3-2.変わらないつながり
携帯電話が、読書灯の足下で震えた。なぜか画面を見る前から予期できた名前を確かめると、彼女はそれを耳元にあてがった。
――はい。
――美由紀?
――うん。
――今、いい?
――いいよ、何?
――あの……ごめん、さっきの。
――さっきって……ああ。別に、気にしなくていいって。ちょっとびっくりしたけど……ああいう意見もあるんだろうなって、今は思ってるから。
――違うよ、私だって、彼がそんな人じゃなくて、美由紀が言ってる通りの人だって知ってるのに、なんか……とにかく、ごめん。
――だから、別にそんなのいいのに。私も、美佳のことはちゃんと分かってる。こうして電話もらって、確かめられたしね。
――うん……ありがとう。
言葉が途切れると、美由紀はまた窓の外を見やった。暗い空と海が見え、どこかで虫が鳴き、そのずっと向こうから波の音が聞こえてきた。左手の下からは自分のものではない脈動が感じ取れるような気がして、右手の方は、長い時間を一緒に過ごしてきた心につながっているように思えた。
――私、たぶん……彼に、嫉妬してるんだと思う。
――嫉妬、かあ……美佳は純くんよりも、私との付き合いが長いもんね。
――子供みたいだよね、私……
――そう? 美佳は美佳だから。それに、変わってなくて、いいと思うけどな。私の好きな、美佳のままで。あー、そうだ。また、昔みたいにしてみてもいいよ。キャッチボールとか……えへっ、キスとか。
――馬鹿じゃないの、できるわけないでしょ……身重の人妻に。
――あはは、まあ、確かにそうだね。でも、私の気持ちも変わってないと思うよ。美佳のこと、ずっと大好きだから。
――そういうのは、彼に言ってあげなよ……じゃあね。急に、ごめん。
――全然。話せて、嬉しかったし。ありがとう。またどこか行こうよ、何か食べにとか。うん、そんじゃね。お休み……ああ、そうそう、良い夢を。
通話を切ると、彼女はまた静かな空間に戻る。目には暗い空と海が映り、口には、最後に発した言葉の舌触りが、妙にはっきりと残っていた。ずっと以前、彼女がその親友との別れ際に交わしていた挨拶だった。今ではそれも、ただ子供じみて気取った、気恥ずかしく思えるだけのものになっていた。しかしその言葉を昔と同じ相手に向けられて、彼女は嬉しくも感じていた。