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Episode16 血戦の刻、来たれり。

『―――あっちだ! 私の予測だと、あっちに会長がいる! ついでに―――ウボ=サスラもだ!』

 智香の『疑似思念会話(エルザッツテレパシー)』を通したナビゲーションに従い、私と姫様、ゆうかりんは指定された方向へ向かっていた。向かう先は、会長の居場所。失踪した会長を捜し―――はるばるこんな所まで来たのだ。

 場所は、本州最北にある都道府県―――青森。……しかも、私の生家があった所だという。母さんに「行ってくる」という趣旨を伝えた時、場所を聞かれて、ここを答えたら―――という経緯である。そして、そこに会長がいる。なおかつウボ=サスラもいるということは―――そこから導き出される答えは一つしかない―――そこで、戦っているということである。

 確かに、そこへ近づくほどに衝突音が聞こえてくる。瓦礫と瓦礫がぶつかり合う音。何かが高威力で爆発する音。そして―――もう少しと考えられるその時、確かに聞こえた。

「私は、空海無垢美! この“世界”を、無限の神から守るもの! その無限の片割れにして、虚空を操る原初の神なり! “世界”よ、どうかご照覧あれ! これが、今からあなた方を守る守護神の―――否、“世界の守護者”の活躍なり!」

 会長の、

「この宇宙(そら)は、(アイン)無限(アインソフ)無限と無の真理(アイン・ソフ・オウル)より開闢(ひらか)される。智慧(ちえ)を築きし霊長は、ただ自らの繁栄を望む! この霊長の意を聞き届け給え、聖なる“世界”よ! 我が力と我が生命(いのち)(にえ)に捧げる。どうか、この“世界”を救い給え! ―――心象風景『夢幻の万魔殿(パンデモニウム)』!」

 全てを捧げる旨の、最期の叫びが。

 その時はまだ、会長が負けるなんて、一ミリも思っていなかった。否、思えなかった。なぜなら、あの人が私達における最高到達点の一つだったのだから。……だが、結果は無情であった。突然に響き渡る音。ガラスが割れたような、あまりにも無感情で機械的な音が聞こえた。その音を、私は知っている。この二人も、もしかしたら知っているかもしれない。それは―――心象風景が、砕け散る時の、自分の“世界”が破壊される時の音である。

 そして、すぐにまた聞こえた。凛とした、幼女の声が。

「心象風景―――『無限(オメガ)()偽善院(アレフ・ヌル)』!」

 その時になって、私達はまずいと思い、速度を上げて向かった。しかし―――そこにあるのは、更地と……幼女だけであった。瓦礫の山さえも見る影がないその更地には、辛うじて何かが爆散したと取れるような巨大なクレーターが一つ。その上に、彼女―――ウボ=サスラは立っていた。

 ウボ=サスラは、こちらの気配に気づいたのか、振り返らずに言葉を漏らす。

「あら? 遅かったですわね。もう心配はいりませんわ」

 ……どういう意味だ? と聞き返す。すると、ウボ=サスラはこう答える。

「そのままの意味ですわ。―――もう、ちまちまと無駄に殺す必要はない、と言っているのです」

 そう言うと、ウボ=サスラはくるり、とこちらを振り返る。そこには―――血に塗れた、白い肌の幼女の姿が。しかし、顔がオカシイ。この前見た天遥の顔ではなく―――その天遥と会長を足して二で割ったような、そんな顔をしていた。そこで、私は―――私の『暴食の完全予測インテリジェンス・グーラ』は、恐ろしい、一つの可能性をはじき出した。それは、当然考えられないことで、いくらなんでもほぼ的中率一〇〇パーセントを誇るこの『暴食の完全予測インテリジェンス・グーラ』でさえも、それは絶対にあってはならないことであった。

 それは―――もうすでに、会長は敗北しており、その敗北した会長の身体の一部を、ウボ=サスラが取り込んでしまったのではないか? ということである。そう考えると、ウボ=サスラの口の周りにべったりとついている血についても説明はつくが―――そんなことは、到底ありえない。否、あってはならないのである。それは、同時に人類の終わりを意味するからで―――。ウボ=サスラが究極体になってしまった時。それは恐らく片割れと言っていたアザトース―――つまり会長を取り込む時であり、ウボ=サスラとアザトースが一体になることによって、別の究極の生物が現れる、ということではなかろうか。その予想を裏付けるかのように、ウボ=サスラは言う。

「これで、もう、私は完全なる生命です。“虚無”と“無限”。その両極―――矛盾しつつも互いに必要不可欠な要素である『両義』を体現した私は―――今やもう、その『両義』さえも超越した! 私は―――最早『太極』というしかないでしょう!」

 私は、その時に、やっと気づいてしまった。―――本当に、会長は死んだのだと。

 そう思うと、身体は勝手に飛び出していった。

「おい、慧宙! 待て!」

「何してんだ、慧宙さん!」

 二人が静止していることにふと気づくと、そのときにはもう、ウボ=サスラの眼の前であり―――無意識下で拳を握っていた。

 瞬間、私の無意識で放った全力の右ストレートがウボ=サスラの顔面を襲う。そして……またしても、自分らしからぬことを右ストレートとともに口走っていた。

「―――やっと……二人のかたきを討つ時が来た。―――血戦の刻は、今、ここに!」

先日は、ありがとうございました。

多くの人に無垢美の勇姿を見ていただいて。

あの人の活躍をもう見られないのは残念ですが、今後ともよろしくお願いします。

以上、カンリニンからでした。

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