要な書類はすべて、この衛兵さんに丸投げした。




―――――――。

――――――――――――。


一応、冒険者になりたいという話もして――。


――――――――――。

―――――――――――――――。



「これで最後だな、いやぁところであんた、どこ出身なんだ?」

「秘密で」

「そうか……訳ありなんだな………」

読めない言語書く得体のしれない人物の出身地など答えられると思うか?

そうでなくても()()なんて言えるはずもない。


という訳で、ひとまずは孤児としての生活となるらしい。



――――

「新しく入る子よぉ、ほら挨拶っ」

「はい、ミーティアです、よろしくお願い致します。」

「元貴族様なんですって、仲良くしてあげてねぇ」

この口の緩い人はこれから入る孤児院の院長さんである。

身長は190cmはありそうで、かなり筋肉質、さらに歴戦の戦士を思わせる深い傷跡が肌に刻まれている。

この身体と口調のギャップがえぐい。

「わぁあ、お貴族様?」

「へぇええ、だから綺麗なのね」

「ねぇ!ねぇ!髪の毛さらさら!!!」

「服!すっごい軽いよ!!ほら!!!!」

「お肌つるつる!!!」

「……っん」

この孤児院には5人の女の子がいて、それぞれが好き勝手に身体や服を弄んでくる。

男の子がいないのが幸いか。

(いや)、元がおっさんとしては刺激が強すぎる。

細い指、柔らかい肌、密着してくる子の薄い肉の奥の細い骨が当たる当たる。

そうして、もみくちゃになって笑っているのか泣きたい顔なのか困った顔なのか複雑な表情をしていた。


「ほらほら、ミーティアちゃんが困惑してるでしょう、一旦離れて」

一旦……?

一応、院長さんの話を聞いて離れてくれた。

「じゃぁあなたたちも自己紹介なさい」

「じゃあ、あたしからね、あたしはメレーヌ、両親は魔物に殺されたわ」

いきなり重い……

「こら、身の上話は要らないでしょ?」

「はぁい、ごめんなさ~い」

このメレーヌの名乗った子は赤い髪が特徴的な”快活”って感じの子だ。

肩甲骨辺りまでの長さの髪を緩く一つに編み込んでいる。

絆創膏が似合う、そんな感じ。

「次はわたくしね、わたくしはオリーブ、父の一人親だったけど捨てられたわ」

相変わらず重い……親の話をする流れになってしまっている。

「はぁ」

院長さんも苦労してそうだ。

オリーブちゃんは最も身長が低いけど、何故かこの5人の中で一番の”お姉ちゃん”って感じの子だ。

金髪寄りのブロンド髪といった感じで腰まで伸びた髪を二つに分けて肩口で結んでストレートに流している。

「次々、あたいはコレット、親の事は覚えてないわ」

もっとすごいの来た……。

「………」

院長さんも諦観が(まみ)える。

コレットちゃんは浅い緑色の髪の口調に合わず大人しめの感じの子だ。

髪は束ねるなどせず肘くらいの長さをストレートに流している。

特徴的なのは耳だ、上の方に向けて鋭く尖っている。

鑑定眼の種族にエルフと出ている。

年齢も見た目相応に子供然としている。

「それじゃあ、わたしがエレナ、この子がルリナ、双子よ」

「……」

親の情報がない初めてのケースだ、院長さんもやっと落ち着けそうだ。

どちらも双子と言うように瓜二つである。

髪の色は鮮やかなブラウンで共に肩に届かない短さである。

違いはリボンの色と結んでいる場所くらいで、無かったら見分けが付かなそうだ。

黄色いリボンを右耳の下で()んでいるのがエレナで青いリボンを左耳の下で結んでいるのがルリナである。

(いや)、しゃべる方がエレナで無口な方がルリナで判断できそうだな。

それより目に付くのはケモ耳と尻尾である。

種族は猫人とある。

ボクは天使が最推しであるが、その次くらいに獣人推しなのである。

あぁ生獣人、愛おしい。

尻尾が興奮に合わせてゆらゆれしてるの可愛すぎんか。

ペットの猫にするように頭やお尻を撫でたい!

