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一葉の嫉妬

「おはよう鹿野さん。パン食べながら走ったら怪我するわよ。死にたいならともかくだけど」


「ングッ……びっくりした……あ、おはよう……一葉?」


「確認するかのように疑問を持たないでくれるかしら。一葉よ」


 あれから一ヶ月ほど経った連休明け。私はまた寝坊をしてパンを片手に通学路を走っていた。途中信号に引っかかり残ってるパンを口の中に押し込んでると声をかけられた。振り返ると一葉と思わしき人が私を見ていた。それもめっちゃ冷めた目で。


 そういえば部活違うし一緒に帰ることなさすぎて忘れてたけど、通学路同じ道なんだっけ。


 にしても結構出会ってから日が経ったのに、連休とか挟むと一之瀬が一葉なのか二葉なのかわからなくなるんだよなぁ。でも私の疑うような言葉をもろともせずこの凛として涼しさすら置いていく冷たい言葉的に一葉だとは思うけど。そもそも二葉の演技力ではまだクオリティの高い演技はできないはずだし。


 本当に私もいつか吾妻さんみたいに見ただけでどっちかわかるようになりたいって今日この頃思う。


「二葉に用があったならもうしわけないわね。今日はちょっと寝付けが悪くていつもより遅く起きたから……あと二十分で二葉になるわ」


「いや、純粋に一葉なのかなって」


「まさか本当に確認してるなんて思ってもなかったわ。私たちにあんなこと言っておいて……いい加減見分けくらいつくようになったら?」


「うぐ……ごもっともです……それにしてもいつも規則正しい生活を送ってる一葉が遅く起きたなんて珍しいこともあるんだね。どうしたの? 何か悩み事? 話聞こか?」


「珍しいことに関しては鹿野さんもでしょう? あとさらっと話聞こかって言うのは信用すらできないのだけど。どこの下心有男よ気持ち悪い」


「てへ。じゃなくて、実際何かあったのかなとは心配してるんだよ?」

 

 いつもは老人が就寝するような時間帯に眠りについて、登校の二時間前には起きる規則正しい生活を過ごしてる一葉たちなんだけど、本人曰く、眠気が全く襲ってこないのだという。これが真夏とかだったらすっごく暑いしわかるんだけど……もしかして時間交代制になったのが原因なんじゃ?


 っていうか相変わらず一葉の言葉には棘があるなあ。まあ一葉らしいといえばらしいんだけど!


 そもそも下心があるなら、どしたん話聞こか? あーそれはそいつが悪いわ 俺ならそんな思いさせへんのに、今度何か食べに行こか、え、手出すわけないやん守ってあげたいし。までがテンプレでしょ! くう、我ながら解像度の高いくそ野郎の言葉にしびれるぜ……いやついこの間ネットで見つけたやつを言っただけなんだけどね。


「そういえばこの間、鹿野さんが帰った後だと思うのだけど二葉が謝ってきたり同じ体の中にいる私をライバルだとかノートに書いてたのだけど何か知ってる? ちゃんと話してくれないから話の全貌が見えてなくて今の今まで理解に困ってるの」


「ああ……いや、知ってるには知ってるんだけどぉ……」


「もったいぶらないでさっさと言ってくれる?」


「わ、わかった……でも驚かないでよ?」


 突然二葉の様子がおかしいって言ってきた。多分この前のが関係してるんだろうけど、その出来事について一葉には多分何も伝えてないんだろうと言葉から容易に推測できる。


 だからこそ二葉が私に恋をしたことを私から言ってもいいものなのか……悩んでしまう。だって意図的に隠しているかもしれないんだし、ちゃんとした説明は二葉がするべきだと思うんだ。


 とはいえこのまま引っ張ればいつまでも言わないような気がして、少しためらったけどこの間のことを伝えることにした。


「なるほどそういうことなのね」


「あれ、意外と驚かない?」


「別に。驚く要素ないでしょう? 2人が付き合おうがどうしようが知ったことじゃないもの」


「もしかして嫉妬――」


「は?」


「ナンデモアリマセン」


 二葉のことを話してからなんか更に冷たさが増したような気がする。まるで氷山にでも放り出された気分で体が震えちゃうよお! ってあほなこと思っている場合じゃない。多分そろそろ一葉から二葉に代わる時間なはずだ。


