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Episode15 双星、乖離の杯③

「―――さあ、まだまだだ。貴様が耐えられる最高威力まで行ってやろう!」

 この無垢美は、今は最早神の(ごと)く。試練を与え、絶対にその試練を破れないようにするこの領域における絶対の支配者。だが―――無垢美は、内心焦りを感じている。その理由は、この心象風景の崩壊にある。

(今はまだ保っていられるが……。そろそろ心象風景の崩壊が始まる! それもそのはずだ。何せ―――もう十数分も心象風景を顕現させているのだから。そろそろ“世界”もしびれを切らしてこの心象風景という単独で存在している“世界”の存在を脅かす世界を、容赦なく潰しにかかってくるだろう。そうなれば、私の負け―――つまり、後をあの子達に託すしか道がなくなる!)

 今考えられる最大の出力を有する技を放とうとする。それは、もうこの“世界”の常識を完全に無視していて―――あの懲罰を、受けなければならなかった。

 ジャラジャラと、心象風景の外殻を貫いて入ってきたのは―――

「あれは……」

「『天からの懲罰は鎖(エンキドゥ)』! この“世界”と現実を守りし守護の鎖!」

 “世界”を守る鎖の一本である『天からの懲罰は鎖(エンキドゥ)』であった。その『天からの懲罰は鎖(エンキドゥ)』は、軌道を変えて―――無垢美の手に巻き付いた。瞬間、手に力が入らなくなる。この“世界”が滅ぼす者であるウボ=サスラを純然な“世界の守護者”たる天遥と誤認して、“世界の守護者”を殺そうとする反逆者に罰を与えようとしたのだろう。それは結果として―――状況を逆転させた。

 『天からの懲罰は鎖(エンキドゥ)』が入ってきた穴から、小さな綻びが生じ始めている。心象風景は、主人の心の内側であるため、内部では圧倒的な強固さを誇る。外殻も、勿論同様なのだが―――外殻は、どちらかと言うとドレスである。心を着飾るための、虚飾。それはあくまでも“虚”なので内部とは強固さに雲泥の差が生じてしまう。しかも相手はこの“世界”の創造物。この“世界”に存在する全てのものに対しての優位性が大いに発揮される。

 急速に崩壊する心象風景。儚く散りゆくその有り様は、花の一生を彷彿とさせる。パラパラと、崩壊した塵は花びらのように鼻に乗っかる。しかし、その塵さえも、跡形もなく光の粒子となって消えてしまった。それを見て、ウボ=サスラはここぞとばかりに笑う。

「うっふふふふふ! 良い様ですわねぇ、アザトース。早く一体にならないバチがあったたのですわよ。……今、私、とても気分がいいんですの。そうだわ! 貴女にこれを見せなきゃ、って思っていましたのよ!」

 そう言って、ウボ=サスラは何かを取り出す。それは、ボウリングボール大の歪な形をした球体で―――とても見覚えのある物体であった。色は青白く、生気がない。目に光などなく、それはただ眼の前に広がる景色を輝きを無視して反射するばかり。強者における死の象徴―――それが、今目の前にあった。しかも、その人物は―――

「師匠……サマ?」

「そう! 貴女が唯一この世界で敬意を払う存在―――『師』である私の生みの親……ラヴクラフトを、私は討ち取ったのですわ! ……でも、この首も邪魔ですし、もういりませんわ」

 ウボ=サスラは、その首を容赦なく潰す。僅かに留まっていた血液さえ、外気中に溢れ出し、大いなる知恵が詰まっていたであろうその脳髄(のうずい)は、粉々に砕かれた。その時、その光景を目の当たりにした無垢美は、ショックのあまり嘔吐した。胃の中に入っていたもののみならず、胃液―――ひいては血液さえも、自らの師と同じ様に外気中へこぼした。一通り吐き終えた後、無垢美はウボ=サスラを恨み、怨恨が詰まった目で睨みつける。

「私を、どこまでも……コケにしやがって……!」

 その目は遠く、近い神をまっすぐと睨みつけていた。

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