用が済めば……あ、処刑ですか?……追放ですか?……
追放回です。
生後5年になる1日前、私たちの世代の子供たちは名を授かる儀式のために転移ゲートのある都市への移動中である。
擬剣クレイモア、私の身長の2倍ほどもある両手剣である。
その大きな剣を腰だめに構え、横に薙ぎ払い道を塞ぐ邪狼どもを両断した。
「なんだか魔物がいつもより多い気がするなぁ」
そう言うのはお馴染み、メイガスさんである。
移動中、魔物に行く手を阻まれていた。
しかし数の多い事多い事。
「まるで待ち伏せでもされているみたいですね」
と私が一人言ちる。
「まぁまぁ良いじゃねぇか、愉快でよ」
「俺たちは精鋭だぜ?この程度で泣き言か?」
そう煽ってくるのはキイロ1・2である。
ちなみに彼らは2対1でメイガスさんを打ち負かせるだけの実力を持っている。
2対1だけどね。
だから。
「ほらほらそこ、調子乗らないの」
「おぁらああぁあ、っち、やっぱ雑魚だぜ?」
「ふっぬぅう、狼くらいじゃ俺たちの相手になりゃしない」
「そのくらいにしておけ、油断するなよ、どんな強者も死ぬ時は一瞬だぞ」
「メイガスさんに勝てる俺らがこいつらに劣るとでも?」
「ないない、メイガスさんが楽に倒せる相手ごときに俺らは負けないぜ」
メイガスさんに注意されても調子に乗るのを止めないキイロズども。
「おいキッズ、いい加減にしなさい」
「あ、こら、俺らの名前を略すんじゃねぇ」
「そうだそうだ、しかも意味は解らないが、すっげぇ馬鹿にされた気がする」
Kidsは発音は通るけど意味は通らない。
理屈は解らないけどスキルによる言語翻訳なしで発音だけ通してくれる。
いや、たぶんキイロの黄の部分だけ違う音になって伝わってるのかも?
まぁ都合の良いことだが、そういうものだという事にしよう。
「――――――」
「―――――」
「勝てるかどうかじゃないんだ、こうも戦いが多いと時間通りに着けるか怪しくなるんだ」
「なんだ、そういう事かよ」
「なら早くそう言えよ」
「はぁ、とりあえず走るペース上げるぞ」
「「「はい」」」
とりあえずメイガスさんに諭されてキッズどもは調子に乗るのは止めてくれた。
魔物が多いのは変わらないけど、妙に張り切ったキッズどものおかげで討伐ペースが早くなってて、予定より少しだけ遅れて転移ゲートの都市へ到着できた。
「やぁやぁ、いらっしゃい、ずいぶん遅かったねぇ」
何か含みのある言い方をされた気が……いや、気のせいかな。
「いつもより魔物の数が多くてね」
「そりゃご苦労さん」
出迎えてくれたのは白、いや銀かな、綺麗な光沢のある髪をオールバックにして三つ編みしている老人であった。
(見た目で年齢解らないから、口調で判断するしかないけど老人で良いよね?)
落ち着いた配色ではあるが、意匠が豪勢であり、かなり立場が高い事が理解させられる。
「さぁさぁ、疲れたろう、こちらへどうぞ」
そうして、奥へ手を伸ばし導く。
すぐに背を向け歩み進む彼を追うように私たちも歩き出した。
しばらく進むと大陸の端を通り過ぎて、通路の横の陸が無くなり地上へ続く穴が見えるようになった。
そこを興味本位で覗き込むようにしていると。
「ほらほら、落ちたら上がってこれないから気を付けなさい」
「ごめんなさい、ありがとうございます」
「いいんですよ、前にそうやって落ちた子がいたんでねぇ」
思い出したかのように飛べるかを試行してみて、1cmも浮き上がれない事を確認した私は。
「飛べないって本当だったんですね」
「なんだい、教育を疑っていたのかい?」
「いえいえ、でも自分で検証しないと信頼できない性分でして」
「はっはっは、若いねぇ」
見りゃ判るだろ、という突っ込みは飲み込む。
そうして都市の中央部へ到着した。
「儀式をするのは、この先じゃよ」
目の前にある円陣状の通路の内に浮遊する丸い板を指して言う。
すでに5人の子供が立って待っていた。
跳躍して渡るのかと思案していると、足元がにわかに光りだす。
そして、中央の板に向けて光の通路が伸びて行く。
どうやらこの光の上は歩けるみたいだ。
「それじゃぁ一人ずつ渡ってお行き」
その光の通路をキッズ二人が渡った。
そして、私が渡り始めて4歩ほどのところでふいに。
途端に感じる浮遊感。
咄嗟に<クロック>で時間を引き延ばし、思案する。
あれ?なんで?
いや、とにかく復帰しないと。
対岸にはまだ10歩分の距離がある。
手を伸ばしても届かないだろう。
振り返って後ろの床に掴まればまだ行ける。
「勘の良いガキは嫌いだよ」
は?
有名すぎるとあるフレーズが。
いやそうじゃない。
その言葉を言い放ったのはメイガスさんだった。
そして、床を掴もうと伸ばしていた手を剣で切り払われた。
「悪く思うな」
短く、それだけを告げられ。
老人やメイガスさん、子供たちに見下ろされながら地上へ向けて落ちて行った。
追放の理由は彼女には伝えられません。
天使という種族の女性の数に上限があり、上限に達している場合は女性が産まれない。
という仮説があり、それを検証するために女性を一人間引いた後の最初の誕生で女の子が産まれた。
つまり、女性数上限説が立証されてしまったが故に、聖水の採取ができなくなる年齢になる直前の、確実に処分できる場面で放り出されたという訳です。
欠損を回復できない天使にとって、唯一の回復手段である神霊薬の材料である聖水はそれだけ重要であり、倫理観を無視させるだけの理由となっているという訳です。