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海の向こうへ、海の向こうから  作者: 入江晶
2.旧友――今と昔
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2-3.今を過ごす

 ――だけど……彼、向こうに残して来るって、よく決めたよね。

 ――やっぱり、こうした方が安全だろうって。純くんがどうしても、仕事で遅くなりがちだから。仕方ないと思うよ。

 ――離れるのって、美由紀が大学に行った年以来じゃないの? 純くん寂しがってるでしょ、絶対。

 ――まあ、そうかもね。だけど、二人で決めたことだから。

 ――でも……案外、美由紀がいなくて、彼も気楽に思ってるんじゃないの。そういう話、見たことあるし。

 ――そうなの?

 ――そんな感じの話とか、ネットであちこちに出てて、目についちゃうから。

 ――そうなんだ。私、そういうのあんまり見ないんだよね。なんか、怖くて。

 ――へえ、なんか、純朴な人だねー。昔のまんま。まあでも、純くんなら、そういう気持ちには全然ならなそうだけどね。むしろ、余計なことまですごく心配してそう。

 ――そうそう、来るときも大変だった。

 ――何? 泣いちゃったとか?

 ――そこまでは行かないけど、その寸前だったんじゃないかな。それに、私がいない間の、家のこととかお金のこととか、こんなに必要かなって思うくらい細かく話し合ったし。別にそんなに心配いらないって言っても、なかなか納得してくれなくて。

 ――そんなに彼に頼られてたの?

 ――いや、そうでもなくて。だから、私がいなくても大丈夫だよって言ったんだけど。

 ――彼は、それで?

 ――いない間の心配はしなくていいって、すごく言ってた。でも、全然説得力ないよね。むしろ余計に不安になっちゃったよ。

 ――無理してるのかもね。ていうか、絶対してるでしょ、純くん。

 ――たぶん。だけどやっぱり、お互いのためだよねってことで納得してくれたし、私もそう思うことにした。

 ――でも、彼がいつも仕事で遅いんなら、戻ってからは大丈夫なの?

 ――うん、育休はちゃんと取れるみたいだし、手伝うって言ってくれてるよ。

 ――手伝うって、それ……基本、美由紀に任せるつもりってことじゃないの。

 ――そうしてほしいみたいだからね。できれば仕事も辞めて、子供の方に専念してほしいって言われてるし。

 ――へえ、実際そうするの?

 ――まだ考えてる。辞めるまで行かなくても、家でやれるような案件を事務所に紹介してもらうってのも出来そうだから、そういう方法で仕事続けるっていうのも、あるのかなとは思ってるけど。

 ――なるほどねぇ。でも、なんか意外だな。純くんが、そういうこと求めるって。美由紀にだって、今も気を遣って、あんまり要望とか言わないイメージだったけど。

 ――あはは、まさにそんな感じ。優しいのはよく分かるけど、別に、もっと遠慮せずにしてくれていいのにね。まあ、やっぱり育児が大変だって思ってるみたいでさ。実際大変なんだろうけど。だから、どっちかはできるだけ、時間を使えるようにするのがいいんじゃないかって。で、今の仕事は残業代とかの分もあるし、純くんの方がこのまま続けるのが良さそうだから、ってさ。まあ理屈はそういうことなんだけど、一番は、私に気を遣ってるんだと思うよ。仕事の話も、結局ね。

 ――違うでしょ。彼、押しつけたいだけなんじゃないの。

 ――うん? いや……えーっと……そう?

 ――美由紀が家にいるようになったら、今彼がやってる家事だって、やってくれってなるでしょ。そしたら、やりたい仕事もできなくなるよ。先のことだって分からないし。

 ――あー……そうかもしれないけど、でもなあ……

 ――少しは、疑ってみてもいいんじゃないの? 相手にそんなふうにしてほしいって人、まだ今も多いみたいだし。彼も、そういう自分の考えを、良く見せようとしてるだけかもしれないんだから。

 ――そうかなあ……言ってることは分かるけど……

 ――まあまあ、私たちが口を挟むことでもないでしょ。二人の問題ってやつだし。

 ――いや、私が言ってるのは、今の……

 ――別に、まだ決めなくてもいいじゃん。時間あるんだし、こっちでのんびりしてる間に、よく考えてみれば。それに、美由紀と純くんなら、きっと、どうしたってうまく行くでしょ。

 ――そう……かもね。

 ――ああ、そうそう、忘れてた。役場からってことで、宣伝させてよ。えーっと……はいこれ。

 ――何これ? 博物館?

 ――まあそんな感じ。島の南の方にあった遺跡が発掘されて、出てきたものが最近公開されたんだよ。

 ――え? そんなのあった? 最近見つかった感じ?

 ――展示は最近からなんだけど、遺跡はもっと昔に……

 ――……

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