しかしっ……人の姿をしている以上、動物を愛でる撫で方はセクハラだ………。

ぐぬぬぬ………これは試練だろうか。


「一通り自己紹介は良いかしら……」

院長さんがそう言う最中に圧力が高まる。

そう、先ほどの続きの圧力が……。


―――――――。

―――――――――――。


解放されたのは1時間ほど経ってからでした。




「じゃあミーちゃんは冒険者になりたいの?」

「そうよ、ボクは戦うくらいしか分からないしね」

「うーーんんん………ここで冒険者になるのは難しいと思うな」

「それはどうして?」

「だって…………ね?」

「そうだね……」

「すぐに判ると思うな」


『GOOONNNNGG RINGGGOOOONNNNG』

唐突に荘厳な鐘の音が街(じゅう)に轟く。

「なに、なにっ」

「冒険者になるのが難しい理由よ」

「うん?」

「この鐘の音はね、魔物襲撃の合図よ」

「じゃぁ――」

「ダメダメ、あたしたち子供じゃ足手まといどころじゃないのよ」

「だってねぇ、ここにやってくる魔物って他の冒険者ギルドの基準でBランク以上だもの」

「うん?」

「つまりね、ここの冒険者は全員がエリート中のエリートなの」

あぁそういうことか。

どうやら、冒険者デビューするにはかなり条件が厳しい場所に来てしまったらしい。

「そもそもね、ここの人達は冒険者になるよりも衛兵になった方が稼げるし安全だから、衛兵になる人の方が多いのよ」

「へぇ?」

「そうそう、ここらの孤児院の子たちも憧れるのは衛兵さんなのよね」

…………さっきまで案内してくれた衛兵さんが自分語りが多くなってた理由を察した。

「そもそも、ここの孤児院は衛兵になる指南をしてくれる場所よ?」

「うん?」

「まぁまぁ、確かにここは衛兵の訓練を中心に行いますが冒険者になれない訳ではないのよ」

院長さんが補足に入ってくれた。

「えぇでも冒険者になれた子がいないって聞いたぞ」

「そうだそうだ」

「当然でしょう、そもそもね、税金を使って育てた子を捨て駒扱いの冒険者にする事はないのよ」

「捨て駒……」

「えぇそうよ、一応制度上はDランク相当があれば冒険者登録できるんですけどね、こういった襲撃の際は強制的に前線に送られるから大体はすぐに死ぬわ」

天界でも地上でも生きるのが難しいのは変わりないということか。


そうこう話す内も遠くでは戦いの喧騒が聞こえてくる。

まだ防壁を突破されていないらしい。

遠くの方へ気配察知を飛ばす……………。

なるほど、邪狼ほどじゃないにしてもそこそこの強さがありそうな魔物が700体も来てるのか……。

確かにBランク相当と言われるのも納得だ。

それに対して冒険者の数は……1000人……………?

多くないか?

街中で臨戦態勢の衛兵の数は……2000人だろうか?

