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Episode13:Chapter5 霊の戦い・第五節―――夢の終わり、それは現実の始まり⑤

「さらば、生涯の友よ」

 そう言って飛び立った槍をしばし見つめ、別れに悔いはないと、そう言うかのようにクルッと背を背けた会長は、スタスタと何かの縛りから解放されたかのようにアブホースの下へと向かっていった。その時のアブホースの表情は、よく見えなかったが、雰囲気からして会長に恐れを抱いていた―――怯えていたような感じがした。

 後ろから音をコツンコツンコツン……と立てながら迫りくる上位存在の恐怖。自らの今の姿の源流に在りし者(オリジナル)。あの光速の矢は、アブホースの力だけのものではない。姿形を模倣した時、彼女の力の一端をも模倣してしまったためである。

 会長の力―――“想像力”『邪神・祖虚空(アザトース)』は、この宇宙の外側のもの―――外宇宙の予想外物質(アウトサイドシング)たる“虚無”、あるいは“虚空”を内宇宙であるこちら側に顕現させる、という能力である。さらに言えば、この“虚無”あるいは“虚空”と呼ばれる物質は、恐らくながら質量がその名の通り「(うつろ)」―――つまり虚数質量の仮想物質(タキオン)の集合体であり、あらゆる物質よりも圧倒的に速い。

 その速度は光速を超えるものであり、あの天才物理学者であるアインシュタインが唱えた「相対性理論」を明らかに裏切る性質を持っている。そして、何故アブホースの『落とし子、空を征くスポーン・オブ・アブホース』が、光速に限りなく近づけたかと言うと、このタキオンの性質の一部―――「超高速で移動する」という性質が模倣されたからではないかと考える。

 長々と語ってきたが、要するに―――『落とし子、空を征くスポーン・オブ・アブホース』の光速に限りなく近い速度よりも速い、光速を遥かに超える速度を持つ攻撃が繰り出せる相手が迫ってきていて、戦慄している、ということだろう。

「クッ、クルナ! クルナァァ!」

 惨めに叫ぶアブホースだが、それでも会長の歩みは止まらない。どうにかして逃げようとするが、前は父さんの『人よ、黄の印を掲げよ(エルダーサイン)』で作られた空気の壁で、後ろは逃げる対象の会長が来ているため、逃げようにも逃げれない。その時アブホースは何を思ったか、急に自らの身体組織を引きちぎり、剣の形を作った。

「クックック……コレハ、オマエデモ、コワカロウ。―――シネ! 『落とし子、空を斬るスポーン・オブ・アブホース』!」

 繰り出される一閃。それはまたしても光速に限りなく近い斬撃。危ない! と思いつつも……何故か体は動かない。否―――動く必要がないと、無意識に判断したのだろう。一番近くにいる父さんでさえ、安心しきった表情を見せ、優雅に立ち尽くしていた。

 刃が届くまであと数センチ―――といったところで、一瞬だが剣が消える。それを見ると、会長は言う。

「すまない。君の剣を奪ってしまった。代わりと言っては何だが、これを受け取って欲しい………『虚無転送』―――『海神の威厳剣アメノムラクモノツルギ』」

 瞬間、先程とは逆向きの刃が、アブホースに突き刺さる。それはちょうど喉を断ち切り―――致命傷を負わせた。『虚無転送』―――久しく聞いていなかったが、そのような技もあったものだ。恐らく、前に発動したときとモーションが違うのは、何らかの形で会長の“想像力”に変化が起き始めている、ということを暗示しているのだろう。

「カ……ハッ!」

 吐き出すは赤色の血液ではなく、無機質な―――それでいて感情的な鉄色の液体。痛みを確かに感じている、生きている証。屈辱にまみれ、傷にまみれ、それでもなお足掻き続けるその姿は、見る人が見れば美しく、また違う人が見れば、ひどく痛ましい。段々と溶けていく―――元のアメーバ状の巨大生物としての姿に戻っていくその体は、今や立っていることもままならない。足先が、溶けていく。爪先が、ボトッと雫を垂らす。

「イヤ……だ。マだ―――キエたく、ナい。私には、ハタスべき、義務が、アル。ソレを、ハタサずして、キエていけるものか―――!」

 その叫び虚しく、(から)に散る。遂には灰色の金属的なアメーバ状の巨大生物へと成り下がったアブホースは……活動を、停止した。

 ―――そう思われた矢先のことであった。

 ゴポゴポと、声にならない声が会場中に響く。その刹那、アブホースは爆散した。

色々使っていなかった技を消化したい。

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