 念のため私は一葉から目を離さないようにしていると、突然一葉がぴたりと歩みを止めてしゃがみ込んだ。


 こんな入れ替わり直前に体調が悪化した!? それにまだ学校まで距離あるのにどうしよう……ええと110……は警察で、えーとえーと……。

 

「最近入れ替わりの反動で意識が朦朧する時があって念のためしゃがんでるだけだから大げさに救急車とか呼ばないで」


「ぇあ!? な、ならいいんだけど」


 慌てているのが伝わっちゃったのか、うずくまる一葉が釘を刺してきた。いや、入れ替わりで意識が朦朧してって初めて聞いたし、何も言わずにしゃがむから心配するのも当然なんだよ一葉ぁ!


 と突っ込む余裕すらなく彼女は立ち上がった。その顔は一瞬放心している様子だったけど、すぐに眠気覚ましのように顔を軽く叩いているということは。


「二葉……でいいのかな?」


「あ、久しぶり優ちゃん! 今日家族以外で初めて会う人が優ちゃんなんて、私ってば相当ついてる! いやよくよく考えれば……通学路一緒だから一葉が先に優ちゃんと話してた感じか、まあ仕方ないけどショック!」

 

 やっぱり二葉だった。


 なんというか、多重人格だからこそ仕方ないんだろうけど、一葉と二葉の正反対な感じのギャップが相変わらず凄い。二人の性格は180°違うから見ていて飽きない。でも極端な差がありすぎて風邪ひきそうだよ……。せめてギャップは90°くらいにしてよお……。


 それにあれ以来すっごくアピールしてくるんだけど、メタルメンタルかこいつ。


「意識が朦朧とする時があるって一葉言ってたけど大丈夫なの?」


「うん。まぁなんだろ……さっきもだけど寝起きみたいな感じだから朦朧とする時があるの。それで一回倒れかけて大変だったみたい」


「みたい?」


「あれ言ってなかったっけ。この状態になってから私たち記憶が共有じゃなくなったんだよ。実際入れ替わった直後に放心状態になる時あるし……それでそのまま倒れかけたってこと。以来立ってる時はしゃがむようにしてるの」


「そっか……いやぁ事前に知ってたら驚かなかったんだけど」


「あはは、確かに。言っておけば良かったね〜でも優ちゃんはちゃんとわかってくれてるから大丈夫でしょ?」


 時間制になったからこその苦難だろう。お互い自分の体だとはいえ入れ替わる時のことを考えて行動しなきゃいけないなんて2人の荷はかなり重そうだ。


 せめていくらかでも軽くさせてあげたらなって思うけど……今の私には支えることしかできない。


 だからって二葉の積極的なアプローチを受けるのは、一葉をそっちのけにしちゃうようなものだし、友達として受けれないんだけどね。

 

「そ、そろそろ学校つくし、他の人も増えるから」


「あ……ん゛ん゛……そうですね。ありがとうございます鹿野さん。私は先に行きますね」


 話題を逸らすように学校が目前であることを伝えると、拳を口元へと持ってって喉に悪そうな咳払いをして言った。一葉みたいにすんと落ち着いた顔をしてるからいわゆる『一葉モード』に早変わりしたのは間違いないんだけど、何度聴いても一葉が使わない敬語が目立ってるように思える。


 言うべきなんだろうなとは思うけど、必死に周囲を騙してるんだから指摘するのも……。


 そう悩んでるといつの間にか二葉は私から離れて歩いていた。


 一葉はいつも堅苦しい感じだから、誰かと共に登校する姿を想像できないし一葉になりきるのなら当然の行動ではあるのか。


 まぁ二葉は一葉と実質一心同体だから一葉のことを想像しなくても真似はできて当然だろうけど。


「……一葉は敬語使わないんだよなぁ」

お読みいただきありがとうございます!

これからどんどんと一葉の心が開かれてだんだんと優のことを好きになっていく予定です。でも一葉が心を開いて寄り添っていくと二葉の人格が消えてしまう……一葉と二葉の恋事情は前途多難になりますね……。

さて次回は学校の大きな行事である学校祭の準備と初日となります。

え? 日が飛びすぎだって? 準備期間ってそこまで重要じゃあないですから仕方ないです()

ということで次回もお楽しみに!

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