なるほど、確かに冒険者がこぼした奴だけを狩れば良いのなら衛兵の方が安全というのは理に適っている。


「そういえば、こういった襲撃って魔物の数ってどれくらいなの?」

「あぁ、大体いつもなら100体で多くても300体くらいかな」

「ふーん?じゃぁ700体とか来たらどうなるの?」

「あはははは、そんな災害あるわけないじゃない…………どういう事?」

「ミーちゃん、もしかして街の外の様子が分かるの?」

「うん、魔物の数は倒された分も入れて852体、今も生きてるのは711体、冒険者は1055人、衛兵の数は2033人かな」

「想像以上に具体的だ」

「その魔物の数は本当?」

「う――」


『GGOOOONNNGG GGOONNGG GOONNGG GOONNGG』

返事は鐘の音にかき消された。

「え?マジ?」

「街中に侵入されたって」

「まぁ今回も数匹紛れただ―――『BBOOMMBBB』―――け?」

『DDGGGOOOOMMMBBB』

「数匹って規模じゃなさそうなんだけど」

「うん、今ので90体くらい入って来たみたい」

「は?」

「そんな数だと今の衛兵だと受け入れられないわよ!」

とんでもない事態らしい。

実際に衛兵たちの中から()()()が百数人出ている。

もちろん医療定義の重症者である、自力で移動すらできず、手当てが遅れれば後遺症あるいは死亡が有り得る状態だ。

5%以上の人員がそんな重傷者となれば統率なぞ怪しいものである。

ましてや、自分らは安全などと考えている者たちだ。なおさら動揺などで動きが良くない。


そう思案する間にも。

『BBOOOMMMMBBB』『DGGOOOOMMMBB』

襲撃を知らせる轟音は近づいてくる。

「ねぇ」

「あたいも同じ事思ってる」

「わたくしも」

『BAGGGGOOOOOMMMMBBBB』

はい、猿型の巨躯がこんにちは――。

「「「「いやぁあああああ」」」」

「………っ」

ボクの(そば)にいた5人は一斉に金切声を上げて狼狽える。

……一人は無言だけど。

砂を掻き分ける音、靴が滑りボクらの前に院長さんが舞い込む。

その手には人の体躯と同等の大きさの頭を持つ槌、戦槌と言うものだろう。

それを上段に構え腰を落としている。

左腕を引き手に前に伸ばし、右腕を支点としてバランスを取っている。

構えとしては上段の振り落としあるいは中段のぶん回しのどちらにも派生できる構えだ。

『UUVVVOOORAAAAHHHH』

目の前の大猿は雄叫びを上げて飛びかかって来た。

一足で数十m、一息で院長さんに肉薄する勢いだ。

両腕を上段に振り上げ、その重量をそのままに振り下ろす。

院長さんはそれに―――。

「UURRRRRAAAAAAAHHH」

上段で打ち合った。


少し余談、院長さんと大猿のステータスはこんな感じだ。


  名前:アルマディア

  年齢:44歳

  称号:引退者、教育者

  人種:人間

  性別:女

  HP:6550/6550 MP:380/380

  STR:322

  VIT:124

  INT:855

  ARG:175

  DEX:88

  POW:102

  PHS:103

  APP:210

  LCK:44


  種:ドラムコング

  HP:83500/88000 MP:3800/3800

  STR:455

  VIT:366

  INT:5

  ARG:200

  DEX:50

  POW:500

  PHS:800



ステータスを見る限りは単独で相手取るには怪しいだろう。

というかステータス面だけ見るとメイガスさんよりもずっと強そうだ。

武器の性能がよく判らないけども、おそらく致命的なダメージを受けずに倒せそうだ。

実際、苦戦している様子は見え―――――。

(いや)、何故だろう、苦戦の様子が見えはじめた。

十数回撃ちあって大猿もといドラムコングは結構消耗していてそろそろ倒せてもおかしくない。

しかし、院長さんの動きが悪い。ダメージは受けていないはずだが。


――――。

結局は院長さんは最初に立った位置から一度も動く事無くドラムコングを打倒(うちたお)して見せた。


「はぁあああ、はぁあああ、すぅううううはぁあああ」

だいぶ息が上がって……あぁなるほど、疲労か、ボクには無いものだからか失念していた。

