Episode13:Chapter3/Side:ira 霊の戦い・第三節―――黙示録の戦《アポカリプス》⑥
バレンタイン番外編、いかがでしたでしょうか。多分、今年ももらえないです。同志よ……。
「グルアあゝあゝ!!!」―――またの名を……『666の獣』である!―――
そう宣言したるは、輝夜に似たナニカ―――自称『666の獣』である。周囲には、どす黒く、だがしかしどこか紅いオーラが漂っており、その『666の獣』の強さ―――脅威を物語っている。だが、その人智を遥かに超えている幻獣―――魔獣と言うべきか―――を相手にしても、決して怖じけず、真正面から向かい合うその天使の姿は、まるで「悪」と戦う「正義」を象徴するかのようで―――。
「……もう一度問う。あなた―――いや、貴様は誰だ。答えねば討つ。答えなくとも、神命に従い、悪を討ち滅ぼすまで!」
神―――自らの主たる者の命を守ろうとするは、まるで「忠義」の権化そのもの。他の天使など、肩を並べるのもおこがましい―――そう思わせるような“スゴ味”がある。
そして、その天使の問に、魔獣は答える。自らが何者であるか、その名のりをもう一度上げるために。
「アアあゝあゝ嗚呼……あゝあゝ! ―――グルあゝあゝ嗚呼アア嗚呼!」―――そうだな……。信じぬのも無理はないだろうて。なんせ、この我が降りたのであるからな。もう一度名を教えよう。それで最後と覚悟せよ。……我が名はサタン……もとい『666の獣』! 黙示録に記されし、この世界に破滅をもたらす人の悪意の結晶なり!―――
「……そうか。世界を焼き尽くさんとするか……ならば、この身、捧げてまで守るまで―――! 征くぞ、『魔術聖王の指環』……その美しき白銀の身を捧げ、新たなる希望の世界を開き給え―――。『第七十三番の天魔聖剣』!」
そこに舞い降りるは、一本の剣。その剣は、物理法則を無視して光り輝き、この雨天・曇天の中、煌々と光を辺りに撒き散らしている。柄が非常に特徴的で、七十二の歯車が噛み合い、廻っているが、その回転で得たエネルギーは膨大な量である。そして、その事実から導き出されるは、この辺り一帯を照らし尽くさんとするその光は、膨大なエネルギーの一端でしかないということである。恐らくだが、その生産された膨大なエネルギーはその剣の維持に使われているのだろう。先程まで猛威を振るっていた『魔術聖王の指環』は三春の指から完全に消え去り、そのかわりにこの剣が出現したということは、今までソロモン72柱として君臨していた悪魔は、ただのこの剣の維持装置に変化してしまったというわけか。……どれほどの性能を持っているのだろうか。全エネルギーを解き放てば、そこら辺の街一個、軽く吹き飛ぶくらいはあると予想される。
「ガルルルル……あゝアア嗚呼嗚呼!」―――良いだろう! 今の我は非常に気分が良い。どれ、少し遊んでやろうではないか。……其れは、大いなる宿命の刃。紅く染まるは王の血により。汝、総ての善を打ち倒し、我の覇道を進めるべし! 来たれ……『大罪の、紅き離反の剣』!―――
聖剣と対になるように上空から自由落下し、地面に突き刺さったのは禍々しいオーラを纏った一本の剣。あの『第七十三番の天魔聖剣』が「善の象徴」だとすれば、こちらの『大罪の、紅き離反の剣』はまさに「悪の象徴」と言えるだろう。この『大罪の、紅き離反の剣』という武器は、アーサー王伝説に登場する反逆の騎士が持っていた剣で、まさに「反逆という“悪”」を象徴するのにふさわしい武具だと言える。
両者、剣を持ち相まみえる。その目は、ターゲットを互いに絞り、他のものは、何一つ情報として入ってこない。そして、足を踏み込むと―――。瞬間、数メートル先に鍔迫り合いをしている彼女らが現れた。しかし、それは前座でしかなかったのである。その次の瞬間からも、神代の闘いは続く。目にも止まらぬ速さで、互いに剣を振り、剣を防ぐ。数分の後、両者、またしても構える。しかし、今回の構えはあらゆる構えよりも何よりも厳かで、神がかっていた。
「見事であった、獣よ。だがしかし、貴様は次の一手で降参するだろう! 喰らえ―――『神敵に送る、最期の剣』!」
エネルギー、全開放。見れば、輝きを更に増し、悪という存在そのものを滅する気迫がある剣が迫りくる。その輝きはまるで、末法の世から俗世を解き放つ太陽の光のようで―――。
「グラあゝあゝ嗚呼嗚呼!」―――良い! ならばこちらも全力で相手をしてやろうぞ、大天使ミカエルよ! 我が褒美、受け取れ……『神属に送る、最期の剣』!―――
今、ぶつかる巨大なエネルギーとエネルギー。その光景はまるで、終末そのものである。
そして、勝ったのは―――。
「降参せよ。さすれば命は助けてやろう、獣よ」
「グラあゝ嗚呼……」―――ハハハ! 良いねぇ。こういう構図、嫌いではないが……―――
天使であった。だがしかし、この獣、どこか様子がおかしい。まるでまだ諦めていないかのような、未だ欲望をたぎらせているような。
「あゝあゝ嗚呼あ」―――我にとっての、興がない。嫌いではないが、好きではないのだよ―――
「……何が言いたい? 貴様、それ以上抵抗するようならば、その首、飛ばすぞ。獣」
「あゝあゝ嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼あ!」―――何が言いたいか、と? それは、勿論決まっているだろう! ……こちらも、切り札を着る時が来たのだ。ミカエルよ。……心象風景『原罪の木になる怒りの葡萄』!―――
「しまっ―――」
まさかの心象風景の顕界。彼女の〈フェーズ〉は〈フェーズ2〉ほどだったのだが……。しかし、そう考えている余裕もない。すでに心象風景は完成しており、その全てが―――獣の思うがままなのだ。
そこは、楽園であった。全ての人類の始祖たる原初の人類アダムとエヴァがそこに住み、堕ちたとされる原初の地―――エデンの園。そして、中央には彼の有名な禁断の果実が成る木が。しかし、その光景も移り変わる。そこは地獄であった。全ての亡者が嘆き苦しむ地下の牢獄であった。そして、その地獄の中で、大天使は、罪人とともに沈んだのであった。




