表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/76

Episode13:Chapter5 霊の戦い・第五節―――夢の終わり、それは現実の始まり⑨

「おい! 慧宙!」

 声の方向を向き、迫りくるアメーバ状の巨大生物を“呪啜剃刀”妖魔封印刀・蠅(バアル=ゼブブ)で切り裂く。消滅したアメーバ状の巨大生物のすぐ後ろを見てみれば、まさかの人物の姿が見えた。その数―――二人。その名は―――


「大丈夫か! 我が将来の花嫁よ!」


「危なかったな。もし私が来ていなければ、あそこで死んでいたかもしれないぞ! 私と婚約すべきではないか?! 一生、慧宙。君のことを守り続けると、誓おうではないか!」


 ―――いつもの、二人。斎藤炎楽と、魁狛不止であった。いつもならば、ウザったるいだけの二人だが―――今、私の心に安寧(あんねい)をくれたのは、事実である。何故、こうもこの者達が、安心できるのだろうか。私は、失った父さんの代わりに、父性でも求めているというのだろうか。

 だが、その思考は、すぐに無駄であったと気づく。私が、彼らに安心した理由。それは―――私も、彼らのことを、愛し、慈しんでいたからである。

 荒んだ心が、一気に輝きを取り戻していく。この手に持つ得物―――“呪啜剃刀”妖魔封印刀・蠅(バアル=ゼブブ)から、消えてしまったような、私の半身を失ってしまったかのような、そんな感じのする出来事や、自らの手で父さんを殺してしまったという事実でボロボロに荒れていたココロが―――。ああ、愛というのは、これほどまでに人の心を動かすのだと。

 ショックで朦朧としていた意識が、その霧が、モヤが晴れる。私は、気づく。―――私が、一番この戦いを、本能でやっていたではないか。力に、酔いしれていたではないか。……一番、この戦いの意味をなくしていたではないか。

 そして、私は二人に応えてやる。

 ただ、私を深い水底から掬い上げた礼として。いつもの口調で、こう叫んだ。

「バカめ! 私は、お前達の花嫁じゃない!」

 その言葉を聞いた二人は、顔を見合わせ、フッと軽く笑う。

「それでこそ」

「私の」「我の」

『花嫁だ!』

 手に握るナイフに力が入る。しかし、今度は明確な力である。―――この戦いを、終わらせるという堅い意思の、力である。

 足に、力を込める。地面を蹴り上げ、走る。真っ先に抵抗できないような、弱き人の(もと)へ。そうして、ナイフを振るう。それは確かに、ただの斬撃ではなかった。まるで、ナイフの斬撃そのものが、私の思いであるが様に―――。

 心の奥底で目覚める鼓動。その鼓動は、やがて大きな一つの球体となる。全てが、愛おしく見えてしょうがない。それを脅かすこのアメーバ状の巨大生物は、速やかに駆逐しなければならない異物である。そう思った時、“世界”は染め上げられる。


「―――妖しき者よ、(イクイ・ドロシュ・)すぐに去れ(オドフクロンク)―――! 心象風景―――『影の裏の“かなしき女王(スカアハ)”』!」


 それは、ケルト神話における影の国の女王の名を冠する心象風景。私の、心の内側。さっき見た、あの道を―――その後に広がる、私の負の影。その姿は、ヒキガエルのような、ナマケモノのような、しかし美しい女性のような―――。そのような姿をしていた。その者が、大きいひと声を上げる。


『去れ! 小さき、弱きものよ! 我はフジウルクォイグムンズハー。全てにおいての富と食を喰らう悪食の王にして、ツァトーグァの親族なり! 我に逆らうものには、それ相応の罰が下ると知れ!』


 玉座に座ったまま、そのフジウルクォイグムンズハーは警告する。「去れ」と。これは、恐らくこの世から去れ、という意味だろう。つまり、「死ね」ということだ。

 しかし、そのアメーバ状の巨大生物は、言葉がわからない。ゼロの知恵しか持ち合わせておらず、それは本能と呼ばれるもの。よって、あらゆる言語能力は消し去られ、理解することなど到底不可能である。警告されているとも知らないアメーバ状の巨大生物は、無謀にもフジウルクォイグムンズハーに立ち向かう。だが、そんなモノを良しとする訳がなく、アメーバ状の巨大生物は一瞬にしてその体内に保有するエネルギーを搾取されてしまった。

 神による、神の大量虐殺。

 それは、神話でしか聞いたことのないような話である。この心象風景の持ち主である私だからこそ分かることだが、このフジウルクォイグムンズハーは、他の生物を糧として生きることを非常に嫌う。よって、人間などは、食わないのである。しかし、このフジウルクォイグムンズハー、アメーバ状の巨大生物にとって最も厄介な習性を持つ。

 それは―――液体金属からエネルギーを接種する、というモノである。菜食主義者、かつ他の生物を糧とするのを嫌うのならば、いっそのこともう、生物以外からエネルギーを接種するほうが簡単なのではないかと気づいた結果らしい。

 そうこうしているうちに、心象風景内のアメーバ状の巨大生物が狩り尽くされてしまった。跡形もなく、ただ、そこには何もなかったかのように。心象風景が、上から崩れ去る。―――やはり、心象風景が消えるときは、このようにして欠片となって堕ちるのだろう。それが、とても綺麗で―――悲しかった。


 ―――現実世界。

 ドーム内にいた全ての敵は殲滅され、今回の事件は終了した。だがしかし、依然として未だウボ=サスラは世界中で大量虐殺を繰り返している、とのことである。この事件の後、ライブイベントは中断。私以外のキュグデメンバー・ホリセブメンバーは意識不明の重体。中でも、特筆すべきなのは、キュグデの姫様とゆうかりんとホリセブメンバーの状態だろう。

 一言で言えば、“想像力”の暴走。その後遺症として、今は病院にて治療を行っている。他のメンバーはと言うと、さほどかわりはなく。しかし、念のためとしてこちらも病院内にて治療を行っている。

 だが……それでも、拭いきれぬ犠牲はあった。

 父さん、そして遺体が発見された社長。―――ライブに来ていたお客さん。彼らは、ただ私達のライブを見に来ただけなのに、無関係なのに、殺された。

 そして、ウボ=サスラは未だ大量虐殺を繰り返している、と語った通り、今では、その事件が名称もつけられ連日報道されている。

 その名は―――事件・「神、虐殺の理を得る(セカンド・ステージ)」。

これにて美徳編完結! いよいよ最終章です!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