つまり―――。


『『『UUUUVVVVVVOOOOOORRRAAAAAAAAHHHHHHH』』』

立て続けに来られたら無理だよねぇ………。

院長さんの表情が険しくなる。

隣では子供たちがボクに抱き着く手を繋ぐ服の裾を掴むなどしている。

「少し放してくれるかな?」

「「「「え?」」」」

「待って、院長さんもだいぶ強かったけど、あんなの3体も来たら」

「そうだよ!ミーちゃんがどうにか出来る訳ないじゃない!!」

「もしかして、あたいたちを置いて逃げる気か?」

「………」

「逃げるならわたしたちも一緒に逃げるよ!」

どうやらボクの評価が薄情者になりそうだ。

「違うとも」

「ボクは冒険者になりに来たって言ってたでしょ」

「あれくらいのだったらもう倒せるだけの実力はあるよ」

そう、あれは龍神様と違い強固な鱗に守られていない。

それにただ質量を振り回すだけの攻撃で倒されるくらいに脆い。

だったら――。

「あの3体はボクが倒そう」

院長さんがその声に振り返ってきている。

すでに入った臨戦態勢では遅くなった時間感覚ですでにボクの居ない場所を見ている院長さんを認識している。

さすがに武器は持っていないのでね、少し拝借します。

大体500kgくらいだろうか。重機(ユンボ)で持ち上げられないくらいの重さだろうか。

しかし、魔力と身体強化の併用でなんとかなるし、擬剣クレイモアよりも軽い。

槌は……そうだな……1年目の素振り以外に扱って無かったかもな。

つまり4年ぶり、まぁスキルのおかげで体重移動の仕方まで理解できている。

問題ない。

なんとなく上段の構えのまま3回転ほど縦回転。

……あぁそうだ、忘れてた。

飛行使ったらダメだよね。

まぁもうすぐそこに頭あるし最初の獲物はこれで良いか。

足の裏に魔力で空気膜を作ると強く踏み込み、体重と槌の重さを100倍にする。

そして、その勢いのまま脳天を打ち抜いた。

槌の持つ慣性を移された頭はそのまま地面に打ち付けられ脳髄で地面を汚した。

本来の計画では飛行して槌の回る勢いのまま隣の2体の顎を打ち抜く予定だったが、一旦通り過ぎて地面に着地した。

そして一拍。

片腕で戦槌を担ぎ直立していた。

ん?

あぁさっきので壊れかけたか。

増した重量による負荷、叩き付けた時の衝撃、それにより柄部分が縦に割れ、槌の表面はひび割れていた。

それを錬金と質量魔法で強引に修復する。

今度は槌を軽量化して、左のドラムコングへ肉薄する。

遅いな。

ボクの接近に反応して拳を打ち出してくるが、その拳の軌道上をすでにボクは通らない。

通り過ぎた拳の前腕の毛を0.001秒だけ掴み軌道を変える。

目の前には脳天、しかし先ほどとは異なるアプローチで頭を打ち抜こう。

先に体重だけを1000倍にし横回転、慣性のままに脳天に近づいたタイミングで槌の重さを50倍にする。

回転の勢いで重量を上げた槌をぶん回し、ドラムコングの頭を横に打ち抜いた。

打ち抜かれた頭は首とお別れをし、右で茫然としていたドラムコングの顔面に激突した。

ちっ、仕留め損ねたか。

頭が粉々にならないギリギリを責めすぎたみたいで、一撃で仕留めるには威力が足りなかったらしい。

ちなみに、今の一撃で戦槌の方は粉々になった。

うーーんん、仕方ない、素手での戦闘だとそこまで威力出せないんだよね……。

派手な魔法は控えたいし。

一足で肉薄する、顔を撃たれた衝撃で怯んでいるため対応されない。

身体の慣性そのままに体重を20倍にする。

その後、ドロップキックの姿勢で膝を打ち抜いた。

()ったぁああああ。くない?

そう、まだ武器を扱わない攻撃で威力を出そうとすると痛みのフィードバックがあるのだ。

が、あっそうか、痛み耐性が完全無効になってるんだったわ。

でも、少し威力が足りなかったらしい。

膝を砕くには至っていなかった。

今のSTRで出来るか判らないけど試してみるか。

不自然な加速で一瞬で着地し、姿勢が崩れたドラムコングの顎下へ潜り込むように跳ぶ。

顎の毛を両手で思いっきり掴んで魔力で気持ちちょっとだけ摩擦を増して滑らないようにしてから、体重を5000倍にして力一杯下へ引っ張る。

しかし、それでは身体が前に傾くだけだ、これだけでは足りない。

なので、足元に空気の膜を張り、同時に腰を中心に上向きの加速をかける。

うっ()っも!!

