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Episode13:Chapter5 霊の戦い・第五節―――夢の終わり、それは現実の始まり⑦

「―――さあ行くぞ、“呪啜剃刀”妖魔封印刀・蠅(バアル=ゼブブ)

 ―――この戦いに意味を持たせる。

 今のこの戦いは、全てが無駄である。ただ己の欲を満たすために殺し、ただ眼の前をキレイにするためにアメーバ状の巨大生物を消す。ソレは全てが―――無駄である。だから、私が意味を持たせる。この人々を、アメーバ状の巨大生物から守るという、大義名分を。

 今回の行動は、自分でも自分らしくないと思う。私も、どちらかと言うと無駄な方である。ただ己の欲を満たすために、あらゆる事をする。それ以外には、あまり関心はない。だけれども、今、この戦いで学んだ。自己流の大義名分における、あらゆる行為の正当化を。

 そして、叫ぶ。私の―――私の“想像力”の本当の名を。自分との競争を経て、至った最後の(てつ)―――〈ファイナルフェーズ〉の、圧倒的な力を。

「“想像力”『化身・暴食(ベルゼビュート)』―――真の名を明かす(トゥルー・ネーム)……『邪神・悪食(ツァトーグア)』!」

 私の手に握られている“呪啜剃刀”妖魔封印刀・蠅(バアル=ゼブブ)から流れ込む力の奔流(ほんりゅう)。それは、体を蝕むことはなく、ただただ―――力があることが心地良い。いや、もしかすると、この心地良さが、もうこの力に堕ちている、という証拠なのかもしれないが。

 しかし、そんなことはどうでも良い。有り余る力―――その全て。ここで出すと決めた時、私はすでにナイフを振るっていた。斬ると同時に、溶けて金属製の液体へと成り下がり、輝きを失うアメーバ状の巨大生物。それが、なんともまぁ無様に見え、愉快であった。私にも、外宇宙から見下ろす者(アウトサイダー)としての視点が備わってしまったのだろうか。あらゆる生物の堕落が、一番の娯楽である。

 だがしかし、それでも私は目的を見失わない。この戦いに意味を持たせると決めたのだ。愉悦に身を任せてみるのも一興だとは思うが……それは、単なる醜悪な獣共と何ら変わらない。私は、そうさせないために力を得たのだ。

 ……心の何処かで、薄々気づいていたのだ。この時点で、力への陶酔を止めれば、どれほど良かったことか―――と、悔やんだ。

 ナイフを振るう。それは的確にアメーバ状の巨大生物の急所を突く。それ故、今の私には傷一つなく、圧倒的な全能感に満ち溢れていた。(おご)り―――それは、人の持つ七つの大罪の一番重い罪。その対価が払われるように、後ろからアメーバ状の巨大生物が襲いかかる。それに気づけど、少し遅かった。無駄にでかい図体が私に覆いかぶさろうと―――否、捕食しようと向かってくる。

 まずい、食われる―――。そう思い、ナイフを振るった瞬間であった。

 黄が、見えた。ちらりと見えた。斬った手応えは、ぐしゃり、……まるで肉、断ったかのよう、手応えであった。刃には、赤い液体、見えている。背中だ。見えたのは、男、背中であった。今まで幾度見た、ことだろうか。黄色いローブ、を、身に着けている姿が、印象的で、あった、あの、男、の、姿を、忘れるはずが、あるまい。さあ、叫べ。その男、は―――

「父さんッ!」

 斬ったのは、アメーバ状の巨大生物ではなかった。実の父であった。私が襲われそうになっているところを、間一髪で助けた。しかし、反応する速度が遅かったために、私が飛び込んだところを斬ってしまったのだ。「傲慢の罪(プライド)」―――その言葉が脳裏によぎる。

「父さんッ! 父さんッ! ―――父さんッ!」

 ああ、叫ぶ赤子は誰だろう。まるで他人事のように、思えるほどであった。それほどまでに、ショックだったのだ。肉親を、自らの手で殺すのは。

 ふと、『化身・暴食(ベルゼビュート)』を発動してみる。喰らうは過去、これが起きたという事実全て。―――だがしかし、そんな都合の良いものはない。そんなもの、世界を変えない限り、過去は変わらない、と言っても過言ではない。

 一人、重傷の父を見ている赤子に向け、その父は語った。

「大丈夫、かい……? 怪我は……ッ、ないかい?」

「父さん……」

 彼のほうがもっと痛いはずなのに。傷は痛むだろう。意識は離れそうだろう。それなのに、彼は赤子へ話しかける。

「……罪悪感は、あるかい?」

「……はい」

 その回答を聞くと、彼は満足そうに頷いた。

「最期に一つ。僕も……もう長くない。恐らく、あと数分もあれば死ぬだろう。だからね、慧宙。一つだけ言わせて欲しい」

 少しばかりの沈黙を挟んで、彼は言う。

「罪の意識というのは、自らの存在証明だ。私は、僕はここにいるぞ、生きているぞ、っていう証なんだ。だから、慧宙。僕のことを、忘れないで」

 蛮勇の戦士は、ここで散った。愛娘の斬撃によって……。奇しくも、彼が遺した遺産は、その凶器となった。

……まさか、鬱を書くことになるとは。


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