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友達になって

「関わらないでってどういう……」


 突然の言葉に、一気に周りが静かになった気がした。いや元々静かな屋上だけど、この静けさが真冬の吹雪みたいに凍てついてる気がして、嫌なほどしんとしてるんだ。


「そのままの意味よ」


「で、でもだとしたらなんで……?」


 私としては、彼女とは今日が初対面だけど仲良くなりたいと、今日一日学校を案内しながら思っていた。会話はあんまりできなかったけれど、一之瀬さんの秘密を知ったからこそ、手伝えることは手伝いたいし更に仲良くなりたい。だからこそ急に関わらないでと言われても、正直納得いかない。ちゃんとした理由がない限りは特に。


 だから私は理由を求め、応じてくれたのかゆっくりと体を起こして私と目が合った。ただその顔は一葉さんの雰囲気なんて一切感じない優しい顔で、でも申し訳なさそうに眉を下げて頭を搔いていた。


「――あっはは……ごめん。一葉、閉じこもっちゃった」


「え、あ、ああ……二葉さんか」


「うん」


「その、なんで一葉さんは、なんで関わらないでって」


 そこにいたのは二葉さん。やはり外見は一葉さんのままだけど一葉さんは隠れちゃったみたいだ。そんなに私と話すのが嫌だったのかな。でもなんでそんなに関わらないでほしいことにこだわるんだろう。


 その疑問に二葉さんはしっかり答えてくれた。


「そうだね……どこから話すべきかわからないんだけど……一葉は好きだった父親に虐待を受けて、私を作ったんだ。でも急な変化についてけなくて入れ替わりがころころ発生してた時学校では毎日いじめがあって、そのいじめっ子の中には親友や友達がいたんだ。それ以降かな、人を信じてもロクなことがないって言って私、二葉が学校生活を主に過ごすことになったの。だからっていじめはなくならないから転校してきたんだ。でも前みたいに人が違うといじめられるだろうし、私は一葉を演じることにしたの。ただね……」


 一之瀬さんの過去を聞いていると、言葉が詰まったように話が止まった。なにか意味があるような止め方で首を傾げてると、話の続きを始めた。でもその内容は笑って話すようなものじゃなくて、とても苦な話だった。


「私は……いつか一人になるの。一葉もわかってるから言うけど、近いうちに一葉は消えて私だけの人格になるんだ」


「え……」


「はは……これ初対面の人に言うものじゃないよね……でも、なんだろうね、私……二葉は君のことを信頼できる気がしたんだ。他の人とは違うなって思って」


 また苦笑いを浮かべて頬を掻く二葉さん。でも初対面なのにそこまで信用してくれてるのは凄く嬉しくてこっちまで恥ずかしいんだよなぁ。ただ二葉さんが信用してくれたとしても、一葉さんが消える事実は変わらないし、変えたくても一葉さんがあれだとなぁ。


「だから、まあ……一葉にいい思い出作ってほしいし、急だけど……と、友達になってください! ……だめ、かな?」


「い、いやまあ、いいけど……」


「やった! ってちょ、一葉そんなに怒らないでよぉ!」


 あんなことを言われたけど友達になるのは願ってもないことだ。だからその気持ちはもちろん受け取って差し出された手を取った。その瞬間、急に叫ぶ二葉さん。多分一葉さんが何か言ったんだろう。


「一葉さんはなんて?」


「勝手に決めないで、勝手に友達作らないでってさー、この恥ずかしがり屋さんめ」


「あはは……」


 話はまあ、あんなことを言うくらいだから相変わらずみたいなものだった。それに二葉さんはずっと一葉さんといたから同じ体とはいえ、二人のやり取りが夫婦漫才みたいに仲良く見える。なんというか羨ましい。あ、いや友達がいないってわけでも、家族と仲が悪いわけでもないけど。


「まあ、一葉のことは私に任せて。私としては君……いやこんな他人行儀だとあれだね……優ちゃんは信用できるからさ。だって昼の時に私が一葉を演じてるって聞いてもそこまで驚かないで、なんなら普通に接してくれたし」


「驚きはしたけど、別に接し方変えるまでもないでしょ」


「そういうところだよ……」


 ため息が聞こえたけど、一体何に対してのため息なんだろう。まあ気にしたところで教えてはくれないだろう、多分。


 なんて思ってるとスカートのポケットからスマホを取り出して、SNSのアカウントを見せてきた。


「せっかくだし連絡先交換しよう!」


「二葉さんの? 一葉さんの?」


「いや、流石に分けてないから、私たちのだよ……あとその、さんってつけるのやめてね! 友達なんだからさ!」


 まだ出会って一日なのに呼び捨ての仲って中々だなぁ。でも眩しいくらいの笑顔でそう言ってきた一之瀬さん……いや、二葉がそれでいいならいいか。


 私もスマホを取り出して画面を操作して二葉たちと私のアカウントを繋げた。


「うぇっへっへっへ……転校して初めての友達だぜぇ」


「うわなにその笑い方……ふふふ」


「よし、とりあえずメッセージ送るね」


 ああ……まあ初日だから仕方ないけど、その喜び方だと転校してからというより転校前から友達がいないのでは……もしそうなら、なんか私、二葉たちの特別って感じでいいな……。


 そう思われてるなんて知らないだろう二葉は軽快に端末を操作してメッセージを送ってきた。自分の端末を見てみればこう書いてあった。


【うぇーい! よろしくね! というか優ちゃんのアイコンゲームのキャラだよね! このキャラ好きなんだぁby二葉】


「いや、後半今言えばいいのでは」


「てへ?」


「てへってさあ……でもこのキャラ知ってる人初めてだよ」


 二葉がメッセージで言ってきたのは、私がやってるゲームのキャラクターのこと。ゲームは天使の輪みたいなものが頭の上にあって、銃でドンパチするゲーム。その中にいる黒い羽と赤のアクセントのある黒い制服が魅力的な、黒いショートカットヘアの少女のアイコンなんだ。


 SNSでも話題になってるゲームなのに私の周りでそれを知ってる人は少なくて、しっかり話せる人いなかったからわかってくれるって思うと凄く嬉しいな。


「……よし、連絡先交換したし、私は満足! 念のため一葉にはブロックとかさせないように厳しーく言っておくから!」


「そんなことしないでしょ多分」


「わからないよー? 一葉本当に人と関わるの苦手だから、やるかもしれないし……さて、それじゃあ帰ろー!」


 いちいち大げさなほど体を動かす二葉。全てにおいて正直な子犬を見ているみたいで可愛いし、さっき凄く暗い話をしていたからこの空気を和ませるような明るさが楽しいけど、一葉が消えるって話を聞いたからか無理に明るく振る舞っているように見えた。とはいえ聞いてもいつもこんなもんだよと誤魔化すように言葉を返してきたから、多分気のせいだ。

 

 と、思っていたけどその日の夜。メッセージがこう送られてきた。


【ねえ、優ちゃん。寝てたらごめんね。でも今、一葉は寝てるからちょうどいいと思って。昼に言えなかったんだけど……私はどうやったら一葉を助けてあげられるのかな……消えてほしくないよ……by二葉】

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