だが―――。

「UUOOOORRRAAAAAHHH」

質量魔法のアシストを受けての慣性力を使ったそれはそれは見事な背負い投げである。

首を支点に上下にひっくり返り地面に叩きつけられた。

反動で真上に100mほど吹っ飛んでしまったが、それも計算の内である。

そのまま<音速飛行>で下向きに一気に加速して体重を1000倍にする。

その際に一瞬だけ翼を広げてしまったが、わざわざ真上を見てる人もいないだろう。

両手両足を上下に開いてボディプレスの構え、本来の位置エネルギーも知った事かと過剰な威力で身体をドラムコングの腹に叩き付ける。

本来なら痛みのフィードバックを恐れて出来ないが、痛みの耐性で気にしなくてよくなったので思い切ったのだ。

当のドラムコングはというと……。

腹の部分で上半身と下半身がさようならしていた。

血糊(ちのり)で地面とボクの身体が汚れ、地面には蜘蛛の巣ひびのクレーターが出来上がっていた。


「うへぇぇえ、ベトベト」

「「「「「「………………」」」」」」

院長さん含め子供たちも状況が飲み込めず絶句している。

「あれ?やりすぎたかな??」

1体は腕が砕け失血で倒れている、これは院長さんが倒した個体だ。

1体は地面に頭を打ち付けて首から上が無い。

1体は首から上が千切れて遠くに転がっている。

1体は腹で上下に身体が分かれて地面にはクレーターが出来ている。

そして、院長さんが使っていた戦槌は粉々だ。

どう見てもただ少女もとい幼女の仕業には見えまい。


「おおおおい、無事かぁああ?」

遠くから衛兵さんがやってきた。

つい先ほどまで一緒にいた人だ。

「A級魔物のドラムコングが4体も孤児区に向かった聞いていたが」

そして、この惨状を見て絶句。

「あの……これ、アルマディアさんが……?」

「うん、そう!院長さんとっても強いんだね」

何事も無かったかのように院長さんがやったことにした。

「いや――?」

血糊?そんなもの注意が衛兵さんに逸れた時に綺麗にしましたとも。

「そうかそうか、アルマディアさんなら納得だわ」

「え、えぇええ、、ま、まぁあそう………ね?」

なんか歯切れが悪い気がするがステータスの高さから現役の頃はこんな程度のモンスターに遅れなど取らなかっただろう。

というか、あの猿、A級扱いなのか?

タフではあったけど邪狼よりもずっと弱かろう。

まぁとりあえず何か言いたそうな院長さんや子供たちの方を見て、人差し指で”秘密にしてね”をした。


挿絵(By みてみん)


この出来事が(のち)に、冒険者になる手助けになると知るのはしばらく後の話。





――

私はアルマディア、今は孤児院で衛兵になりたい子供たちの教育をしている。

今日は元ご貴族様の女の子がやってきた。

身形(みなり)はとても綺麗……家出をしてきたにしては綺麗すぎる。

一応子供達には受け入れられているみたい。


そんなところにスタンピードが来た。

スタンピードが来る事自体は日常(いつも)の事だけども普段よりも数が多かったらしい。

ドラムコングらしい気配があったので、自身の部屋から戦槌を久々に取り出して飛び出した。


やはりドラムコングだったか、子供たちを襲うのが見えたので舞い込んで交戦した。

現役の頃に比べてだいぶ衰退したもののドラムコング1体程度ならば……。

そう思っていたけど、思いの外に苦しい戦いとなった。

もし、私を無視して子供たちの方へ抜けられたら対処できなかったかもしれない。

そう思ってたらドラムコングが3体も来た、これは終わりかもしれない。


子供たちの方が騒がしい。

「あの3体はボクが倒そう」

は?

ミーティア?

そうして言葉の真意を確認しようと振り返ると――。

あれ?ミーティアは?

む?戦槌が消え――――。

『DOPAAAMMMBB』

え?ドラムコングの頭が消し飛んで……。

あれは……私の戦槌?

何で持てるの?

