Episode15 双星、乖離の杯⑤
禍々しく光り輝く王冠と、栄華を極めし、だがしかし没落も極めし両極を司っているような混沌に濁りきった濁流を連想させる濃密な“闇”を主な色彩として纏っている外套を、まるでその者のためのみ存在してるかのように完全に着こなしている女性は、空海無垢美である。そのオーラは先程までの無垢美とは違い、本当に全てを率いる原初の一。全ての邪神を支配する、王の風格であった。
その姿を見て、ウボ=サスラは驚嘆する。―――目覚めた、私の片割れが、と。しかし、そのような感動は束の間の幻想に過ぎなかった。ウボ=サスラが勝手に感動してる姿を見て、無垢美はすっと、その感動すら無に返そうとするかのようにごくごく自然に指を構えた。そして、言う。
「“想像力”―――『邪神・祖虚空』―――」
―――虚無一式『それは、総てを餐む』。
それは、完全なる特異な点。この宇宙に存在する、おおよそヒトが観測できる究極にして最後、また不完全にして最初の特異点―――無限の重力を帯びし、光すらも脱出が不可能な夢幻の刻が流れる空間であるブラックホール内に存在すると、まことしやかに囁かれる存在―――特異点を現実世界に持ってくる。それが、虚無一式『それは、総てを餐む』である。しかも、こいつはウボ=サスラの持つ“想像力”―――正確に言えば、彼女自身である『邪神・祖無限』の中に内包されている無限三式通常数式『無限級数・収束』を破壊の力に特化させたようなモノであるため、周りのものを吸収する、という特性もある。
その光景に、ウボ=サスラは言う。
「またしてもこんな……なんて、デタラメな奴なんですの……。その技は、私の権能のはず―――」
「知りたいか? 何故私が、貴様の技を使えているのか。その答えは実にシンプル、簡単な話だ。―――この『邪神・祖虚空』に起因する“虚無”という概念と貴様の『邪神・祖無限』に起因する“無限”という概念は、一つであると認識したからだ。と、言うかほとんど同じなようなものだ。
数字の円環はゼロから始まり、無限大で終局を迎える。そして円環だからまたしてもゼロからスタートする。それを無限に繰り返す。ほら、ゼロと無限大はスタートとゴールの関係性じゃない。始点と始点、どちらも同じモノだ。よって―――貴様の“無限”と私の“虚無”は概念的には同一の存在だと定義づけたわけだ。どうだ、これで納得したか?」
そう言っている間にも、虚無一式『それは、総てを餐む』は周りのモノを吸い込み、“世界”すらも、その内部から崩壊させようとしているようであった。その光景を目の当たりにした『天からの懲罰は鎖』は、すぐさまそれを停止させようとしたのだが、それを遂行するには、あまりにも虚無一式『それは、総てを餐む』の力は強すぎた。“世界”をも飲み込まんとするほどの力の渦。その力の渦に触れてしまった『天からの懲罰は鎖』はその先端が砕け散った。よって、これ以上の活動は『天からの懲罰は鎖』自身の崩壊につながると決定し、『天からの懲罰は鎖』は撤退した。
「な……まさか『天からの懲罰は鎖』が……この“世界”で一番全てを食い止めることに長けた抑止の鎖が―――砕け散ったですって!?」
クッ、と奥歯を噛み締め、無垢美の方を向く。そして―――
「天罰を喰らいなさい! “想像力”―――『邪神・祖無限』―――」
―――無限四式『無限遠点・全ては一塊なり』
ウボ=サスラの視点を中心とした視界内にいるものを無条件で一つの物体に圧縮しようとする力の津波。その力は三百六十度全方位から押し寄せ―――無垢美を囲む。それによって一つの物体になり、多大な密度を誇る一つのナニカが無垢美に接触―――起爆する。
「な―――ッ!」
その光景に絶句するしかない無垢美は、とっさの判断で虚空をそこら中に展開し、なんとか致命傷は避けた。が、それでも威力を完全に無効化することは叶わず、重度のやけどを負う。
ふらふらと、おぼつかない足取りでウボ=サスラへ近づく。
(こうなれば―――最後の手段しかない)
無垢美は意を決してウボ=サスラへ言い放つ。その痛む身体にムチを打ち、圧倒的な声量で―――今。
「私は、空海無垢美! この“世界”を、無限の神から守るもの! その無限の片割れにして、虚空を操る原初の神なり! “世界”よ、どうかご照覧あれ! これが、今からあなた方を守る守護神の―――否、“世界の守護者”の活躍なり!」
空は唸らない。地は裂けない。雨風は轟かない。全てが―――無反応。だが、それで良い。それこそが、この“世界”が“世界の守護者”として認めた合図なのだから。
無垢美は、最後の力を振り絞り、叫ぶ。
「この宇宙は、無、無限、無限と無の真理より開闢される。智慧を築きし霊長は、ただ自らの繁栄を望む! この霊長の意を聞き届け給え、聖なる“世界”よ! 我が力と我が生命を贄に捧げる。どうか、この“世界”を救い給え! ―――心象風景『夢幻の万魔殿』!」
仰々しい祝詞とともに、新たなる“世界”が切り開かれた―――。




