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Episode13:Chapter5 霊の戦い・第五節―――夢の終わり、それは現実の始まり③

まさかのあの人が?!

「―――ねぇ、アザトース。私のかわいい片割れの妹」

 (つや)やかな声に上品な言葉遣い。もし、あの神―――ウボ=サスラが普通の人間であったなら、憑かれた少女とは別の存在としてこの世に生を受けたなら、間違いなく私の母を超えるトップクラスの芸能人になっていたであろう。だがしかし、そんなモノは所詮「たられば」の話―――数多の可能性でこの世界に適応されなかった空想の残り(かす)である。

 今の状況はサイアクだ。絶対に近づけさせまいと、接触させまいと誰もが構えたその時、その場に片割れと呼んだもう一体の邪神が居たのだから。ウボ=サスラが探し求めた片割れ、最初にして全ての空間、時間が行き着く行く末。―――ウボ=サスラが言うには“虚無”という存在しているのか、していないのか定かではない物質―――否、概念を司る邪神。アザトース。その名も、空海無垢美。―――現代日本のエンターテインメント業界を先導する、今日における文化の英雄である。

「さぁ、私の下へお還りなさい。―――一緒に、この世界を喰い尽くしましょう?」

 腕を広げ、まるで抱擁するかのようなポーズを取る。……しかし、ウボ=サスラが待てども、会長は行かない。そればかりか、怯えた様子もなく、ただ単にその姿を見下ろしているだけである。軽蔑、侮辱、憐憫(れんびん)―――神に対して、不敬と言わざるを得ない感情のみがその場に渦巻いていた。

 その感情に気づいたのか、ウボ=サスラは怪訝そうな顔をして、

「あら? レディの誘いは乗るのが礼儀でなくて?」

 そう言って会長を睨んだ。しかし、会長もその圧力に負けず、反論する。

「……馬鹿な奴め。私が、人類を喰らうだと? バカバカしい―――寝言は寝て言え、世迷い言も程々に、だ」

 一触即発の空気が流れる中、当然のように緊張が走る。いつ殺されるかもわからない、油断ならないこの状況。誰も下手に動くやつは居ないだろう―――そう思った矢先のことであった。


「―――いい加減にしないか? お姉様が嫌がっているだろう。全く、神は人の心がわからない、とはよく言ったものだね」


 ひょろりとした細く、透き通った声が聞こえた。明らかに男性の声である。しかも、それはまるで耳の穴にピタリとはまるように慣れ親しんだ唯一の男性の声。―――私の祖、と呼べる人物の男の方、であった。それは―――

「父さん?」

「ああ、母さんも一緒だ。それに―――理沙もね」

 私の父―――横山楓徒(フウト)であった。いつもは家にいる時間がとても短い父だが、授業参観など、私達の大切な行事には、必ず来てくれていた事を思い出す。小学校の卒業式の日には、大事な―――それこそ作曲家としての人生が決まるかもしれない大事な仕事を、私達の成長を見ることと天秤にかけ、家族を選び、蹴ったのである。

 そして、この場に一家勢揃い、という状況である。余計、恐怖が増したかもしれない……。そう、私は思った。何故ならば、ここに会長の血縁たる私達がいるということがウボ=サスラにバレてしまえば、それだけで私達の人生はそこで完結してしまうかもしれないからである。それだけは絶対に避けたい。そう願うのは、何ら不思議なことではないはずだ。

 しかし、そう考える時間も決して長くはなく、すぐにウボ=サスラが口を挟む。まるで王が、自らの発言を遮った無礼者を、玉座の前へ連れ出すかのように。

「ちょっとあなた―――レディが喋っているのを遮るなんて……なんて礼儀のなっていない方なの?! ―――良いわ。さっき喋ったあなた、こっちに来なさい」

「喜んで。偽のご令嬢サマ(ファルス・レディ)?」

 ―――お父さん、本気なの?! そう言う母の声が小さく聞こえた。いつもは危機感のない母だが、今回のは流石にまずい、と感じたらしい。私も、それに同意見と言わざるを得ない。神に人間が逆らうなど、自殺行為も甚だしい。ましてや、神が狙っている人間の直接の血縁である。必然的に狙われないことなど、有りはしない。

「大丈夫、行ってくるよ。―――帰ってくるさ、きっと。生きてね」

 そう言って、一人の愚者は、神に向かって何の装備もなしに歩き出した。ゆっくりと、着実に、もし僕が死んでも、そこに証だけは残そう―――。そう思わせるような足取りで。重く、生を噛みしめるように、ただただ恐怖も絶望もなく。そこにあるのは―――一人の蛮勇。英雄足り得るかもしれないその圧倒的に愚かな身の程知らず―――されど自らの礼儀からくる、強烈な勇気であった。

 両者、相まみえる。その間には会長が挟まる感じとなっており、最早後には退けない。あまり私は父の“想像力”について詳しくはないが、どうにも風に関する能力らしいということは、父自身の口から聞いたことがある。もっとも、幼少期の頃の記憶なので、なんとも言えないが。

「さて、あなたには私と戦うもらう―――のではありませんわ。私の仔と戦ってもらうのです」

「ほう、それはそれは。どんな可愛いお子さんなのでしょうね」

 ゴポゴポと、何かが煮えたぎるような音が聞こえる。それは、空間全体を揺らし、何が起きるかどうかは、誰にも予想はつかなかった。

 瞬間、ドーンッという凄まじい爆発音が生じ、反射的に耳をふさぐ。音がやみ、目を開いてみると、そこには―――まるでスライムのような、あらゆる生物をごちゃ混ぜにしたかのような、名状しがたい姿をした生命体が、出現していた。

「さぁ、お殺りなさい。……私のかわいい子供たち」

戦闘開始―――。

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