いや、そもそもこのわずかな時間でそんな遠くに――。

あっ危なっ―――。

『SZZZUUUPAAAAMMBB』

え?

頭―――転がって――――。

うおおおおドラムコングが引っくり返ってるぅうう。

『DDGGGOOOOHHH』

あれ?ミーティアはどこに――。

『』

血しぶき?

『――――――――――』

音が認識できないほどの衝撃音……。

一体何か………?


首から上が無いドラムコングが2体、胴が分かたれたドラムコングが1体。

私の戦槌はどこに――と見まわしてみると粉々になった残骸を見つけた。

これをあの子が?

あの綺麗な服も滑らかだった髪も血糊でベトベトになっている。

やはりミーティアがやったのね。


「おおおおい、無事かぁああ?」

む?ミーティアを連れてきた衛兵か。

「A級魔物のドラムコングが4体も孤児区に向かった聞いていたが」

そして、この惨状を見て絶句。

それもそうだろう。

この惨状はどう見ても人知を超えている。

A級のドラムコングを4体も、しかも1撃で仕留めるなど出来るのはS級冒険者でも数えるほどだ。

「あの……これ、アルマディアさんが……?」

いや、私なわけがあるかっ。

現役の全盛期でも、こんな短時間で倒せない。

「うん、そう!院長さんとっても強いんだね」

は?

あれ?

やったのお前だろう?

はっ、いつの間にか血糊が綺麗さっぱり消え去っている?

「いや――?」

私の訳がなかろう。

いや、この衛兵が今の状況を見てミーティアがやったとは考えまい。

子供たちの証言があっても信じないだろう。

「そうかそうか、アルマディアさんなら納得だわ」

そもそも、私の証言でさえ信じえない。

「え、えぇええ、、ま、まぁあそう………ね?」

とりあえず、今は誤魔化されることにした。

当のミーティアはこちらを見て人差し指で口先を隠し”秘密にしてね”の構えだ。

不思議と原理の解らない天使の梯子や羽が舞うように降り注ぐ様が見えた気がしたが……。


とりあえず、この衛兵が去った後にでも問い詰めてやろう。

そう決心した。

  名前:ミーティア

  年齢:5歳(60か月)

  称号:救世主、堕天の烙印

  人種:天使

  性別:女

  Lv:1/100  Exp:0/1000

  HP:1040/1040 MP:2200/2200

  STR:14

  VIT:12

  INT:620

  ARG:112

  DEX:311

  POW:178

  PHS:7

  APP:944

  LCK:14

  ユニークスキル:天衣無縫 聖女 成長強化 不老不死 天恵

  スキル:錬金術 合気 柔術 拳闘術 捨身術(new) 剣術 剣技

      槍術 槍技 杖術 体術 飛行闘術 スタミナ無尽 高速機動

      航空機動 音速飛行 身体強化魔法 魔力空間認知 聖力掌握

      クロック10000000 並列思考8

  Extra:コンソール レベルアップ ステータス獲得5倍 獲得経験値10倍

     ユニークスキルの知識 スキルの心得 世界の言語 絶対記憶

     不老 不死 神の贈り物 魔法の知識 邪神の知識

  耐性

      熱変動:S

      雷:S

      質量:S

      神聖:S

      暗黒:S

      力学:130 -20%

      状態異常:S

      疲労:S

      痛覚:S

      窒息:S

      騒音:S

      呪い:S

      封印:S

      結界:S

      魔暴走:S



 捨身術

   ダメージ覚悟の攻撃手段すべてでダメージ補正10倍

   習得条件:自身の攻撃の反動で90%のHPを失う




子供たち覚書

 メレーヌ

   一人称:あたし

   赤髪、1本おさげ、肩甲骨くらいの長さ

   快活

 オリーブ

   一人称:わたくし

   金ブロンド、根元で二つ結、腰の長さでストレート流し

   最も小柄、お姉ちゃん

 コレット

   一人称:あたい

   浅緑、ストレート、肘くらいの長さ

   エルフ

 エレナ

   一人称:わたし

   茶髪、肩口の長さ、黄色のリボンを右耳

   猫人、双子のしゃべる方

 ルリナ

   一人称:不明

   茶髪、肩口の長さ、青色のリボンを左耳

   猫人、双子の無口な方


院長さん

 アルマディア

   一人称:私

   白髪ウルフテール、大柄筋肉質

   戦槌使い、戦槌はミーティアが壊した




Tips:質量魔法

体積のある実体に作用する魔法。

()()はミーティアのみが扱うユニーク魔法。

体積があれば、土、金属、水、大気、生物にさえ作用できる。

ただし、発動には接触する必要がある。

消費魔力は作用する対象の『体積』に比例する。

元々の重さがいくら高かろうが、消費魔力は体積しか参照しない。


作用対象は下記である。

・質量:10倍、50倍、100倍、250倍、1000倍、10000倍と大雑把にしか

    変えられない低燃費版と具体的な倍率を制御できる高燃費版がある。

    低燃費版の計算式:F(V, a)=VxF(a) F(a)=2xb+5xc

    1000倍ならば、b=3、c=3でF(1000)=6+15=21倍となる。

    Vは1MP/1m3として計算する。

    高燃費版の計算式:F(V, a)=Vxa

    999倍ならば999倍、つまり1000倍との差は約48倍も異なる。

・粘性:対象の粘性を制御する。

    下げて抵抗を減らしたり、上げて抵抗を上げたりする。

    空気を足場のようにしたのは空気の粘性を上げて力を受けても発散し

    ないようにしたためである。

    武器の修理でも粘性を上げて亀裂で力が発散しないようにしていた。

    具体的な原理は統計力学の分野なので、詳細は半年ほどかけて勉強し

    てください。有限要素法とか粒子法とかSPHとか他他…………。

・摩擦:流動性が無い場合はこちら。

    まぁ滑らなくなったり滑るようになったりだけど、

    基本的には粘性の方で何とかなるから、あまり使われないかも。

・圧力:流動性がある場合に限り、密度を変えられる。

    空気を足場にした時にこちらも使って密度を上げていた。

    空気を足場にしたり、ただの空気を爆弾のようにしたり、空気を

    バリアにしたり、応用幅が広く色々できる。

    上手く制御すれば某ソ〇〇ソサ〇〇。の〇圧みたいなこともできます。

    もちろん具体的な原理は半年ほどの勉強を経ないと解らないかも………。

    なんなら、完全理解したら論文書けるし東大も(大げさな例え)受かる(じゃないよ)

・加速:加速度を与える。

    重力のような大雑把な空間作用を限定的な条件下でのみ扱える。

    条件は下記

     ・身体のいずれかと接触している、かつ、魔力的接続がある

     ・自身の体の体積よりも小さい事

・分子結合:原子力、磁力、ファンデルワールス(りょく)、イオン結合、

    電子結合など分子を構成する結合および関係性をいじれる。

    磁力、ファンデルワールス力、イオン結合あたりは燃費が良い。

    電子結合はまだ実用範囲の燃費、ただ聖力を用いた組み換えの方が

    原理も簡潔で効率が良い。

    原子力を扱うには現状では魔力が足りない。


まぁここまでの通り、水魔法、風魔法、土魔法で出来そうな事は大体できる。

できない事は水を新たに無から生成したり、風に斬撃の性質を与えたり、土を盛り上げて壁代わりにしたり、温度を変えられなかったり、自由な形のものを造形したり、手から離れた後で制御したり……。

後は魔力で抵抗されると作用しなかったりする。

便利なようでこれだけで何でも出来るというわけではないし、この魔法だけで圧倒的な戦闘力を得られるわけではない。

手元を離れると制御できなくなるので「あ、今の無し」が出来ない。どころか発動後に無暗に魔力を切ると暴走する。

ちなみに、自身の体にも作用させられるけども、何かにぶつかった際の身体を剪断しようとする力も質量相応になるので、使いどころを誤れば身体が千切れる。

情報量が多くなるので今のところはこれで許してください。

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